10月13日 第36話、「おてつたび」にみる人的資本循環の新地平——AI・バイオ・宇宙技術が拓く惑星的地方創生モデル
本稿は、深夜のコンビニという最も匿名的な労働空間から、地域活性化の未来像を描こうとする試みである。
筆者は、地方創生の専門家ではない。夜勤のレジ越しに人々の往来を眺めながら、「人が動かない社会」の静かな異変を感じてきた。トラックの荷台に積まれた特産品、疲れた運転手の表情、そして空になって帰る車両。その光景の中に、地方から都市へと一方通行に流れる日本の構造が透けて見える。
そんな中で出会った「おてつたび」は、単なるマッチングサービスではなかった。
それは、人の潜在的な願望と地域の眠れる資源を結びつける「人的資本循環の回路」だった。
本稿では、この仕組みを出発点に、AI・バイオ技術・宇宙開発といった先端領域と地方創生を接続し、人と場所の再配置による「惑星的地方創生モデル」の可能性を考察する。
夜勤明けの空に浮かぶ星々を見上げながら、筆者は思う。
まちを元気にすることは、人を元気にすることであり、
人を元気にすることは、やがてこの惑星をも再生させる営みなのだと。
序論
本稿は、株式会社おてつたびが運営する「お手伝い」と「旅」を融合したマッチングサービスを出発点として、地域活性化の新たな可能性を探究するものである。筆者は40代半ばのコンビニ夜勤アルバイトとして、深夜2時の店内で商品棚の補充をしながら、しばしば地方からの配送トラックを眺める。運転手の疲れた表情、積み荷の地方特産品、そして帰路の空荷。この光景から想起されるのは、人とモノの流れが一方通行になった現代日本の縮図である。
「おてつたび」は登録ユーザー7万人以上、全国1,300以上の事業者が参加するプラットフォームとして、都市から地方への人の流れを創出している。しかし、筆者の妄想はここで止まらない。この仕組みが進化した先には、AI による最適配置システム、バイオ技術による地域産業革新、そして究極的には宇宙開発と連動した「惑星的地方創生」が待っているのではないか。
本論第一節 コンビニ夜勤からみた人的資本の可能性
深夜3時、コンビニには様々な人が訪れる。タクシー運転手、看護師、工事作業員。彼らとの短い会話から気づくのは、誰もが「どこか別の場所」への憧憬を持っているということだ。ある40代の配送ドライバーは、「いつか田舎で農業をやってみたい」と語った。別の50代の清掃員は、「旅館で働いてみたかった」と笑った。
「おてつたび」が提供するのは、まさにこの「潜在的願望」の実現機会である。宿泊費無料、まかない付き、最短1泊2日から参加可能という低いハードルは、不安定な雇用環境にある労働者にとって、人生を再設計する入口となりうる。実際、50代、60代、70代の参加者が増加しており、年齢不問の参加体制が、人生後半の生きがい創出に寄与している。
しかし、ここで筆者の妄想は加速する。もし、このマッチングシステムがAIによって最適化されたらどうなるか。参加者の潜在能力、地域の隠れたニーズ、さらには気候変動による農作物の移動予測まで組み込んだ「超知能型人的資本配置システム」が誕生すれば、人は「必要とされる場所」に最適なタイミングで配置される。コンビニのレジで受け取るレシートには、「あなたに最適な地域ミッション」が印字される未来が来るかもしれない。
本論第二節 バイオ技術と地域産業の融合
筆者がコンビニで棚に並べる弁当や惣菜の多くは、大手食品メーカーの工場から配送される。地方の小規模農家が生産した野菜や米が、この流通網に乗ることは稀だ。しかし、「おてつたび」の仕組みは、都市住民が直接地方の農業現場に入ることで、生産と消費の距離を縮める。
この体験がさらに進化したらどうなるか。例えば、参加者が地方でバイオ技術による新品種開発に携わるプロジェクトに参加する。遺伝子編集技術によって、寒冷地でも育つ熱帯果実、塩害土壌でも収穫できる稲、宇宙空間での栽培に適応した野菜。これらの研究開発拠点が地方に分散配置され、「おてつたび」参加者が短期間の研究補助として関わる。
深夜のコンビニで、筆者は冷凍庫の扉を開けながら想像する。もし、この冷凍食品が「月面栽培野菜使用」と表示されていたら。地方の過疎地域が、宇宙食開発の最前線になっていたら。妄想は止まらない。地方創生とは、もはや地球上の問題ではなく、宇宙開発と表裏一体の「惑星的課題」なのだ。
本論第三節 宇宙開発と地方創生の接続
「おてつたび」のビジョンは「日本各地にある本当にいい人、いいもの、いい地域がしっかり評価される世界を創る」である。しかし、筆者の妄想はこの「世界」を「惑星」に拡張する。
地方の過疎地域は、実は宇宙開発における「閉鎖環境シミュレーション」の最適地である。限られた資源、少ない人口、孤立した環境。これらは月面基地や火星コロニーの条件と酷似している。もし、「おてつたび」が宇宙航空研究開発機構と連携し、「宇宙開拓訓練プログラム」として地方での長期滞在を提供したらどうなるか。
参加者は農業、建築、医療、エネルギー管理などのスキルを地方で習得しながら、同時に宇宙居住の訓練を受ける。地方の空き家は「模擬月面ハビタット」に改装され、地域住民は「地球最後の世代の知恵の伝承者」として尊敬される。人手不足に悩む農家は、実は「次世代宇宙農業の教授」だったのだ。
コンビニの窓から見える夜空の星々。筆者は、いつかあの星のどれかに、地方で培われた知恵が届くことを夢想する。
本論第四節 デメリットの克服と持続可能性
もちろん、「おてつたび」には課題も存在する。交通費の自己負担、比較的安い給料、人気求人の高倍率。しかし、これらは技術革新によって克服可能だ。
交通費問題は、自動運転技術とカーシェアリングの普及によって解決される。地方への移動がコスト的にも時間的にも効率化されれば、参加のハードルはさらに下がる。給料の低さは、地域通貨や体験価値の可視化によって補完される。労働の対価は金銭だけでなく、「人生の豊かさポイント」として蓄積され、将来的な移住支援や起業資金に転換可能になる。
筆者がコンビニで扱うポイントカードのように、「人生ポイント」が貯まる仕組み。妄想は果てしなく広がる。
結論
深夜4時、コンビニの外で朝刊配達のバイクが走り去る。筆者は、今日も変わらぬ日常を繰り返す。しかし、「おてつたび」のような仕組みが、誰かの人生を変え、地域を変え、やがて世界を変える可能性を秘めていることを知っている。
地域活性化とは、インフラ整備でも補助金投入でもない。それは「人が動き、出会い、関わり合う」という極めて原始的で、それゆえに普遍的な営みである。AI、バイオ技術、宇宙開発。これらの先端技術は、この原始的な営みを加速し、拡張し、そして再発見させる道具に過ぎない。
まちを元気にするのは、結局のところ「人」である。コンビニの夜勤バイトも、農家も、旅人も、そして未来の宇宙飛行士も、すべては同じ「人」という存在だ。「おてつたび」が創出するのは、この「人」と「人」、「人」と「場所」、そして「人」と「未来」をつなぐ回路である。
筆者は明日も深夜のコンビニで働く。しかし、レジを打ちながら、棚を整理しながら、いつかこの手が地方の土を触り、宇宙の扉を開く日を夢見ている。まちを元気にすることは、人を元気にすることであり、それはやがて、宇宙を元気にすることなのだから。
深夜のコンビニで働きながら、筆者がこの論文を書こうと思ったのは、「地域創生」という言葉が、あまりにも遠く感じられたからだ。
政策でも、補助金でも、制度でもない——もっと個人的で、もっと素朴な「動き」が、社会を変えるのではないか。そう思った瞬間、「おてつたび」という仕組みが、単なる求人マッチングではなく、人間の可能性を再配置する回路として見えはじめた。
筆者にとって「地方」とは、地図上の場所ではなく、「誰かが必要とされる場所」のことだ。
その場所は、AIが最適化し、バイオ技術が支え、宇宙開発が拡張する。だが最終的に、その場所を動かすのはいつの時代も「人」だ。技術は、人がもう一度「他者と関わる勇気」を取り戻すための媒介でしかない。
この小論は、夜勤の休憩時間に書かれた。
コーヒーの湯気が立ちのぼる瞬間、棚に並んだ弁当を整えるとき、配送トラックのブレーキ音が響くたびに、筆者は考える。——「この日常の延長線上に、未来があるのではないか」と。
地域を動かすとは、人を動かすこと。
人を動かすとは、心を動かすこと。
心を動かすとは、想像すること。
「おてつたび」のような仕組みが、その想像の火種を灯す限り、地方創生の物語は終わらない。
そして筆者もまた、今夜もレジを打ちながら、その火を絶やさないために考え続けている。




