10月23日 第46話、地域通貨『コイン・サキガケ』が拓く地方創生SFモデルの実証的考察
この論文は、肩書きもカネもない夜勤バイトが、
深夜のレジで考え抜いた「地方創生の逆襲プラン」だ。
衰退した町を見ていると胸がムカつく。
コンビニのレジ横で冷めていくフランクフルトみたいに、
この町の未来もただ乾いていくのを眺めろって?
冗談じゃない。
仮想通貨、AI、バイオ、宇宙開発。
世間が「地方には関係ない」と切り捨てた最先端全部を、
俺はむしろ地方こそ使いこなすべきだと信じている。
夜勤の静寂は、絶望じゃない。
未来を設計する時間だ。
これは妄想かもしれない。
だが、妄想すらできない町から、未来は生まれない。
だから俺は言い切る。
夜勤発、地方創生。
この一冊は、その宣戦布告である。
論文:地域通貨『コイン・サキガケ』による地方創生SFモデルの構築
~40代半ばコンビニ夜勤バイトによる考察~
序論:深夜のレジと1兆ドルの狭間で
俺は今、40代半ば。この町のコンビニで夜勤をしながら、月曜の未明を過ごしている。棚のホットスナックを補充し、冷蔵庫の牛乳の賞味期限を確認する。静寂の中、冷蔵庫のモーターと自動販売機のブーンという音だけが、俺の時間を刻んでいる。そんな深夜のレジ片付け中に、スマホで目にしたのが「米国の仮想通貨取引量、上半期に1兆ドル突破」というニュースだった。
1兆ドル。その桁数の多さに、一瞬、目が眩んだ。俺が一生かかっても手にできない金額だ。ニュースによれば、トランプ政権の誕生による規制緩和期待や、ETFへの資金流入、ステーブルコインの拡大が要因だという。リスクオンの市場心理。そんな言葉は、俺がいるこの閉店した商店街とは、あまりにも遠い世界の出来事に思える。
この町では、10年前に閉店した映画館の跡地に雑草が生い茂り、隣町にできた大型ショッピングセンターに客を奪われ、昼間でも人の気配はまばらだ。若者は都会へ出て行き、残されたのは高齢者と、俺のように何かの足掻くをしている人間だけ。ニュースで語られるようなグローバルな経済の潮流は、この町にはなかなか届かない。むしろ、その波に乗り遅れたまま、静かに沈んでいく船のような場所だ。
しかし、ふと思った。この仮想通貨という、目には見えない巨大なマネーの流れ。もし、この力を、俺のような地方の、寂れた町に向けることはできないのだろうか?この論文は、コンビニの夜勤という孤独な時間の中で培われた、一つの「妄想」に過ぎない。しかし、その妄想が、いつか現実の「地域活性化」の種になるかもしれない。本稿では、仮想通貨の技術を応用した地方創生モデルをSF的に構築し、その可能性を考察する。
本論:妄想が現実を越えるとき
第一章:地域通貨「コイン・サキガケ」の誕生
まず、この町を活性化するための基盤として、地域限定のステーブルコインを発行することを提案する。名付けて「コイン・サキガケ」。価値の裏付けは、この町の「未来の可能性」そのものとする。ニュースで言及されているステーブルコインの規制整備が進めば、こうした地方自治体やコミュニティが発行する通貨も、信頼性を担保しやすくなるだろう。
発行当初は、町内の商店、つまり俺が働くコンビニや、隣の八百屋さん、床屋さんなどで使えるようにする。俺の夜勤中、たまに酔っ払いが「スマホ決済できないか?」と聞いてくることがあるが、その時に「コイン・サキガケなら使えますよ」と言える日が来る。客はスマホでサクッと支払い、そのデータは町のサーバーに蓄積される。これにより、町内での経済循環が生まれる。外に流出していたお金が、町の中をぐるぐる回り始めるのだ。これは、単なる電子マネーではない。町の未来に賭ける、一種の「希望の証」としての通貨である。
第二章:AIによる予測型まちづくり「MACHIKUN」
「コイン・サキガケ」の真価は、単なる決済手段ではない。そのすべての取引データを活用することにある。町は、このビッグデータを解析するAIを開発する。そのAIを「MACHIKUN」と名付けよう。
MACHIKUNは、「コイン・サキガケ」の取引データをリアルタイムで分析し、町のニーズを予測する。例えば、金曜の夜にコンビニでカップ麺と日本酒の売上が急増するデータがあれば、「深夜の食事の場が必要だ」と判断し、空き店舗を活用した小規模な夜間食堂の開業を提案する。また、特定の週末に公園近くの商店で子ども向けのお菓子が売れれば、「週末の親子向けイベントを企画しよう」というアイデアを生成する。
これは、住民のアンケート調査などといった、非効率で主観的な方法ではない。住民が無意識に行っている「消費行動」という、最も正直な声をAIが読み解き、町の未来を設計していく。ニュースで指摘されている「取引量の重要性」は、まさにこの点にある。取引量は、単なる経済活動の指標ではなく、人々の生活そのものを映し出す鏡なのだ。MACHIKUNは、その鏡を通して、町が本当に必要としているものを見抜く。俺のような夜勤バイトが補充する商品の種類や、売れる時間帯といった細かなデータまでもが、町の未来を形作るための重要な材料となる。
第三章:バイオ技術と宇宙開発への挑戦
妄想はここで留まらない。「コイン・サキガケ」の価値が安定し、外部の投資家からも注目を集めるようになったとしよう。次の段階は、より野心的な分野への投資だ。
この町には、昔から湧き出ている豊富な温泉資源がある。この温泉水に含まれる特殊なミネラルに着目し、地元の大学と共同でバイオテクノロジー研究を始める。目標は、そのミネラルを用いた抗加齢物質の開発だ。「コイン・サキガケ」で集めた資金を研究開発に投下し、成功すれば、町は世界的なバイオ関連企業の研究拠点となる。町の特産品は、ただの温泉饅頭ではなく、高機能な化粧品や健康食品へと進化する。俺のコンビニの棚に、世界から人が押し寄せるような「サキガケ・エッセンス」が並ぶ日も夢ではない。
さらに、その先には宇宙開発まで視野に入れる。ニュースで語られた1兆ドルというマネーは、宇宙産業のような巨大なインフラを必要とする分野にも流れ始めている。この町の近くには、かつて小規模なロケット発射場があったという伝説がある。その土地を再生し、「コイン・サキガケ」の資金と、世界中から集まったエンジニアたちの力で、小型衛星を打ち上げるための民間宇宙港を建設するのだ。
目的は、火星殖民などではない。もっと身近な、地域のための宇宙開発。例えば、自社衛星から得られる高精度な農業データを町の農家に提供し、収穫量を最大化する。あるいは、宇宙から観測することで、この地方特有の気候変動を予測し、防災に役立てる。さらには、成層圏まで行って地球を眺める「宇宙旅行」を手頃な価格で提供し、町を新しい観光拠点にする。この町が、日本の、いや、世界の「宇宙の玄関口」になる。そんな妄想が、深夜のコンビニで広がっていく。
結論:レジの向こう側に広がる未来
夜が明ける。東の空が白み始め、朝の通勤客が店に入ってくる。俺の夜勤もまもなく終わりだ。1兆ドルの話も、AIまちづくりも、宇宙港も、すべては妄想の世界の話に戻る。俺はいつものように、レジの前で「おはようございます」と挨拶を繰り返す。
しかし、何かが変わった。昨日までただの退屈な時間だった夜勤が、未来を創造するための貴重な思考時間に変わった。コンビニの棚に並ぶ商品一つひとつが、町の未来を示すデータに見える。客の一人ひとりの行動が、町を動かすエネルギーに感じられる。
仮想通貨のニュースがきっかけだったが、本当に大切なのは、目の前の現実をどう変えていくかという発想の転換だ。グローバルな経済の波に翻弄されるのではなく、その技術を地域のために活用する。遠い世界の話を、自分の町の話に置き換えてみる。そこからこそ、新しい未来の形が見えてくるのだ。
「コイン・サキガケ」も「MACHIKUN」も、宇宙港も、まだ存在しない。だが、この町を元気にしたいという想いは、本物だ。その想いが、いつか一人、また一人と共感者を生み、小さな一歩を生み出す。その一歩が、やがて大きなうねりとなる。俺の妄想は、きっと現実になる。
なぜなら、そのすべては、ただ一つの、シンプルで、そして強い願いに繋がっているからだ。
それは、まちを元気にするという、誰もが抱く原点回帰の想いなのだから。
夜勤を終えて店を出ると、空がうっすら明るい。
この論文に書いたAIも宇宙も、寝不足の妄想に見えるかもしれない。
だけど、ここに書いたことは全部「やる前提」だ。
地方はずっと、可能性を笑われ続けてきた。
だったらこっちは、笑われたまま実現してやるだけだ。
この研究には博士号も助成金もない。
あるのは、コンビニの裏バックヤードで生まれた
「まだ終わっちゃいない」っていう意地だけ。
未来は、諦めた奴から敗北していく。
逆に言えば、諦めなきゃ負けない。
俺は夜勤だ。
だが、夜勤が未来を見ちゃダメな理由はどこにもない。




