希望の世界
扉の向こうの世界は、夢幻の情景とともに常しえの光に満ちていた。
――天上より吹きたる一陣の風が真実の牧草地を渡り、悔恨と諦念の浜辺を抜け、古の祈りが眠る大海原へ去ってゆく。
真理の光を注ぐ太陽は、幻惑の光を放つ月と戯れている。絶望の山々は雄々しく聳え、挑むものをことごとく拒み、艱難辛苦の谷は嘆くものをたぶらかす。
静かに佇む丘陵、生死を寿ぐ青空、悪徳を孕む黒雲、禍々しく誘う森林。試練の砂漠には無念の涙で出来た泉が溢れ、旅人の無慈悲な乾きを潤す。憎悪の渓流は慈悲の小川と合流し、太古の海へ達する恩讐の大河へ。
艶やかな豊饒は歓喜に歌い、紅蓮に盛る悪疫が猛り叫ぶ。蒼白とした狂気は悲しげに囁き、たおやかなる幸福が愉悦と踊る。
――それは希望の世界、誰もが訪れる静寂の世界。
その地に足を踏み入れると、世界の相貌は変化した。
――感情と想像が渦巻き、激しく移り変わる天候に息を呑み、鮮烈に輝く光と自然に目眩を起こす。
蠢く概念はいつも側にいる、そして、なにかを語りかける。しかし、その言葉は忘れられた言語であり、意味を理解することはできない。
移ろう感情の波に揺られ、心の焦点は定まらず、委ねられるままに朽ちてゆく。
――そこは永遠の地平、命の巡る最涯ての地平。
すべてがある世界から、すべてがない世界へ。果てのない大地で、ひとりとなった。
寂寞の地平で、何も分からず立ちすくんでいると、眼前に光が満ちて広がった。
光が存在を包むと、たぶん私はもうそこにいない。




