CASE.019「レッツゴー執行!」
ご覧いただきありがとうございます。
いよいよエリオットVSドゥーの戦いが開始します!!
だが行く手にはあの者達が立ちはだかる……
※本作はカクヨム、小説家になろう、アルファポリスにも掲載しています。
開幕の一撃。
ターゲット、エリオット・レインフェルの一撃を読んでいたドゥーはそのまま十八番の『黒凪』――あの黒い波紋上のカウンター技で見事にエリオットの初撃を跳ね返した。
だがそれはエリオットのではなく、彼の上空すれすれを通過するに終わった。
「先輩、大外れっス。遠くにぶっ飛んだだけで、ターゲットまだピンピンしてますよ。エイム力どうしたんスか。目腐ってんスか」
(うるせえなぁ……)
馬にまたがりながら、ドゥーはここぞとばかりにぐちぐち宣うミラに辟易していた。
切りたくても、ミラの声を遮断する機能は少なくともドゥー側には存在しない。そもそもドゥーにイヤホンを切る権限はなく耳部に密着しているので、取るなら『グレイプニルMK2』ごと引き剥がさなければいけない。
当然、そんなことをすればヘパーとカイから無数の拳骨と叱責が飛んでくるだろう。
何故イヤホンはこちら側から切れないのか。帰ったらヘパーに頼み込んでみようと、ドゥーは意識を遠くへ向けていた。
「直撃させても良かったが、んなことしたら被害が四十万どころじゃなくなるぞ」
「……むむむ、確かに……」
ドゥーは今、魔王軍の先頭に位置しており、絶賛猛進中だ。
先頭にいる理由はもはや説明不要だろうが、一応説明しよう――対エリオットの配置だからだ。
手ごろな軍勢で強襲すれば、エリオットが一撃を見舞わんと姿を現すことを読んでのことだ。
そして予想は的中。報告とは異なる魔法だが、本来ならばこの魔王軍五万が一撃で消し飛びかねない威力の魔法を放ってきた。
それをドゥーは、アバドン・システムを起動させ、ケイン・アッキネンの猛攻を防ぎそのまま仕留めたあの技――黒い波紋のカウンター技『黒凪』を繰り出したのだ。
魔法の威力はすさまじく、ケイン・アッキネンの連撃をたった一発で上回るエネルギー。
それをそのまま倍の力で返すとなると、ケインどころかその後ろにいる勇者軍が直線的に消滅する。
RACの規定上、ターゲット本人以外の非敵勢力を害することは減点対象――任務成功に傷をつけてしまう。きっとミラにとっても自分にとっても、良いことではない。
それに輪廻庁は現在進行形で、エリオットのせいで大忙しらしい。ここでさらに魂を開放すれば、きっと、いや十中八九やっかみを受けることになる。
だからこそ、ドゥーは敢えて上空に向けて受け止めた膨大なエネルギーを反射したのだ。
とはいえ直撃は免れたものの、類まれなる技量でエリオットごと勇者軍前衛を吹き飛ばすことはできた。これなら魔王軍は無防備となり果てた勇者軍本陣に遠慮なく突貫できるはずだ。
「ドゥー殿ぉッ!!」
話しかけてきたのは一個後方の黒ひげの大柄な戦士。
名は『バンブードン将軍』――魔王軍で生き残る数少ない将軍の一人だ。
「見届けましたぞぉ、其方の御業ッッ!!」
興奮気味の様で、目が血走っている。
「それは何よりで……」
「ご命令を! 我々は貴方の命に従えと魔王様から仰せつかっている!! 存分にこき使うといいッッ!!」
死地への突撃だというのに、将軍はこれから勝ちに行くかのような面立ちだ。
いや、彼だけではない。他の兵たちも、一人一人がまだ勝つ気でいる。一人でも多く葬り、母国の安寧を願う。そんな戦士の顔だ。
馬たちにもその熱烈な志が伝わっているようで、かれこれ半日走りっぱなしだ。
ターゲット周りの厄介払い――いや、戦力としては申し分ない士気と戦力。
では、お言葉に甘えてこき使わせていただこうではないか。
「全軍、作戦通り五つに分かれて散開。中央以外を好きに突撃しろ。エリオット・レインフェルは俺が貰う」
「了解したぁッ!! バンブードン部隊ッ!! 死に急ぐ者から我に続けぇッ!!」
バンブードン将軍の号令でみるみる魔王軍は五つの軍勢に分かれると、勇者軍本陣を取り囲むように散開し、あちこちで同時に突撃を開始した。
「なんで中央は行かせないんスか?」
「俺一人の方が“効率的”だからだ」
「あーね、たしかに“効率的”っス」
しばしの間馬を進めると、頃合いで止め、馬から降りる。
馬の尻を二回ほど叩くと、その馬は元来た道へと走り去ってしまった。
「……それで、ターゲットはどこ行った?」
目の前には武器を構え、勇者軍の兵たちがドゥーを迎え撃たんと立ちふさがる。
「えーと、前方140メートル先っスね。微動だにしてないので、まだ伸びてるんじゃないっスか?」
「了解……それで、こいつらの処遇は?」
「えーとですねぇ…………ちょっと分からんス。カイ姐~?」
ドゥーが一歩前進すると、勇者軍もまた一歩前進する。
もはや衝突は避けられない状況だ。
「貴様ッ!! 何者だッ!!」
奥から出てきたのは赤茶髪の女騎士。紋章を腕に付けているところを見ると、副官か隊長辺りだろうか。
「私の名はソイルッ! グランド将軍閣下の護衛隊長である!!」
高らかに名乗る女騎士はさておき、ドゥーはカイの返答を待つ。
「は~いドゥー? 作戦はうまくいってるようね♪」
「どうも、カイさん。随分お酒が回っているようで(何してんだ)」
「んふ、余計なお世話様♪ この場合の取るべき行動を解説するわね」
「おい貴様ァッ!! 聞いているのかッ!!」
カイは、すこし酔いの回ったようなへべれけ口調で簡潔に説明をする。
「規定では“非敵勢力”への危害は非推奨とあるわぁ」
「“非敵勢力”の定義は?」
「こちらの任務の弊害とならない者よ」
「……ではこいつ等は?」
「ふふん、当然――邪魔者よね」
答えは得た。
ならば話は早い。
「ゴーゴー先輩! レッツゴー執行!!」
邪魔する者は例外なく――殲滅だ。
ソイルと名乗った女騎士への返答もなしに、ドゥーは即座にブレードを抜き、急速前進する。
「な、貴様ッ!!」
この世界の強さの基準はいまだ不明。
しかしドゥーの速度は“勇者”とやらのそれを遥かに凌駕することは、ギルベルト情報により自覚している。
「ソイル様ッ!」
「隊長ッ!!」
「ドータッ!! ダンゴッ!!」
ソイルとドゥーの間に二人の兵が割り込む。
だがそれも束の間、まるで豆腐を斬るかのようにドゥーは兵二人を一刀両断する。
「……は?」
目の前で戦友の上半身が血しぶきを上げながら飛び交い、理解の追いつかない声が震える唇からこぼれる。
彼女の混乱が収まる前に、また次の兵たちがドゥーへと突貫する。
「邪魔だ」
「ぎゃ――」「げッ――」「この――」「ぎゅっ――」と、声にならない嗚咽が連続した。
ドゥーは兵を一人、二人と、一人一薙ぎで次々と両断していく。
今初めてこのボロ――ANUBISの切れ味を実感している気がした。
パンッ、パンッという、およそ人を斬る音ではない異音が連続で鳴り、そのたびに戦友たちの臓物が飛び交うという想像を絶する光景。
その異常たる景色に、ソイルは思考を再開させ、今更ながら最高潮の警戒態勢に入る。
「な、なんだコイツは!?」
「ソイル様ッ!!」
(これはッ!まずい――)
「お前達下がれッ!」
正体不明の黒装束の異常な強さに怯えながらも、ソイルの一声で兵たちはいそいそと後ずさりする。
兵たちが十分下がった所で、彼女は直剣を勢いよく土に突き立てた。
(まずは足を止める!)
「大地の母よ、我に力を与えたまえ――隆起せよ『土女神の抱擁』ッ!!」
するとドゥーの左右の大地が隆起し、そのままサンドイッチのように挟み込む。
「…………」
「今だお前達ッ!! 叩き込めッ!!」
即座に接近戦は分が悪いと判断したソイルは、敵を土魔法で拘束。
そのまま周囲を囲んだ魔導士たちが、各々の最高火力の魔法を次々と叩き込んだ。
炎、水、雷、土、風。色とりどりの魔法が同時にドゥーを襲い掛かり、間髪入れずに凄まじい爆裂が戦場に広がった。
しばらくしても反撃の様子はなく、ソイルは剣を下ろし鼻を鳴らした。
(フン……何かと思えばこの程度か。それよりエリオット殿はどこに――)
ソイルが土魔法で拘束し、周囲の部下達が魔法を叩き込むという、数々の魔王軍の強者共を葬ってきたテンプレ戦術。
魔王軍の将軍級をもってしても、これを喰らって生きながら得たのはごく一部。無傷で脱出できるのはあの魔王くらいだろう。
しかし、安心したのも束の間――無数の斬撃が四方八方に降りかかった。
「……ッ!?」
黒装束を挟み込んでいた大地がサイコロカットで細切れになり、飛び交う魔法、さらにそのまた後方の取り囲んでいた魔導士たちごと全方位を斬り払う。
「な――」
「ぎゃっ――」
「ぐあっ――」
「ソイルさ――」
目にもとまらぬ一気呵成の剣技で、ドゥーは容赦なく己を阻む者達を処理する。
やがて大地が完全に崩れ去り、魔法が飛ぶ気配がなくなった頃。ドゥーの周りには肉片と化した敵勢力と、戸惑いと恐怖で顔を歪ませるソイルだけが残されていた。
「き……き、貴様……一体何者だ…」
「状況は?」
「ういっス。現在、バンブードン将軍率いる一万の兵が勇者軍の横っ腹に突貫を仕掛けた模様。それに続いて他の隊も同時に仕掛けたことで、勇者軍の対応が著しく遅れているっス」
「了解。ターゲットは?」
「依然として前方130メートル付近で沈黙――ん、いやちょっと動いてる?……誰かが運んでるみたいッスね」
そうとなれば、ここで長居をしている暇はない。
目の前の女騎士は一向にこちらへ攻撃してくる気配がないので、そのまま無視して先に進むことにする。
だがドゥーが歩を進めたその直後、上空から大声と共に矛が飛んできた。
「上空に敵性反応!」
「だっしゃあああああッッッ!!」
「――ゼノッ!?」
後ろに髪を束ねた灰髪の少年兵の上段撃。
それをブレードではなく、片腕一本の素手でドゥーは受け止める。
強烈な金属音と共に衝撃が反響し、ドゥーの足元の地面がバキバキと大きくひび割れるが、ドゥー自身は至って無傷である。
「…………」
「――マジかよッ!」
渾身の不意打ちがいともたやすく受け止められ、ゼノは空中で器用に体勢をずらしドゥーの顔面に蹴りを入れた。
だがそれすらも、剣のような得物に容易に阻まれる。
その異常な硬度に衝撃が足へ跳ね返り、ビリビリと痺れる感覚に襲われる。
「固ッ!?」
「ゼノ!」
再度ドゥーの左右から大地が迫りくる。
二度も喰らう必要性を感じられないため、ドゥーはブレードの一振りで魔法を薙ぎ払った。
その隙をつき、ゼノは矛を引き剥がして間一髪で後退することに成功する。
「フーッ、フーッ、あっぶねぇ……ッ!」
「大丈夫か、ゼノ?!」
「姐さん、恩に着るぜ……ありゃあナニモンだ、マジで」
この期に及んで一切怯みを見せないゼノの姿に、ソイルは少しだけ落ち着きを取り戻していた。
脳筋の戦闘狂だが、こういう時に大いに精神的支柱となる。
だが依然として状況はさほど変わらない。
たった十数秒の戦闘で戦友たち二十五名が両断され、残りの兵たちも怯え切ってもはや得物を下ろしてしまっている始末。彼には悪いがエリオットに次ぐ最強の勇者候補生と名高いゼノの登場をもってしても、大きな戦力差を感じていた。目の前の敵はそれほどの脅威だということだ。
「気を付けろ、ゼノ。アレは怪物だ。それこそエリオット殿と同じ類の…」
「ハハハ、だろうな。さっきから足の震えが止まんねえよ」
真っ二つにするつもりで繰り出したはずなのに、地面へ少しだけ沈ませるのが関の山だった。
矛から伝わる感触で、長年の経験によりゼノはその者の戦力を見極めることができるのだが――それが裏目に出るとは思いもしなかった。
(山……矛の感触がマジで山みてぇーに固くて重ぇ…! それにあの剣……ヤバいくらいの硬度だぜ。刃で受け止められてたら足チョン切れてたぞチクショウ……)
未だに蹴りを入れた足が痺れる。
まるで鋼鉄の極大塊を素足で蹴った時の感触だった。
「おいテメエ! 俺の名はゼノ、エリオット隊の一番槍だッ!! てめえも名乗りやがれッ!!」
「――エリオット隊……?」
回復を図るための時間稼ぎ。己の名を叫ぶことで、わずかでも回復の時間、エリオットが再起するまでの時間を稼ぐつもりだ。
(あの者に名乗りなど通用するのか…?)
先ほど自身の名乗りを完璧に無下にされたことで、ソイルはいまだ緊張がピークに昇ったままだ。神経を極限まで張り詰め、敵の一挙手一投足を見逃さない。
だが無言を貫いていたドゥーは、ゼノと名乗る少年兵の言葉にぴくりと反応した。
「……お前、エリオット・レインフェルの何だ?」
「!」
(喋るのか…!)
冷徹で無機質な男の声だった。
心を持たぬ殺戮人形、そんな第一印象。
赤いモノアイがブゥンと揺らめき、その身をすくむような圧にゼノとソイルの額へ汗が滝のように流れ始める。
「あぁ!? テメエ、端からあのバカ狙いか!!」
「な、何が狙いだ貴様ッ! それにこちらが名乗った以上、そちらも名乗るのが礼儀のはずだッ!!」
「…………」
そんな礼儀など知ったことではない。
興奮気味の二人に話が通じていないと考えたドゥーは、再度言葉を変えて尋ねる。
「質問を変える。エリオット・レインフェルを差し出せ。さすればお前たちの命だけは助けてやる」
「「!!」」
予想はしていたものの、堂々たるその態度に二人はまた一歩後ずさる。
「テメエ……どういうつもりだ!!」
そんな質問をしなくても、この赤いモノアイの意図は明確だった。
それは己の命の担保として、エリオット・レインフェルの身柄を捧げろという、傲慢に満ちた提案である。
だがその傲慢さも、この実力差なら十分に頷ける。
(もはや敵としても認識されていないのか…………舐めるなッ!!)
「ふざけるな貴様ッ! 己が戦友をどうぞと差し出す馬鹿がどこにいるッ!」
正直勝算は皆無だ。
自慢の魔法も戦術もたった一薙ぎで払われ、仲間たちの渾身の魔法でも傷一つない。
普通なら脱兎のごとく戦力的撤退を図るところだが、今は戦士としての誇りが、勇者軍大将軍護衛隊長としての矜持が彼女に退かせることを許さなかった。
「言うねぇ姐さん! そういうこった赤目玉ッ!! 仲間を売るほど俺らはクズじゃねえってこった、ボケがッ!!」
「……そうか」
まあこうなるだろうなと、ドゥーは無駄なやり取りだったとため息をつく。
だがこういった者を放置しても、しつこく蠅のように付き纏ってくるだろう。いずれ障害となる可能性があるのならここで始末するのが得策だ。
ドゥーはブレードを構える。
それに反応し、ソイルとゼノも構えを取った。
「来るぞ、姐さんッ! 俺が突っ込むから合わせてくれ!」
「あぁ、私が後方から魔法で援護しよ”う”ぁ”――」
「――姐さん?」
剣を構えたのも束の間、ソイルの視界が上下逆さまになる。
掠れる視界の端から、ゼノの絶叫が聞こえた気がした。
「姐さんッッ!!!!」
「では、死ね」
目を離した刹那、すでに赤いモノアイは目の前にいた。
目と鼻の先、完全に奴の得物の間合いである。
「くそがぁぁああああッ!!」
半狂乱のまま、ゼノは得意の矛術でドゥーへ突っ込む。
矛を回転させながら縦横無尽に振るい、暴風じみた連撃を叩き込んだ。
だが、その全てが得物一本で軽々といなされる。
(当ったらねぇぇええ!!)
ガガガガッ――と凄まじい金属音が連続で炸裂する。
生じた風圧だけで、周囲の瓦礫や装備、果ては転がる死体までもが台風に巻き込まれたように舞い上がった。
圧倒的な殺陣に周りの兵たちは立ちつくすことしかできない。
ただひたすらに、ゼノの勝利を祈る。だがそのわずかな希望も、目の前の光景が残酷にも現実を突き付けてくる。
明らかに攻め立てているのはゼノの方。
にもかかわらず負傷しておるのは彼だけだ。ゼノの全身に一方的に斬り傷が増えていく様は絶望としか言いようがない。
頬が裂け、肩口が抉れ、脇腹に痛々しい切傷が何重にも重なる。
防御の合間合間に、ゼノの矛を遥かに上回る速度でブレードに体を斬り刻まれていることを、ゼノ自身も辛うじて認識していた。
縫うように連撃の隙間から一太刀が、的確無比に差し込まれている。
技量だけでこれほどの実力差があるのかと、ゼノは生まれて二回目である戦慄をする。
「ハァ……ハァ……チッキショオオオオッッ!!」
「……」
その瞬間、パァンッ――と何かが破裂するような音が響いた。
ゼノは、先ほどまで鉛のように重く感じていた腕が急に軽くなる感覚に困惑する。
「あ……?」
否――軽くなったのではない。
両腕が、そっくりそのまま斬り飛ばされていたのだ。
一拍遅れて断面から鮮血が滝のように噴き上がる。
何が起きたのか脳が理解するより先に、視界が大きく揺らぎ、膝から力が抜けていく。
矛が地に突き刺さる音だけが、やけに鮮明に耳へ残った。
「……すまねえ……エリオッ――」
―――――――――
「~~きて!!」
誰かの声が聞こえる。
「~ット~~きて!!」
悲痛の叫びにも似た、親しみ深い女性の声。
それが徐々に輪郭を帯び、頭の中で木霊する。
「エリオット起きてッ!!」
「――ハッ!」
「あだッ!」
エリオットが飛び起きる。
上体を勢いよく起こしたことで、おもいっきりミークとおでこをごっつんこしてしまったようだ。
ミークは痛そうに、涙目でおでこを擦っている。
「良かった、エリオット……」
「ロッテ……ミーク……ここは?」
目の前には心配そうにこちらを見つめる二人と取り囲むソイル隊の兵たち。
辺りを見渡すと、至る所で炎が舞い上がっており、まさに戦線ただ中の状況だった。
エリオット達の場所、そこだけが綺麗に空けてあり、それを囲む形であちこちで戦闘が勃発している。
「どうなってんだこれ……」
「魔王軍の特攻ですよ」
そうだったと、エリオットは思い出す。
五万の魔王軍の特攻。
それを打ち砕くべく、自身の信頼を置く魔法で打って出たはずだった。
だがその魔法は何者かの魔法で阻まれたところまでは覚えている。
「状況を説明しますね」
ミークはエリオットの頭に包帯を巻きながら、この阿鼻叫喚の戦況の詳細を語った。
「信じられませんが、何者かの魔法がエリオット様の魔法を受け止め……その、まるで反射するかのようにそっくりそのまま魔法が跳ね返ってきました」
「僕の魔法を……反射……」
「直撃は免れたものの、前線は崩壊。エリオット様はその衝撃でここまで飛ばされたのですよ」
「そう……なのか。うぐっ――」
どろっとした赤い液体が視界を遮り、エリオットがそれを手で受け止める。
血だ。赤黒い、人に流れる潤滑油。
この世界に来て、正真正銘初めての流血だ。頭に慣れていないズキズキとした痛みが襲い掛かる。
「おそらく頭を強く打ったのでしょう……防御魔法のおかげで致命傷は免れましたが……」
「……勇者軍は今どうなってんの?」
「それが……」
ミークは気まずそうに目を逸らした。
「魔王軍は五つに散開。それぞれが我々を取り囲む形で特攻を仕掛けたようで……。あの衝撃波で体勢が崩れた直後のため、かなりの総崩れとなっております……」
「…………なんだよそれ…」
「ねえエリオット」
ロッテがエリオットの手を握った。
「ここから逃げよ! ね?」
「ロッテ……?」
「あなたは勇者でもない……戦士でもない……今はただの流浪の旅人。あなたがこれ以上この戦争に関わる必要なんてないの!」
「何言って――」
「私も賛成です、エリオット様」
ミークもまた、ずれた眼鏡を直すことなくエリオットの目をまじまじと見つめる。
「どうやら前線の方でとてつもない化け物が暴れているらしく……おそらくエリオット様の魔法を阻んだ張本人でしょう」
「だったらなおさら僕が退くわけにはいかないだ――」
「――いえ、今の貴方は先日の疲労もありこの有様。ここは万が一に備え、退くべきです」
エリオットは頭痛が響く頭をぐるぐると回転させる。
今の勇者軍の状況。
魔王軍の散開攻撃。
そして己の魔法を跳ね返した何者かの襲来。
この場における“最適”を、彼は今まさに見出そうとしていた。
「ゼノは?」
「前線の方に残ったわ。でも大丈夫。あのバカ強いもん。そうでしょ、ミーク?」
「はい。彼は大馬鹿ですが阿呆ではありません。身の危険を感じれば、尻尾巻いて逃げてくるでしょう」
「そっか……」
エリオットはよろよろと、二人に支えられながら立ち上がった。
たしかに、この戦争は北方戦線を抑えた時点で勇者軍の勝ちが決まったようなものだ。
その謎の敵というイレギュラーが湧いたとしても、勇者軍の王手は揺るがないだろう。それに、今後その敵と相対することがいつかきっと――いや、十中八九ある。
ならばここで取るべき最適解は一つだけだ。
「そうだね。ここはとりあえず逃げ――」
その瞬間――ミークの後方が弾けた。
大地が割れ、爆発したように四方へ飛び散り、土煙が勢いよく舞う。
かろうじてエリオットの目には、何かが降ってきたことまでは見えていた。
そしてゆらりと、煙の中で揺らめく赤い光を見据える。
「今度は何よ!?」
「エリオット様! お下がりをッ……!」
ロッテとミークは、身を挺してエリオットの前に出る。
彼ら越しに、エリオットは飛来してきた何か、その赤い光の正体をその場の誰よりも早く理解した。
「ターゲットを発見。これより執行を開始する」
【今回の用語まとめ】
■バンブードン将軍
魔王軍で生き残った数少ない将軍の一人。
ドゥーの作戦に従い、魔王軍を五つの部隊に分けて勇者軍本陣へ突撃させた。
■黒凪
ドゥーが使用したアバドン・システムの応用技。
黒い波紋で攻撃を受け止め、反射するカウンター技。
今回はエリオットの《水砲》を上空へ逸らした。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




