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10月21日 第44話、夜勤バイトと磁場経済——重希土類フリー社会の妄想的地域論

 この論文は、学術的な厳密さを装いながら、実際には深夜のコンビニで生まれた“妄想”の記録である。

 蛍光灯の下、缶コーヒー片手にレジ裏で考えたのは、技術でも経済でもなく——自律という言葉だった。


 重希土類を使わない磁石のニュースを見たとき、私はふと思った。

 「この技術、もしかして地方を救うかもしれない」と。

 そんなことを夜勤明けに言えば、きっと笑われるだろう。だが、人は笑われながら未来を考える生き物だ。


 この小論は、コンビニの冷蔵ケースのモーター音をBGMに、地方再生と技術革新を“磁場的に”結びつけてみた試みである。

 現実と空想のあいだにある“熱”を、少しでも文字として残したい。

 それが、夜勤明けの私にできる唯一の社会貢献かもしれない。


序論:夜のコンビニから見た「まちの未来」


午前2時。店の外は静まり返り、冷蔵ケースのモーター音だけが規則正しく響いている。私はレジの裏で、新聞記事をスマホで読みながらコーヒーを啜る。今日のニュースは「大同特殊鋼、重希土類を使わないネオジム磁石で注文増」。一見、私の生活とは無縁の話に思える。だが、この磁石が、実は「まちを元気にする」鍵になるのではないか――そんな妄想がふと頭をよぎる。


私たちは日常的に「レアアース」に依存している。スマホも、電気自動車も、そしてこの店の冷蔵庫のモーターさえも。しかし、その供給源が一国に偏っている現実は、まるで「見えない鎖」で首を絞められているようなものだ。大同特殊鋼の技術は、その鎖を断ち切る一歩となる。だが、ここで終わってはいけない。この技術を「地域活性化」の文脈で再解釈し、妄想を現実に接続する――それが本稿の目的である。


本論:磁石から始まる自律型地域社会の構想


まず、この「重希土類フリー磁石」の本質は何か。それは「自律性」である。中国への依存を断ち切り、自らの手で高性能磁石を生産できる。これは単なる産業戦略ではなく、地域の「技術的自立」を象徴する。


ここで妄想を拡張しよう。岐阜県中津川市に拠点を置くダイドー電子の工場が、地域の中心となって「磁石クラスター」を形成する。地元高校と連携して「磁石マイスター養成講座」を開講。若者が地元に残り、高付加価値の製造業に従事する。さらに、磁石の副産物として発生する熱を活用し、地域の温浴施設や農業用温室のエネルギー源とする――これは「産業の多層的循環」である。


私のコンビニでも、この磁石が使われた小型風力発電機が屋上に設置される。夜勤中に風が吹けば、発電量がモニターに表示され、その電力で店内のLEDが少し明るくなる。店長は「節電ポイント」を導入し、地域通貨と連動させる。買い物のたびに貯まるポイントが、地元のパン屋や図書館の利用券に交換できる。こうして、エネルギー、経済、コミュニティが一つの磁場のように結びつく。


さらに妄想を宇宙まで飛ばそう。この磁石技術は、将来的に月面基地のモーターにも使われるかもしれない。月のレゴリス(月の土)には希土類が豊富に含まれているが、重希土類は少ない。つまり、重希土類フリー磁石こそが「宇宙産業の標準」になる可能性がある。そしてその技術のルーツが、日本の地方都市にある――そんな未来が、地域の誇りとなり、若者のUターンを促す。


だが、技術だけではまちは元気にならない。私が夜勤中に接する高齢の常連客、疲れた顔でカップ麺を買う大学生、深夜に掃除道具を片手に立ち寄る清掃員――彼らの「生活の質」こそが、地域活性化の真の尺度だ。


そこで提案したいのは、「磁石×ケア」の融合だ。磁石を活用した小型ロボットが、高齢者の見守りや買い物支援を行う。AIは感情認識機能を持ち、私のようなバイトが「今日は元気ないね」と声をかけるように、ロボットも「おばあちゃん、今日は雨だから、傘忘れずにね」と話しかける。これはアシモフのロボット三原則を地で行く、人間中心の技術活用である。


結論:まちを元気にするのは「技術」ではなく「つながり」


大同特殊鋼の磁石は、確かに画期的だ。だが、それ自体が地域を活性化するわけではない。重要なのは、その技術を「誰が」「どのように」「誰のために」使うか――その設計思想にある。


私のような40代半ばの夜勤バイトが、新聞記事を読んで妄想を膨らませ、地域の未来を語ること。それが、まちを元気にする第一歩なのかもしれない。技術は道具にすぎない。それを「人間の豊かさ」に結びつける想像力こそが、真のレアアースなのだと、私はコンビニの深夜に思う。


冷蔵ケースのモーター音が、今日もまちの鼓動のように響いている。


 夜勤の明け方、店のシャッターの隙間から差し込む薄い光を見るたびに思う。社会は動き続けている。だが、その動きの裏側には、誰にも気づかれず働く人々の「手の温度」がある。私はその温度を、技術の話で包み直したかっただけなのかもしれない。


 重希土類フリー磁石というニュースは、私にとって単なる科学記事ではなかった。

 それは、“誰かに依存せず、自分たちで回る社会”という静かな希望の象徴だった。

 夜勤バイトという立場から見れば、それはあまりに遠い話だ。だが、遠い話を手元の労働に引き寄せる想像力こそ、人間が持つ最古のテクノロジーだと思う。


 この文章を書き終えるころ、外では通勤の車が走り出す。

 私はタイムカードを押し、制服を脱ぐ。だが、頭の中ではまだ妄想が回転している。

 技術は道具にすぎない。けれど、人がそれに「意味」を与えるとき、道具は文化に変わる。

 その文化の磁力を信じながら、私はまた夜勤に戻る。


 ——すべての深夜労働者と、見えない磁石のように社会を支える人々へ。


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