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闇の錬金術師  作者: toitoi
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銀翼の竜2

――銀翼の竜2――



 情報屋が去ったテーブルでは、いまだにルームが展開されており、銀翼の竜による会議が開かれいた。

 議題は新遺跡――千年前に帝国に抗った希代の錬金術師ロレンツィオが残したとされる遺跡――の調査依頼を受けるかどうかについて。


「ラルフ、この依頼を受けようぜ!」

「ブライト、この件はよく考えなければいけない」

「どうしてだ? 俺の直感がいってるぞ、この依頼は絶対に受けるべきだって」

「これまでに発見されたロレンツィオの遺跡は、最低でもAランクの高難易度遺跡に指定されている。私たちの手に余る案件なのは間違いない」

「ミスティの言うとおりだ。ましてや王国がロレンツィオの情報を一切だしていない。理由はもうわかってるが……」

「「そうね」」

「えっ? えっ?」


 理解が追いついていないブライトのために、パルメが恐る恐る口を開いた。


「ロレンツィオの遺跡が発見されたとなれば、メスティア帝国が黙っていない。ばれたら間者が大量に送られてくる。加えて遺跡調査にあたった人間もすべて調べられる」


 脅えたパルメの小声に、急に不安になるブライト。


「俺たちは詰んでんのか?」


 ラルフは即座に返答する。


「その通りだ」

「そりゃないぜ! あれっ? でもなんで、ロレンツィオの遺跡が帝国にばれたらだめなんだよ」

「ブライトだって読んだことがあるだろう。戦乙女と希代の錬金術師の絵本を」

「ああ、悪い国を打倒するために立ち上がった二人の英雄の物語だろう。孤児院でよく聞いた話だからな。大好きだぜ!」

「デフォルメこそされているが、その物語にでてくる希代の錬金術師が、いま話題になっているロレンツィオだ」

「マジか! だとしたらあの絵本は……実際に起きた出来事なのか?」

「知識人はみんなそうだと思ってる」

「うぉぉぉぉぉぉーーーー、激アツ!!」


 みんなは茶化さずにブライトを見る。


「いいか。最後まで抗ったとされるロレンツィオ亡き後に、世界の三分の二を手にした不死の皇帝バルド・ウィン・メスティアは、いまに至る千年もの間、他国を属国としている危険な男。俺たちのような一介の冒険者は、やつの一声で簡単に消されるだろう。俺はこのパーティーのリーダーとして、仲間を守る責務がある。ブライト、悪いがおまえの気持ちには答えられない。すまない」

「ちぇ、いい話だと思ったのになあ」


 ここらが引き際だと言われ、ブライトも渋々だが納得した。

 話が一段落したところで、ミスティが気になっていたことを口にする。


「となると、情報屋が私たちを巻き込んだ理由が気になる」

「たしかに妙だな」」

 

 腕を組み唸るブライト。


「大方、ロレンツィオの遺跡と知って日和ったんだろう。あの規模の遺跡の盗掘がばれれば、三等親内の死罪は確実だからな」とラルフは思ってもいなさそうなことを言う。

「そうだといいけどね。そういえばあの情報屋、王都から凄腕の錬金術師がくるって言ってた。ミスティの知り合いだったりして?」

「たしか、ミスティは王都の名門マクレガーの出身だったか」

「どうだろう。話を聞く限り、未知の毒に対応できそうなのは、私の師匠か、他の【十二師天】くらいだろうけど……」


 オーランド王国には、王国騎士団、宮廷魔術師団、特認錬金術師団といった国防を司る団体があり、それぞれの実力上位十二名に特別な称号が与えられていた。

 ミスティの師匠は、この国でも特に有名で、成毒竜殺しの異名をもつ。ゆえに毒にもそれなりの知見がある。


「この開拓村も騒がしくなりそうだな」


 酒場をでた銀翼の竜は、冒険者ギルドに向かうことにした。

 転換期におけるその場の雰囲気を感じることは、重要だと経験上知っているからである。


「ようこそ、銀翼の竜の皆様方。今回はどのようなご用件でしょうか?」


 ギルドの受付嬢は、作り笑いとは思えない笑顔で彼らを出迎えた。

 片田舎の開拓村にしては珍しく、中央の空気を纏った上品な女性だった。


「いやなに、あの壁に貼ってあった新遺跡の調査依頼が気になってな。もう決まったか?」


 リーダーであるラルフは、新遺跡の情報など何も知らないふうをよそおい話を進める。


「まだ決まっていません。あの依頼の期限は明後日までです。当日、ギルド長が選考しますので、銀翼の竜の皆様方も奮ってご応募ください」

「そうか、考えておく。他に変わった依頼はあるか?」


 受付嬢は迷いなくサッと一枚の羊皮紙を提示した。

 いつもと違う提示スピードに、ラルフは違和感を覚えた。


「これなんかどうでしょうか? さきほど、トント村から出された依頼です」

「よりにもよってトント村か」

「新遺跡から近く、国立公園内にある唯一の村」


 ラルフとパルメは慎重になる。


「どれどれ、村はずれの源流近くの泉に……人魚がでたって!?」


 驚くブライト。


「そのようです」

「人魚は海でしか生きられない」

「どうせ見間違いでしょ」

「私もそう言ったのですが、見たと主張するのが村長でして……」

「トント村の村長といやぁガガ爺か。とうとうボケたんじゃねーか?」


 依頼内容について、仲間がうしろで話し合っているときに、ラルフは真剣な表情で受付嬢を見た。


「なあリーン。俺たちの付き合いは長い」


 受付嬢のリーンは顔色を変えずに頷いた。


「この依頼を受けると、俺たちは新遺跡の調査依頼を受けられない。それでも、この依頼を受けるべきか?」

「はい」


 即答だった。


「……そうか。よし、久しぶりにガガ爺に会いたいし、俺はこの依頼を受けてもいいと思う。みんなはどうだ?」

「げぇ、あの険しい山をまた登るのか」

「いいじゃん。報酬もいいし、気分転換にはちょうどいいかもね」


 ミスティの言葉に同意した面々は、『トント村の泉にでた人魚を見つけてほしい』という依頼を引き受けた。





 数日後。

 トント村で挨拶を済ませた銀翼の竜は、早速、泉があるという場所に向かった。

 そこは緑にあふれ、水と空気が澄んでいる、自然豊かな土地だった。


「やっぱりいねぇじゃねぇーか!」

「まっ、こんなところに人魚がいてたまるかって感じよね」

「カッパならいそう」


 パルメの小声にみんなが笑う。


「違いない。どうせならカッパでも探すか?」

「人魚は幻想種としてその存在が確認されているけど、カッパはおとぎ話の――」

「しっ!」


 いつしか調査から遊びに変わっていた面々だったが、パルメの強い一声に押し黙る。


「パルメ?」

「なにか聞こえる。これは……歌?」

「戦闘態勢! ミスティ!」

「わかってる! みんなに沈静薬と感覚強化剤を使う」


 ミスティは錬金鞄から小瓶を取り出して仲間に振りかけた。さらに錠剤をみんなに手渡す。


「歌なんて聞こえないぞ? 聞き間違えたんじゃないかパルメ」

「まだ聞こえるか?」

「聞こえる。あっち、五○○メートルくらい」


 パルメは位置の特定までしてみせた。


「ミスティはどうだ、なにかわかったか?」

「歌は聞こえない。けどパルメが聞こえるっていうのなら、音源はきっとあるんでしょう。あと……人魚の十八番である精神干渉系魔法ではないと思う。心を揺さぶられた不快感がまったくないもの」


 精神干渉系魔法のなかには、人間が認識できないものであっても作用することがある。そういう類いのものは、訓練を積んだ者が心で探ることができた。


「どうするよラルフ」

「もし人魚であっても俺たちの敵ではない。対策はしてきたし、地の利もこちらにある。依頼を達成するために、音源の正体を確かめにいこう」


 cランク冒険者ともなれば、遭遇率が極めて低い幻想種の魔物相手であっても情報の入手は怠らない。

 敵の情報を知らない、は死に直結すると知っているからである。


「よしきたパルメ、すぐ後ろで守ってやるから早く案内してくれ」


 一行は女盗賊を先頭に、大自然のなか、道なき道を歩み、音源にたどり着いた。


「美しい」

「おいおい、おれぁ夢でも見てんのか?」

「まったく男どもは。けどさすがにあれは……天使かな?」

「頭上に輪っかはないし、白き翼も生えていない。ましてや魚の下半身でもない。あれは泉の精」

「「「マジか!」」」

「マジ」


 ガガ爺から聞いていた泉から、さらに奥に入ったところにあった泉で、銀翼の竜は水浴びをしている金髪の少女を見つけたのだった。

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