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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-2「エリオット・レインフェル編」
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CASE.013「マルバスター王朝」

ご覧いただきありがとうございます。

引き続きエリオット視点です~!


※本作はカクヨム、小説家になろう、アルファポリスにも掲載しています。

 マルバスター王朝は、遠目に見ても異様な国だった。


 山脈を背に築かれたその巨大城塞は、もはや“王都”というより一つの兵器に近い。

 幾重にも重ねられた外壁。空を裂くように林立する見張り塔。城門前には鉄と石で築かれた殺風景な防衛線が伸び、街道には軍馬と荷車と武装兵の列が絶え間なく行き交っている。

 そこにあるのは華やかな王都の賑わいではなく、戦時国家特有の殺気と緊張だった。


 魔王軍最前線。

 勇者軍の最終拠点――マルバスター王朝。


 その名に違わず、街の空気は鋭く張り詰めていた。


「すごい……」


 幌の隙間から外を覗き、エリオット・レインフェルは素直に目を見開いた。

 純粋な感嘆だった。高くそびえる外壁も、規律正しく進む兵列も、王都では見たことのない大規模な魔導兵装も、彼にとっては興味の尽きないものばかりである。


「思ったより楽しそうな顔するのね」


 向かいに座るロッテが、呆れ半分に言った。


「いや、だってここが勇者軍の中心地なんでしょ? もっとこう……物々しい場所を想像してたからさ」

「十分物々しいわよ。あなたが鈍いだけで」


 実際、馬車が街へ近づくにつれ、沿道の視線は濃くなっていった。

 兵士。傭兵。傷痍軍人。補給担当の役人。各国から集められたであろう魔導士たち。

 皆一様に忙しなく、余裕がない。

 武具の擦れる音、怒鳴り声、車輪の軋み、鍛冶の槌音――王都の上質な喧騒とは違う、戦場手前の街の音だった。


 だがエリオットには、その全てが新鮮に映っていた。

 これだけ多くの人間が、同じ目的のために機能的に動いている。

 そう考えるだけで、少し胸が躍った。

 そして最適化の余地も、必ずある。きっと自分の居場所を見つけられるはずだ。


「今、“非効率だ”とか考えたでしょ」

「え?」

「顔で分かるわよ、まったく……」

「いや、でも実際あるよ? ほら、門前の補給導線とかかなり非効率だし、防壁も人員の配置に最適化の――」

「黙って」

 

「……はい」


 ロッテにぴしゃりと切り捨てられ、エリオットは素直に口を噤んだ。

 その隣でミークが、どこか誇らしげに眼鏡を押し上げる。


「さすがです、エリオット様。この短時間でそこまで見抜けるとは」

「おいおい、すげえぞこりゃあ!」


 ゼノは馬車から身を乗り出しながら、感嘆の言葉を述べる。

 王都では味わえないピリピリとした殺気が全身を包み、自然と心が躍ってしまっていた。


 とはいえ、彼らに話しかける者は一人たりともいなかった。

 もっとも四人とも表向きは旅人めいた格好をしているので、特に浮いているわけではないが、その中身は別物である。

 ゼノはいつでも暴れられるように矛の位置を確認しているし、ミークは周囲の魔導兵装に目を輝かせている。ロッテだけが必死に“普通の一行”を装っている有様だった。


 やがて馬車は王都南門の検問所へ差しかかる。

 当然、通過は簡単ではない。列に並ばされ、身元と目的を問われることとなった。


「所属と来訪理由を」


 槍を携えた門兵が、慣れた口調で尋ねる。

 ロッテが一歩前へ出た。


「元・王立宮廷魔導学園の関係者です。戦況次第では勇者軍への参加も視野に、マルバスターへの滞在を希望します」


 その答えに、門兵の目がわずかに変わった。

 

 王立宮廷魔導学園。

 その名は、この戦時下において決して軽くない。

 門兵は数度瞬きをしたのち、エリオットたち四人を順番に眺めた。


「証明できるものは?」

「これを」


 ロッテが差し出したのは、学園在籍時の身分証と、かつて大賢者から渡された簡易認可札だった。

 追放された身ではあるが、それらの効力までは失われていないらしい。ハイフレイム家の名は伊達ではないということだ。

 門兵はそれを受け取り、奥の詰所へ確認に走らせる。


 しばし待機。


 エリオットは暇そうに周囲を見渡していた。

 門前の防壁術式。荷車検査の手順。役人の配置。兵士の立ち位置。魔導砲台の角度。

 見れば見るほど穴が見つかる。

 この規模でこれだけ綻びがあるのなら、全面的に組み直せばずいぶん効率が上がるだろう――そんな考えをぼんやり巡らせていると、ロッテが小声で釘を刺した。


「お願いだから、余計なことしないでよ?」

「はいはい、分かってるよ」

「本当に?」

「本当」

「顔が信用できないのよ……」


 そうこうしているうちに、奥から戻ってきた兵士が門兵へ何事か耳打ちする。

 次の瞬間、門兵たちの顔つきが変わった。


「上から“丁重に扱え”との通達だ。特に……エリオット・レインフェル殿は」

「まさか……あの大賢者の息子か?」


 話が伝播し、門兵たちの表情が一人また一人と強張り始める。ちらちらとこちらを――特にエリオットを窺う者も現れ、何やら大ごとになっているようだ。

 すると先ほどの門兵が急ぎ足で戻ってきた。


「失礼いたしました。どうぞお通りください」

「おや、随分あっさりですね」


 ミークが意外そうに目を瞬かせる。

 門兵は札を返しながら、少しだけ声を潜め、何やら黒い紙きれのようなものをミークに手渡した。


「こちらは特級通過証です」

「こ、これは――」


 一瞬、その場の空気が変わる。


 ロッテの背筋が張る。ゼノは薄く笑い、ミークは素直に感嘆した。

 当のエリオットだけが、「何?」と、きょとんとした顔をしている。


「これ、王族級の賓客にしか配られない通行証ですよね?」

「おっしゃる通り……これを見せれば、ほとんどの施設における検問を素通りできます」


 ミークが手渡されたのは、厳かな模様が薄っすらと刻まれた真っ黒な手のひらサイズの紙片だった。

 何人たりとも傷をつけられない特殊な魔法がかかっており、ど真ん中には堂々とマルバスター家当主の家紋が押されている。

 ミークの言う通り、これは王族以上の来客でない限り配布を許されない、全ての検問を素通りできる特別な通行証だ。

 普通の国ならともかく、最前線たる軍事国家マルバスター王朝においてこれが配られるのは異常事態であり、ロッテの顔は強張り、手にしたミークの手がぷるぷると震えていた。


「これがこの国のパス? 随分と黒いんだね」

「クハハッ! ほんと常識が通じねえなおめーは!」


 どうやらエリオットはこの通行証を、マルバスター王朝における一般的なパスだと勘違いしているらしい。その規格外の非常識さに、ゼノは大笑いしてしまう。


「これが普通のパスに見えるわけ?」

「え、違うの?」

「はぁ……そんなわけないでしょ。これはね、この国のトップから直々に入国を認められたってこと! そのくらい特別なものなの……あの人たちの反応見てたら分かるでしょうに……」

「そうなのかぁ。てっきりロッテの美貌が噂になってるのかと――」

「ちょっと黙ってて」

「……???」


 場違いなエリオットのおべっかを、ロッテはぴしゃりと遮断する。

 エリオットの非常識さにも呆れるところだが、今はこの通行証の意図の方が怖い。


「ミーク、これってつまりあれよね?」

「そうですね……間違いなくエリオット様関連でしょう。というか、これが配られるということは――」


 通常、王族が外国を訪れた際、真っ先に向かうのは王城、もしくはその国のトップの根城だ。

 この通行証はエリオット一行を王族級と認めている証明であり、なんなら真っ先に向かわなければ無礼に値する。

 何より、この通行証の存在自体が“早く来い”という意思表示そのものだった。

 その事実に気付いたロッテとミークは、エリオットという人間の影響力に、一方は畏怖を、もう一方は敬意を示していた。


「じゃあ、とりあえず宿屋に――」

「なわけないでしょバカ。行先はもう決まってるのよ!」

「え? なんで? 長いこと座りっぱ無しでお尻がちょっと……。今は宿屋のベッドの上で羽をのばすのが最てでででで!」


 ぐちぐち言い訳をするエリオットの耳を引っ張る形で、ロッテたちはそのまま何事もなかったかのように入国を果たした。


 ――

 

 門をくぐるなり、街の熱気が肌にぶつかった。


 内部はさらに慌ただしい。

 王都の中心大通りには各国の旗が翻り、露店には食料と武具と薬品が並び、騎士や兵士だけでなく、聖職者、魔導士、学者風の者まで行き交っている。

 完全な軍事国家でありながら、その内実は多国籍の寄り合い所帯でもあるらしい。


「……面白い」


 エリオットが呟く。


「皆、同じ目的のために動いている……」

「戦争中なんだから当たり前でしょ」

「ううん、そういう意味じゃなくてね」


 彼の瞳は、街そのものではなく、そこに集う人の流れを見ていた。


「無駄は多少あるけど、目的が一致している。こういう場所は、一度噛み合うと一気に強くなるんだよ」

「やめてよね。その発想がも~う危ない」

「心配すんなってロッテぇ、ここならリーダーの効率化も快く受け入れてくれんだろ! それで戦争に勝てるんならなおさらだぜ!」

「ゼノは黙ってて!」


 呑気に笑った、その時だった。


「――そこの黒髪」


 不意に、鋭い声が飛んだ。


 振り返ると、道の中央に一団の武装兵が立っていた。

 他の兵とは装備の質が違う。前線帰りなのか、鎧には傷が多く、纏う気配も張り詰めている。

 先頭に立つのは、三十路手前ほどの女騎士だった。

 短く切り揃えた赤茶髪に、鋭い灰色の瞳。片腕には副官章。

 ただ者ではない。


「名を名乗れ」


 女騎士が言う。

 いきなりの展開にロッテが一歩前に出かけたが、それより早くエリオットが答えた。


「エリオット・レインフェルです」


 一拍おいて、女騎士は彼の顔をじっくり見つめる。

 次に腰の杖、指先の所作、立ち姿を品定めするように観察した。

 そして、ほんの僅かに口角を吊り上げる。


「やはりな」

「え?」

「噂は届いている。“追放された天才魔導士”だとか、“宮廷魔導の失敗作”だとか、“大賢者の秘蔵っ子”だとか……まあ色々だ」


 ゼノが愉快そうに鼻を鳴らした。

 ミークはむっとしており、ロッテは嫌な予感が脳裏を過る。


「ちょうどいい」


 女騎士は言う。


「上が会いたがっている。入国早々で悪いが、ご同行願おうか」

「や、やっぱり……」


 「ほら来た」とロッテはため息をつく。

 

「例の手形はあるな?」

「……はい、ここに」

「ならば結構。ついてきたまえ」


 嫌な予感が的中し、ロッテは頭を抱える。

 信望するエリオットの聞き捨てならない噂とやらを耳にし、ミークは終始女騎士を睨みつけ、ゼノはそんなことよりもワクワクが何より勝っている。

 そのままエリオット一行は女騎士の言われるがまま、“上”とやらが待つ場所へと足を運んだ。

【今回の用語まとめ】


■マルバスター王朝

魔王軍最前線に位置する軍事国家。

勇者軍の最終拠点であり、巨大城塞そのものが一つの兵器のような構造をしている。

最強の勇者ギルベルト・アーナスタンの生まれの地でもある。


■勇者軍

魔王軍と戦う人間側の軍。

マルバスター王朝を最終拠点とし、各国の兵士・魔導士・聖職者・学者などが集まっている。



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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ


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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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