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神聖独劇  作者: さとう
第十四章――祈祷と叛逆
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逆らい貫け、天は怒り、罰を定める

 一人の男は疑問を抱き、考えていた。


 ――光無き信仰、醜い祈り、盲目の民、肥える権力者、標無き世界、失われた神聖、奴隷の鎖、腐った為政、そして、いと高きものである偉大な主の御名を悪用する支配の亡者ども。そこに渦巻くのは何か、おお、なんとおぞましいかな、金、性、誉……

 それに気づかぬ自己を放棄した愚鈍な民。そこに流れるのは何か、ああ、なんと悲しいかな、命、生、虞……。主は何故このような愚物たちをのさばらせるのか。

 私は長いときを見守って来たが、世は腐敗の一途を辿るばかり。偉大なものよ、あなたは本当に御空で見守られているのでしょうか?

 私は我慢ならない、衰頽する世界を何もせず見送るのを。格差のある世界が、歪んだ社会が、見えない鎖に引き摺られ無様に命が奪われてゆく様が。

 主が存在せぬのなら、私は私の意志に従い、自分の光を信じ、行動していくしかない――


 男は信仰から生じる不条理を訝しみ、行動を始める。


 ――虐げられた盲目の人々よ、立ち上がるときが来た。命を貪る鎖を断ち切るときなのだ。反旗の拳を振り上げ、平等と平穏の鉄槌を、肥えた醜い顔に沈めるのだ。彼らの云う主は、天の意志はもとより存在しない。

 存在するのなら彼らこそが罪に苦しめられるはず。しかし、罪に苛むどころか、優雅に、贅を凝らした生活を営む。おかしいと思わないか? 偉大な主が支配するのなら、我らは皆平等に幸福を享受できるはず。腐敗した為政者はその御名を悪用し、一方で豊かに、一方で貧しくなるばかり。

 ここで、私の命に賭け誓おう、偉大なる主は存在しない! 見えない鎖、束縛の呪詛、隷属の象徴……主は存在せず、見えざる支配の魔法にすぎない。主がいないのなら、罪もあるはずが無い。主を、為政者を、罪を恐れるな、今こそ、自由と幸福を手にするときなのだ、さあ、立ち上がれ、盲目の人々よ――


 民衆の集う場所で、男は高らかに声を放つ。厳かな口調、威圧的身振りに、人々は耳を傾け、目を見開き始めた。人々は言葉に迷い、ざわめく。男は言葉に酔い、神聖を否定する。

 そうした日が七日続き、八日目のことである。輝く光が東から昇り、闇を西へと追い払う時間、天より高く澄んだ鐘の音が響き、同時に、光と闇の狭間が割れた。

 割れる空、そこから輝ける深淵は男を見た。默す深淵に男は戦慄している、見えない恐怖が彼を覆っていた。

 暫しの後、輝くものは語り始めた。


 ――否定する者よ、私はここいる。ここに顕れた意味を感じ取っているだろう、お前は罪を犯したのみならず、神聖は無いと謳い、剰え、私の存在を無いと吠えた。

 罪は抑止の為に定めたもの、破らぬと人を信じ、一切の仕置きは定めなかった。だが、貴様は破った。ここで罪に対するもの、罰を定め、お前を戒めとし、今ここに裁く――


 天がかく云うと、裂け目から巨大な御手が現れ男を握り締めると、そのまま深淵へ引きずり込んだ。男はこれより幾億もの年月を昇り、落ちて行く。

 そして、時間が罪を浄化し、天落の罰を終えると、彼は罪と罰を知る道標となって再びこの世に産み落とされることになる。

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