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第4話 浅虫温泉・時代の変遷   同期率:58%(湿り気を帯びた静寂)

1月の昼下がり。青い森鉄道の硬いシートから、浅虫温泉駅のホームへと降り立った。

潮風に混じって、海水に含まれる微かなミネラル分が鼻腔をくすぐる。かつての賑わいを象徴する巨大な旅館の影が、冬の低い日差しに長く伸び、国道沿いに横たわっている。

「AIからの指示。――波打ち際の『赤い鳥居』を見つめながら、右足だけを10センチ浮かせて1分間静止せよ」

僕は指示に従い、陸奥湾に浮かぶ湯ノ島を望む海岸線へ向かった。

冬の海は深い鉛色をしており、波がテトラポットにぶつかるたびに、鈍い破砕音が響く。指示された通り、鳥居を視線の中心に据え、右足を浮かせた。

冷たい海風がコートの隙間から入り込み、体温を奪っていく。片足立ちの不安定さが、視界の中にあるはずの景色を、どこか非現実的なものへと変質させていく。雪を頂いた対岸の山々が、まるで精巧な書き割りのように見えた。ふらつく体を支えようとする筋肉の緊張だけが、今、私がここに存在していることを証明していた。

指示を終え、両足で地面を踏みしめると、アスファルトの冷たさがかえって心地よく感じられた。

海岸を離れ、路地へと足を踏み入れる。

かつては射的場や映画館だったと思われる辺りには建物の面影もなく、時の流れが、足元をぼんやりと包み込んだ。

公衆浴場の裏手にある、小さな公園のベンチに腰を下ろし、駅前の売店で購入した「久慈良餅くじらもち」を取り出した。包み紙を剥がすと、独特の弾力を持った茶褐色の塊が現れる。

一口、

淡い甘さと、くるみの香ばしさ、そして何よりその「むっちり」とした、抗うような食感が舌に伝わる。

喉の奥へと滑り落ちていく感覚。それを20回、30回と数えながら、僕はただ、口の中の動きだけに意識を集中させた。周囲には誰もいない。ただ、冷たい風の音と、時折遠くで響くカラスの声だけが、この空間を支配している。

最後の一口を飲み込み、喉を通り過ぎる重みを確かめる。

口の中に残った微かな甘みの余韻を吸い込み、私は湿った空気の中、目的のないままにゆっくりと立ち上がった。


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