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10月12日 第35話、リチウム文明圏の夜勤者──マイクロ波冶金と地域共創の未来社会論

 深夜のコンビニは、社会の終端であり、出発点でもある。

 静まり返った街の中で、光を放つその空間には、経済の循環、孤独の息づかい、そしてテクノロジーの残響が同居している。レジに立つ私は、ただの労働者ではなく、時代の変化を観測する“夜の気象観測員”のような存在だ。


 ある夜、小さな新聞記事が、私の想像を未来へと解き放った。

 ——「マイクロ波リチウム製錬、世界初の実証成功」。

 その一文の背後に、地域再生とエネルギー革命が交差する可能性を見た。


 この構想は、深夜の労働現場から立ち上がる地方創生のSFである。

 リチウムの波がエネルギー循環を変え、AIが孤独を見守り、コンビニが宇宙へとつながる。そんな“あり得そうで、まだ来ていない現実”を描く試みだ。


 人類が宇宙に進出する時代に、地域の未来を構想するとはどういうことか。

 ——その答えを、ひとつの夜勤レジから探っていきたい。


序論:深夜のコンビニから見た地域の黄昏


「いらっしゃいませ」


大阪市住之江区の24時間コンビニ「生活支援マート」の深夜バイト歴12年、43歳の私がレジカウンターに立っていると、外では雨の音と大型トラックのエンジン音が交互に響く。店内には温冷両用ケースのLED照明が青白く店内を照らし、惣菜ケースにはから揚げ棒が冷めていくのを眺めながら、私はこの1年の変化を考えていた。


この数年で近隣の町工場は撤退し、空き店舗には「テナント募集」の紙が黄ばんで貼り付いている。唯一の変化と言えば、去年できた「Amazon Robotics Hub」の配送センターくらいだ。しかしその物流基地も、AI群衆最適化アルゴリズムの最適化で深夜のトラック往来は激減した。夜中の2時を回ると、店内には配送ドライバーとキャバクラ帰りの客くらいしか来ない。


しかし2025年9月29日深夜、私がバイト中に見た中日新聞の小さな記事がその全てを変えた。


「三井物産と大阪大学発ベンチャーが世界初、マイクロ波リチウム製錬の実証機が完成」


レジカウンター裏の小型テレビで流れるこのニュースを、私は惣菜温め用の電子レンジを拭きながら見ていた。ふと「うちの店舗でも使えるかも?」と冗談半分で思ったその瞬間に、私のSF妄想は始まった。



本論:深夜バイトの妄想が宇宙にだって届く


1. 煆焼炉の鼓動が地域を変える(現実の種)


まず私が理解したかったのは、「マイクロ波煆焼」という技術だ。検索エンジンで調べてみると、いくつかの公式リリースが見つかった。


「本パイロット機は、リチウム鉱石を連続で煆焼処理するマイクロ波昇温装置で、CO2排出量の大幅な削減、及び熱効率改善による省エネルギー化を実現します」


この文章を深夜の休憩室でノートに書き写しながら、考えた。


「つまり従来は化石燃料で高温処理していた工程を、レンジでチンするように効率的にできる?」


レジ締め作業の合間に、大阪事業所のGoogleマップ、航空写真を確認。マイクロ波化学の大阪事業所は、住之江からだと南海線で15分の粉浜にあることがわかった。


するとふと頭に浮かんだのは、「その排熱、地域で使えないか?」という疑問だった。深夜の惣菜ケースを整理しながら、妄想は加速する。



2. 深夜の妄想:コンビニが宇宙への窓口に(本論SF拡張)


2.1 リチウムの波が拓く「宇宙コンビニ」


2030年。三井物産が商業化した7万トンの大型工場が大阪湾岸に竣工。CO2排出量は従来比で83%減。その排熱を地域冷暖房に回し、周辺商業施設の電力自給率45%を達成。


私が働く「生活支援マート」は、「宇宙コンビニ」に改装された。店内奥にはNASAと共同開発した「宇宙食自動調理機」が設置。惣菜ケースには月面栽培のレタスを挟んだバーガー「Lunar Lettuce」が並び、から揚げ棒は「ISSおつまみセット」として真空包装される。


深夜バイトの私は、宇宙飛行士候補生訓練後の宇宙食を試食する彼らに、から揚げ棒を温めながら聞く。


「宇宙でもこれが一番美味しかった」


2.2 AI自治体が描く「住之江モデル」


同時に、三井物産と大阪大学が開発するのは、「地域活性AI」。コンビニのPOSデータから高齢者の来店パターンを分析し、深夜にのみ発生する「孤独来店者」に対し、自動的に地域包括支援センターに通知するシステムが完成。


私のバイト先では、レジ画面に「要注意顧客」のタグが表示されるようになる。70代独居老人、田中さん(仮名)が深夜2時に酒類と即席麺を購入すると、AIが判断し、自動で地域包括に通知。翌朝には民生委員が訪問する仕組みだ。


「これって監視社会じゃん」と最初は抵抗を感じたが、田中さんが話す。


「去年ここで倒れた時、君が救急車呼んでくれたやんか?今度はAI君が守ってくれるんや」


2.3 限界集落の救世主「Li-ionFarm」


和歌山県の限界集落では、三井物産が撤退した工場跡地に「Li-ion Farm」が造成される。マイクロ波で精錬した低炭素リチウムで、家庭用蓄電池を大量生産。農協と提携し、耕作放棄地にソーラーパネルと蓄電池を点在設置。


深夜バイトの私は、休憩時間にFarmのWebカメラをチェックする。画面には、田んぼ一面に浮かぶ蓄電池ユニットのLEDが、青く点滅する様子が映る。


「昔、田んぼの虫光灯見てたけどな、今は蓄電池の光や」と大阪弁でつぶやきながら、から揚げ棒を温める。



3. 地域活性の化学反応(妄想の収束)


妄想を現実に近づけるため、私は深夜バイトの合間に「住之江未来会議」という市民グループを立ち上げた。メンバーは元町工場の社長(65歳)、大学生(22歳)、Amazon配送ドライバー(28歳)。


2035年までに達成した3つの成果:


一つ目は、「リチウム排熱水族館」。工場の排熱で水温を管理する水族館が完成。大阪湾の絶滅危惧種「イタセンパラ」の繁殖に成功。深夜バイト視点では、休日に水族館でバイトする私は、展示水槽の温度調節パネルを調整しながら思う。「この水温、うちの実証機と連動してるんやで」


二つ目は、「宇宙食特区」。コンビニを起点に、宇宙食開発特区に指定。NASAと提携し、コンビニ惣菜の宇宙食認証を取得。カウンター実績として、深夜2時の来客が、宇宙食を試食する研究者で一杯になる。から揚げ棒が「ISSおつまみセット」として輸出される日が来るとは…。


三つ目は、「AI見守りネットワーク」。コンビニPOSデータと連動した孤独死防止システム、住之江全区で導入。バイト中の気づきとして、深夜の来客が「AIに守られてる」とつぶやきながら酒を買いに来る姿に、感慨を覚える。



結論:深夜のレジが照らす未来


2050年、住之江の夜空を見上げると、リチウム蓄電池で浮かぶ「人工流星」が流れ、宇宙コンビニの看板が青く光る。


私は、定年退職した後も「生活支援マート」でバイトを続ける。から揚げ棒を温めながら思う。


「この小さなコンビニが、宇宙への窓口で、地域のみんなの命綱で、未来の起点やったんや」


深夜2時、店を後にする時にレジ画面に映るAIの言葉。


「今日の来客数、宇宙食試食者8名、孤独防止アラート1件、から揚げ棒売上12本」


ボタンを押してシャッターを下ろす音と、宇宙開発基地から聞こえる作業の音。


「明日も、宇宙と地域を、温冷両用ケースでつなぐんやで」


 深夜のレジに立つとき、私はいつも思う。

 「ここが世界の最小単位の公共圏かもしれない」と。

 買い物客、配送ドライバー、夜勤明けの看護師。誰もが無言のまま、光と熱を少しずつ分け合いながら夜を越えていく。その姿は、どんな行政計画よりも誠実な“共生の風景”だった。


 この論文に書いた「宇宙コンビニ構想」は、技術や制度の話ではなく、希望の持ち方の提案である。

 リチウムの波も、AI自治体も、結局は人間が“誰かを支えたい”と願う気持ちの延長線上に生まれる。未来を変えるのは、巨大な企業でも国家でもなく、深夜にレジを打ちながら次の仕入れを考えるような、現場の想像力なのだ。


 2050年の地域社会を描くことは、未来の技術よりも、今この瞬間の小さな関係性を見つめ直すことに等しい。

 宇宙へ伸びるテクノロジーの線と、レジ前の一言「おつかれさまです」が、同じ回路でつながる世界。そこにこそ、人と地域と宇宙をつなぐ“循環の倫理”が宿る。


 この構想は終わりではなく、始まりに過ぎない。

 今日も私は、温冷両用ケースの前で、次の物語を温めている。


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