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神聖独劇  作者: さとう
第一章――神の啓示
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孤独な進化論

 ガタガタと揺れる。電車は走る。男は窓側の席でぼんやりと、流れる景色を見ている。窓に人影が映り込むのに気がついた。振り返るとみすぼらしい男が座っていた。顔は深く被った帽子でよく見えなかったが、口元の皺からしてそこそこ年をとっていると思った。

 ぼーっと年老いた男を見ていると、その老人は語り出した。

「私たちは遥か昔、数億年を越える昔に、一であり多数の小さな命の群れから始まった」

 何を言い出すのかと男は訝しむ。

「共存・共生や競争・淘汰を幾度も繰り返しながら、独立独歩の道を歩みだそうと己の棲める場所を目指し天に伸び、地を這い進化をしていった。その過程で個は協力の必要性を知り、個の時代から集団の時代へ移ってゆく。時を隔て人が生まれると、彼らは社会というさらに規模の大きな概念を作り上げた」


 老人はたんたんと話をする。

「進化とは個だけでは成しえない、協力があってこそのものだった。しかし今、人は社会という枠組みの中で、また、個に立ち返っている。己の存在を求め合った昔の個とは違う。今度は密接になりすぎた集団からの脱却を願い個を求める。だがそれは叶わない。それなら孤になろうとし、結果、孤独な群衆になっている。こうした現状は進化を放棄したことに他ならない」

 飛ばした論理や気になる点もあるが男は口を挟むことをしなかった。

「進化の放棄はすなわち、自己と外部、人と宇宙の閉塞に繋がる。始原への収束とは違う、堕落と終焉への道だ。進化の持つ意味は未来、ひいては宇宙にある。つまるところ、精神と物質を超えた根源の解明にあるのだ。それらは協調・協力なくしてはありえない」


 さらに論理の飛躍は加速する。

「私たちは宇宙という母体、地球というゆりかごの中に守られ生きている。その中で成長し、いずれは旅立ち自立しなければならない。進化の放棄は成長の放棄と同じだ。我々は大人に成長しなければ未来は崩壊する。我ら人の精神は未だ子供なのだから。加えれば悪意を持った子供なのだ。そのような悪と孤独な群衆から脱するには、協力の輪を広げ、成長し、進化の道を歩まなければならない」

 年老いた男は話を終えた。あまりにも突飛な論理に男はついて行けず、少し混乱している。少し落ち着くと彼は問う。

「進化とは、何を目指しているんですか? 僕ら人はこれで完成していると思います。確かに精神の未熟さもありますでしょうが……」

 老人は答える。

「その未熟さを征服するのだ。深い内省にも限界がきている。我々が進むべきは精神の解放、他者をも巻き込み全てを一にする。そうして統一された意識は世界を変えるだろう」


 男は口をつぐむ。言われたことを反芻し飲み込んでいるようであった。電車が止まった。老人はすでに降りていた。男も立ち上がり後を追うも、出口は光を放っていた。彼が光を潜ると世界は閉じた。

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