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五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


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第十一話:雑誌の発売日

1982年6月


雑誌社に原稿と一万円を送ってから、音沙汰は一切なかった。


 現金書留の受領証だけが、手元に残った唯一の証拠だ。メールもない携帯もない、忠夫は自分の原稿がゴミ箱に捨てられたのか、それとも編集者の目に留まったのかすら分からなかった。


「……今日、発売日だよな」


 学校が終わるなり、忠夫は近所の本屋へ駆け込んだ。

 平積みにされた『月刊マイコン』。その表紙は、当時最新のPC-8801やFM-7の特集で華やかに飾られている。忠夫は逸る心を抑え、インクの匂いが立ち込めるページを後ろからめくった。


 読者投稿と案内広告のページ。

 そこには、カセットテープの個人売買や、中古パーツの譲渡希望が、アリの行列のように小さな活字で並んでいた。


「……あった」

 下段の隅。そこには、忠夫が練りに練り、何度も書き直した「あの三行」が、確かに印刷されていた。


【PC-8001 落ちものパズル】

マシン語極限最適化。上から落ちる図形を揃える新案パズル。

カセット版三千円(送料込)。佐伯技術研究所 代表・佐伯和雄。


自分の論理が、ついに「公のもの」になった瞬間だった。

 だが、その横に並ぶ他の広告には、派手な煽り文句や、すでに実績のあるサークルの名前が並んでいる。写真のない、わずか数センチの活字。それが日本中のマニアに届くのか、それともこのまま埋もれて消えていくのか。

「……やるだけのことはやった」

 雑誌を一冊買い、胸に抱えて店を出た。

 夕焼けの中、自転車を漕ぎながら、帰宅した。


 和雄は、夕食の席で雑誌のページを開いた忠夫に一言だけ言った。


「載ったか。……まあ、一万円分の『勉強代』にはなったな」


 それは、どうせ注文など来ないだろうという、父親なりの慰めだった。


「‥‥きっと大丈夫」

忠夫はそう答えたが、内心は不安で張り裂けそうだった。

 


この日から、「ポストを覗く毎日」が始まる。


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