第2話 釧路駅・地下歩道美術館 同期率:42%(ノイズ混じりの視界)
12月の午後。僕は駅の喧騒を避けるように、地下へと続く階段を降りる。
「釧路地下歩道美術館」。
地上とは断絶されたような静寂が、ひんやりとした湿気と共に立ち込めている。コンクリートの壁に飾られた絵画は、AIによる再構築のせいか、時折その輪郭を微かに揺らしているように見えた。
「AIからの指示。――3枚目の絵画の前で、自らの影が消える角度を探せ」
僕は指示に従い、冷え切った壁の前に立った。
地下特有の、どこから響いているのかわからない重低音が、足の裏から伝わってくる。天井の蛍光灯が、規則的なリズムで瞬きを繰り返している。その光は、現実のものよりも青白く、僕の影を地面にひどく薄く落としていた。
指示を終え、地上へ続く階段を上る。
地上から降りてくる乾いた埃の匂いと、地下の奥底から這い上がってくる、泥のような湿った匂い。その二つが混ざり合う階段の途中で足を止めると、肌に触れる空気の重さがわずかに変わるのがわかった。
かつて商業施設があったという、今はもう駐車場や空き地が見えるベンチに腰を下ろし、バッグパックから「厚岸の牡蠣めし」を取り出した。
通り過ぎる車も、歩く人もまばらだ。皆、この寒さから逃げるように足早に目的地へ向かっていく。
一口ずつ、冷えたご飯を口に運ぶ。
噛んで、飲み込んで、また次を運ぶ。その単調な反復に意識を委ねながら、数分間、誰の目も気にせずにただ咀嚼を繰り返した。
最後の一口を飲み込み、空になった容器を丁寧に包み直す。
指先に残った割り箸のささくれた感触を確かめてから、僕はまた冷たい風の中へ踏み出すために、ゆっくりと腰を上げた。




