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神聖独劇  作者: さとう
第十一章――夢幻人
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神性喪失

 空と海が交わる彼方を眺めていた。凪の浜に独りで佇む。砂浜に腰を下ろし、波の音を聞き、遠く水平線の彼方をぼんやりと眺める。


 心臓のあたりを少し掻くと、そこが砂となりさらさらと零れ出した。ゆっくりと失われる肉体、拳ほどの大きさの穴がぽっかりと胸から背にかけて穿たれた。それでも変わらず遠くを眺める。

 今度は左腕の肘をぼりぼりと掻くと、そこも胸と同じように砂となり崩れ始めた。関節部分が砂浜に消えると肘から下がごとりと落ちた。落ちた左腕は形を保っている。気にせず水平線を見つめる。

 潮が満ちてきた。少しずつ水位は上がるが動く気はない。潮が満ち、波は足を洗う。波の揺り返しに左腕を持っていかれたが、そんなことはどうでもよかった。


 かつて私は、見つめる先の世界の住人であった。僅かに残る甘い記憶は今も焼き付いて離れない。

 あの世界には永遠があった。歓喜と狂騒が踊る素晴らしき杯に酔った日々、時の無い世界に宴の終わりは無かった。

 そこでは事象を越えた超自然が支配していた。繰り返される一日の中で、私だけがそれを意識できた。それを口にしたとき、見えざる傍観者に魂を鷲掴みにされ、地上へ落とされた。

 初めて負った罪は背徳と裏切り、一度きりの罰は追放と寿命。繰り返しの世界を追われた今、時間は命を奪っていく。


 心に去来しているのは懐かしい匂い、言葉、温もり。この記憶にどういう気持ちを持てばいいのかわからない。意識が芽生えたときから楽しむことしか知らず、泣くことが出来ないのだ。

 また、理由も分からずただぼんやりと水平線を見つめるのは、喪われた過去を求め、救いが来るのを信じているからだ。

 左の肩に虫が止まった。叩き払うと触れた箇所があっという間に砂となり、残った上腕も落ちてしまった。

 肉体の喪失が大きくなるが、それに対する感情は何もない。もう時間が無いのだなと、そう考えるだけだ。

 太陽が海洋へ沈む、凪の浜にそよそよと潮を孕む風が出てきた。潮風に吹かれると私は砂に還った。

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