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神聖独劇  作者: さとう
第八章――光
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始原の孤島

 そこは原始の世界であった。科学は存在せず、宗教は根源的で一人の主による必然ではなく、自然に存在する偶然を敬う。進化論を放棄した独自の生物が闊歩し、異形の植物が乱れ、爛れた蟲たちが蔓延る密林。未開の島に宿る原始の神、それは彼らを含めた自然そのもの。


 私たちの価値観から遠く離れたこの絶海の孤島に、空と海が常しえの愛を誓う水平線の遥か彼方から太陽が昇る。だが、深い島の内部まで光が射すことはない。

 暗い森、鬱蒼と茂る茨、そそり立つ絶壁、険しき山々を越え、島の奥深くにあったのは、骨と化した牙むく獣。奥に見える、大きく抉られ、暗黒が広がる洞穴を守っていたかのようである。その内部に進むと、古代人が暮らしていたような形跡が残っていた。さらに進むと、壁一面に巨大な叡智が描かれていた。最古の人が残した真実の景色なのだろう。

 極彩色は色褪せることなく残り、風雨にさらされなかったためか、人の表情がはっきりとわかるほど保存状態は良好である。しかし、人の表情は読めても、この記憶の意味まではわからない。わかることがあるとすれば一点、なにか特別な人がこの地に降り立ったということだけである。

 そこに描かれた人物だけ、中空に浮いており、白く輝くような塗料で塗られている。同じ塗料で塗られているのは他に、一番高い場所に描かれた太陽とおぼしき球体のみである。これは一体なにを示しているのか、興味深いことだが、このことに関する手掛かりは少ない。


 太古の遺伝子を寿ぐ原始の民がいる。暗き森林に響く陰鬱な雄叫び。祭りの火に歌う土人の歌だ。なにを祝うのかは知れない邪教の宴。贄として捧げられる生者の臓物を取り出すとき、宴は最高潮に達し、純粋なる陶酔に溺れ狂っている。

 古き人たちの末裔である彼らの歌に、この壁画の意味を見いだせるのかもしれない。だが、ここの言語は文字を持たず、言葉しかないゆえに、解読するのは私一人では難しい。邪な祭事はよく催されいるようだが、いつも狂った様子しか見せないので、祭りにどんな意味があるのか知りようがない。

 もし、この意味を解き明かしたなら、この孤島に起こった古の叡智は蘇り、私はすべての由来を、名を、忘れられた時間を呼び起こすだろう。それは、世界究明の一端となる。不可思議な世の始まりと言われる、名も無き島。ここにすべてがあるのではと期待している。


 太陽が島の真上を横切る時、顔を背けると言われる堕落と放埒の地。外より来たるものなどいない未開の島に始原の闇はいまだ存在する。同時に、闇より現れる悪意は自然を介して島を満たす。

 空は不安を彩り、風は不浄を運ぶ。山は憂鬱を誘い、雨は背徳を齎す。海は悪夢を孕み、霧は悪疫を撒く。谷は悪徳を祈り、雹は悪辣を祟る。

 狂気に満ち溢れる最果ての地。輝くものなどない。時の流れも見捨てた、太陽の光も届かない最果ての島。ここから私の希望が始まる。

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