表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/24

第十二話:始まりの一通

雑誌発売から十日。忠夫の胃がキリキリと痛み始めた頃、その「波」は突如としてやってきた。


 雨の日の午後。玄関のチャイムが鳴り、郵便局員が小さな茶封筒を一通、母・佳子に手渡した。

「……忠夫! 来たわよ、現金書留!」

 和子の叫び声に、忠夫は階段を二段飛ばしで駆け下りた。

 送り主は、静岡県の「高木」という人物。


 震える手で封を切ると、中から三枚の千円札と、走り書きのメモが出てきた。

『マシン語の限界、見せてもらいます。』

 たった一通。されど、それは二〇二六年の忠夫の論理が、一九八二年の現実に接続された歴史的な瞬間だった。


 忠夫はすぐに作業に入った。TDKの高品質テープに、自作マシンからプログラムを射出する。

「ピーーーー」

 部屋に響く変調音は、まるで産声のようだった。忠夫は丁寧にラベルを貼り、梱包してポストへ走った。

 

数日後。静岡県、高木の自室。

 高木は、届いたばかりの怪しげなカセットテープをデータレコーダーにセットした。三行広告だけで三千円を投じるのは、彼にとっても賭けだった。


「……どうせ、BASICを少し速くした程度だろう」

 キーボードを叩き、ロード命令を送る。

 数分後。プログラムが展開された瞬間、高木は息を呑んだ。

 

 当時のPC-8001は、画面を書き換えるたびに「チカッ」とノイズが入るのが当たり前だった。しかし、このゲームにはそれがない。漆黒の画面に、クリスタルのように鮮明なブロックが、ドット単位の滑らかさでスルスルと降りてきたのだ。


「なんだこれ……!? 影がある、消える時に光ってるぞ!」

 一九八二年当時、ブロックが「一瞬で消える」のではなく、白い光を放って「フラッシュしながら消滅する」という演出は、アーケードゲーム(業務用)の高級機にしか許されない魔法だった。


 何より、ルールが異常だった。消しても消しても、次を求めてしまう中毒性。高木は気づけば、食事も忘れて深夜まで画面にかじりついていた。

 翌朝、高木は興奮を抑えきれず、行きつけのマイコンショップへ走った。


「おい、これ見てくれ。佐伯技術研究所ってヤツのソフト、ヤバいぞ。PC-8001でこんなヌルヌル動くなんて聞いたことねえ」


店主は半信半疑でテープを借り、店頭のデモ機にロードした。集まってきた常連たちが、画面に釘付けになる。


「おい、V-RAMを直接叩いてるのか? この滑らかさは異常だぞ」

「……パズル? 地味かと思ったけど、これ、やめ時がわからん……」


口コミは、ネットのない時代、各地のショップや「草の根BBS」という細い糸を通じて、だが確実に、熱狂を伴って広がり始めた。


その三日後。佐伯家のポストには、五通の書留が届いた。

 その翌日には、二十通。

 そして一週間後、赤い郵便バイクは、佐伯家の前で止まるなりこう叫んだ。


「佐伯さん! もうカバンに入り切らないよ、これ全部書留だ!」

 玄関先に積み上げられた、百通を超える封筒。

 和雄は、仕事帰りの作業着のまま、その「札束の山」を見て立ち尽くした。


「……忠夫。これ、一通三千円なんだよな? 全部で……三十万を超えてるぞ」


「……父さん、驚くのはまだ早いよ。これは歴史が変わる始まりなんだ」

忠夫はそう告げると、溢れんばかりの書留をしっかりと抱え直した。


「でも、僕一人じゃもう捌ききれない。父さん達の力を貸してほしいんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ