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五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


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第八話:異分子の日常

三晩にわたる死闘の末、自作マシンを完成させたその足で、忠夫は登校した。朝の教室は、相変わらず弛緩した空気が充満している。

「佐伯。マジで顔色やべーぞ」

 教室の入り口で、佐藤がサッカーボールを指先で回しながら呆れたように笑った。

「なんだその隈。お前、昨日も『一クロックがどうの』とかブツブツ言ってたけどさ。不気味すぎて女子が引いてるぞ」

 忠夫――佐伯忠夫は佐藤を無視し、ふらつく足取りで自分の席についた。視界の端が明滅し、耳の奥ではいまだにブラウン管の高周波音が鳴り響いている。

「……おい。佐伯」

 背後から、低く圧のある声がした。担任の高城先生だ。彼女は白衣のポケットに手を突っ込み、不機嫌そうに忠夫のデスクの前に立った。

「その顔は何だ。死体か?」

 高城は忠夫の顎を強引にクイと持ち上げ、そのドス黒い隈を覗き込んだ。微かにタバコの匂いがする。

「……別に。少し考え事を」

「考え事ね。お前が一人で夜通し悩んだところで、どうにもならんこともある。……少しは寝ろ。顔が死んでるぞ」

 高城はそう言い、忠夫のノートを指先でパチンと弾いた。

「いいか。以前も言ったはずだ。困ったことがあったら、勝手に一人で抱え込むな。相談くらいは乗るから、とな」

 その言葉に、忠夫はわずかに視線を動かした。高城は呆れたように肩をすくめ、教壇へ向かった。

その背中を見送りながら、忠夫は唇の端をわずかに歪めた。

(先生。俺が今抱え込んでいるのは、『問題』じゃないんだ。……『未来』なんだよ)

 授業中、高城の視線を感じながらも、忠夫は机の下で思考を加速させていた。今朝完成したのは「骨組み」だ。そこに流し込むための、世界で最も美しいパズルのアルゴリズム――テトリスのコードを、彼は一クロック単位で削り、ノートの余白に磨き上げていた。

 放課後のチャイムが鳴ると同時に、忠夫は誰とも目を合わせず教室を飛び出した。商店街の平和な喧騒をすり抜け、自宅の門をくぐる。

 部屋のドアを閉め、鍵をかける。デスクライトを点けると、そこには数時間前に産声を上げたばかりの「怪物」が、主の帰還を静かに待っていた。

 忠夫はカバンから、一日の成果が詰まったノートを取り出した。

「さあ……。命を吹き込んでやる」

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