3.天川セイラの本音。
――一方その頃、天川セイラ。
翔平と別れてからしばらく、最寄りの駅に向かって歩いていた。だがその途中で何を思ったのか、あまり人気のない公園のベンチに腰掛ける。夕暮れ空を見上げて、物思いに耽ったのも束の間。
彼女はその綺麗な顔を赤く染めて、
「うわぁ、ホントに一緒の大学だったんだぁ……!!」
なんとも可愛らしい声で、そう言うのだった。
セイラは顔を手で覆い隠して恥じらいつつ、先ほど再会した彼のことを想う。
「……うぅ、カッコよくなってた」
そして、誰もが思いもしない感想を口にした。
世間一般的な感覚でいえば、芥川翔平という少年の顔立ちは平凡である。むしろ幸薄そうというか、どこか陰のある印象を受けるのが普通だった。目の下のクマや、少し乱れた黒髪などがそれで、いうなれば昔の売れない小説家を彷彿とさせる。
だがしかし、どうやらその風貌がセイラにとってはツボだったのだろう。
少なくとも一人になった彼女の口からは、
「ホントにあの陰のある感じというか、どこか世の中を斜に構えて見ているというか。でもだからといって世俗に疎いわけでもなくて、むしろ最近のサブカルチャーへの造詣が深いところとか、誰にでも分け隔てなく同じように接するところとか、中学時代から変わらずマジで最高。外見がアタシ好みなのに、性格まで理想的なんてホントに――」
芥川翔平という人物への賞賛が止まらなかった。
ただ決して大声で標榜するわけではなく、うつむきながら薄ら笑いと共にぼそぼそと語るので、周囲にいる人々からしてみれば呪詛を吐いているようにしか見えない。
美少女であるのだが、いいや、絶世の美女であるからこそ異質だった。
それ故、誰もがセイラから距離を取って見て見ぬ振りをしている。
「はぁ……でも、どうしてアタシ――」
だが、そんな笑い声もピタリと止まって。
空を仰ぎながら、後悔を口にした。
「あの時、あんなこと言っちゃったんだろ……?」――と。
それはもちろん、中学時代のあの嘘告白について。
ここまでの様子から明らかなのだが、セイラはその頃から翔平に好意を寄せていた。だがおそらく、他の生徒が現れたことによって恥じらいが生まれたのだ。
その結果が、アレなのだが……。
「アレから、芥川くん……みんなに笑われて……」
それは決して、セイラにとっても本意ではなかった。
しかし周囲の学生たちを止める手立てもなく、弁明の機会も得られないままに別々の高校に進学することに。翔平は成績も良かったので県下でも有数の進学校に、対してセイラは平均的な高校へ。
それでも彼女は、どうしても諦められなかった。だから、
「ううん、次こそちゃんと告白する! そのために――」
両拳を胸の前で握りしめて言う。
「受験勉強、一生懸命に頑張ったんだもん!!」――と。
もちろん、それで彼に会える保証はなかった。
だが天の女神は彼女に微笑んだのだ。
こうして、再会を果たした翔平とセイラ。
二人のすれ違い満載の恋物語は、幕を開けたのだった。
ここまででオープニング終了です。
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