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8、金と亡者


俺はその後も16階層でスライムを狩りまくった。スライムには赤、黄、青の三色の通常スライムと、薄い灰色のアサルトスライムがいる。通常スライムが落とすスライムゲルはどれも普通の純度だが、アサルトスライムが落とすスライムゲルは高純度だ。


高純度のスライムゲルでペットボトルを満たせたらそれだけで10万はくだらない。その分出現率も低いが、16階層よりさらに下に降りればよりアサルトスライムの出現率も高くなる。


スライムゲルはその量にばらつきはあるがだいたい20体分もあればペットボトルを満たすことができるだろう。


EXPを使う前にアサルトスライムを5体、通常スライムを10体狩っており、適応値を上げてからはさらに効率が上がっている。


EXPについてはアサルトが10、通常が5ポイントだったが、20体くらい倒すと下がり始めた。ゴブリンの時よりも下がり始めるのが早い。俺が強くなったのが関係しているのか?


ポイントはともかく、狩りもスライムゲル集めも大変順調なのだが、一つ、懸念点がある。モンスターを倒せば得られるドロップアイテムには魔石と、素材がある。素材は確率によっては出ないこともあるのだが、魔石は確定でドロップする、はずなのだが、ちょくちょくドロップしないことがあった。




実は原因は分かってはいたりする。





手に持った黒刀を見る。相変わらず美しい見た目をしているが、こいつでモンスターを仕留めた場合、高確率で魔石がドロップしない。


こいつは呪われている。なぜ鑑定もしていないのに分かるのかというと、見ればわかる。こいつ、薄っすらとどす黒いオーラみたいなのを放っているのだ。これは呪われてるよね。


だが、呪われていることによって受ける効果も、最初こそ死にかけたが、常にちょっとした傷を小指に付けとくだけで容易に抑えることができた。


それに何より手に馴染む。俺が道場で習った剣術が直剣に適したものであったのもあるが、それ以上にこれしかないっていうレベルで扱いやすい。それになんだかんだ呪われた忍刀っていう肩書がかっこいい。見た目もいいしできれば使い続けたい、と思っていたのだが…


収入源であるドロップアイテムを消されちゃちょっとねぇ…


それに、モンスターを切るたびに禍々しさが増幅している気もする。多分あれだ。生物の生き血を吸って成長するタイプの奴だ。



いつか俺も乗っ取られて辻斬りとかになっちゃうんじゃないの?




しかし、俺が持ってる唯一まともな武器だし、イギリスに旅立ってしまった才花との大事な思い出でもある。とりあえずスライムで稼いで、お金が溜まったらほかの武器を買おう。そしてこの武器は家のどこかに飾っておこう。幸い芸術品としてみても遜色ないし、いい考えだろう。



それからはなるべく黒刀を使わないようにしてスライムを狩った。するとやはり魔石がドロップするようになった。


そしてついに、ペットボトルが満タンになった!!高純度のスライムゲルも半分ではあるが溜まった。


まだ時間的には余裕があるが、今日はもう戻って換金をしよう。楽しみだな~。









上層に戻ると相変わらず人でごった返していた。換金所の前にも人がたかっており、受付の数も小鬼の住処と違って多い。


換金所の列に並び、自分の番を待つ。すると嫌でも他の冒険者の話が聞こえてくる。



「おい、また増えてねぇか?まったく、このままじゃ俺の収入が減っちまう!」


「まったくだ。このダンジョンは俺らの縄張りだってのに…少し多めに見たら調子こきやがって!!」


何だよ縄張りって…田舎のヤンキーかよ。


「実際どうするよ、このままじゃ本当に俺らの収入無くなっちまうぞ!」


「たしかにな。だが、俺たちにはあの方法があるだろ?」


「そうだな…久々にあれを…」






っと、俺の番が来た。


「換金お願いします」


「かしこまりました。それではそこのトレーにドロップ品と証明書をおいてください」


受付してくれたのは黒髪ロング眼鏡の美人さんだった。その冷ややかな目ががたまらん。この列だけ並ぶ人が多いのはこの人に対応してもらいたいからだろう。俺もそうだ。


「お願いします!!」


リュックからペットボトルと魔石、冒険者証明書を出し、トレーの上に置く。


「おや、一本丸々集めるなんて、やりますね。それにこっちは高純度のスライムゲル?随分頑張りましたね」


「少し危ない橋を渡りましたが、スキルの相性がよくてですね…」


「なるほど。分かりました。それでは少々お待ちください」


そういって奥の方へと行ってしまった。ちょっと待つってどれくらいだろう。長蛇の列の先頭で待つのは少し気が引けるぞ。


「っうお」


後ろから肩を掴まれ、強引に振り向かせられた。振り向いた先には頭の禿げた人相の悪いおっちゃんがすごい形相で俺を睨んでいた。


「おい、坊主、お前新顔だよな。あの量、一日で集めたのか?どおりで今日はいつにもましてスライムの数が少なかったんだ。お前はここのルールを分かってない。今回は許してやるから売り上げの半分をよこせ。そしてその方法を教えろ。不公平だろうが」


唾を飛ばしながらすごい剣幕でそう言ってきた。理不尽すぎて逆に面白い。少し付き合ってやるか。


「それはそれは、すみません。あなたのおっしゃる通り私は新参者でして、ここのルールなんて知りもしませんでした。良ければ無知なわたくし目にそのルールとやらを教えていただくことは可能ですか?」


すこし芝居がかりすぎたか。これじゃすぐに馬鹿にしていることに気づかれてしまうだろう。と、思ったが俺の態度が気に入ったのか肩の手を放して笑顔になった。


「いい心がけじゃねぇか。仕方ねぇ、教えてやるよ、いいか?ここ粘性の極はな、古くからある伝統的なダンジョンなんだ。俺たちはこのダンジョンで育ってきた。スライムの厄介さは知ってるだろ?それを工夫しておれたちが倒してきたんだ。10年前なんかは価値の低いダンジョンだとか言われて見向きもされなかった。それが最近になって儲かると分かった途端この有様だ。俺たちの苦労も何も知らねぇ奴らが金儲けのためだけに俺たちのダンジョンで勝手しやがる。」


その言葉に後ろでうなづくおっさんたちが数人。恐らく「俺たち」側の人間だろう。


「その上勝手に効率的な方法を見つけた部外者が俺たちのダンジョンで俺たちより儲けやがる。そんなの許されていいわけねぇ。だが、俺たちも鬼じゃねぇ。ここで儲けること自体を禁止する気はねぇんだ。ただ俺たち以外の奴は一日にペットボトルの3分の1以上集めちゃならねぇ。このルールを守れれば許してやることにしたんだ。それと、効率的な集め方を思いついた奴は自分から言い出すこと。ただ発想が優れたやつが努力してる俺たちよりも効率よく稼いでるのも不公平だろ?」



だ、そうです。そういえばここのダンジョンについて調べているときそんなことを書いてるサイトがあったな。非正規のものだった上にふざけた内容だったので無視していたがこいつらだったのか。


確かに俺より前で換金していた人達は確実に3分の1より少なかったが、上層なら人も多かったしそんなもんだろう。偶然彼らの基準に満たなかっただけで他の人もそんなルール知らないだろう。事実、「そんなルールあったのか、いやないだろ」というささやき声がちらほら聞こえる。


「そうなんですね、知らなかったです…。そこの人はどうです?このルールについてどう思います?しってました?」


こういう勘違いおじさんたちは集団でしっかり否定してやらなければならない。しかし、誰もがおかしいとは思ってはいるものの、関わりたくないと思ってしまうのもまた人の性。そういう時は名指しをすると当事者意識が出てはっきりと意見を言えるようになるのだ。


「え、おれ?」


「そうですあなたです」


さぁ、皆でこの理不尽に立ち向かおう!!


「…やっぱり不公平なのはだめだなって思うよね。効率的な方法は皆で分け合うべきだと思う」


は?え、そっちの味方なん?


「そ、そうだよな、ずるい、ずるいぞ!」 「資源は皆で分け合うべきだ!」 「やっぱ普通に不公平だろ!教えるべきだ!!」


なんと列の全員がおじさん派になってしまった。結局はこいつらも効率的な方法があるのなら知りたいだけなのだろう。


何処まで行ってもヒトカスはヒトカスか…


「そんなルールはありません。ダンジョン業は慈善事業でもなければ地域の人の憩いの場でもありません。そもそもこのダンジョンを管理してきたのは国です。それにあなた方はれっきとした社会人でしょう。経済の基本は競争。あなた方も冒険者の端くれなら己の力で己の道を切り開いてみてはどうですか?まったく情けない」


受付のおねぇさんが戻ってきたかと思うと背筋が凍りそうなほど冷たい声で一括した。


「次、そのような理屈を持ち出したり、それに賛同している現場を発見したら冒険者組合の方からペナルティを科します。以後気を付けるように」


「「「「すいませんでした」」」」」


「なぜあなたも謝るんですか?」


「なんとなくです!!すいません!!」


「はぁ。それでは、査定結果についてはこちらに、金銭は冒険者証明書に振り込んでおきましたので、現金に換えたい場合は換金所、銀行などをご使用ください」


「ありがとうございます」


今すぐ金額を見たいがおじさんたちが俺を睨んでくるので家に帰ってから見ることにした。







極小魔石 300円×28

スライムゲル 50,000円×1

スライムゲル(高純度) 100,000円×0.5


計 108,400円



なんと、一日の稼ぎが10万を超えてしまった。あまりの収穫に手が震える…!!


今日一日だけで最近のマイナス分を全て帳消しにしてしまった。スライム討伐はその性質ゆえに一度でもミスってしまえば助かることは困難だ。しかしこれだけ稼げるのであれば誰もがこぞってあのダンジョンに足を運ぶのも分かる気がする。




今日は頑張ったし、とりあえず今日は焼き肉だ!!








$$$







「くそ、あのガキ…よそ者の分際で調子こきやがって…」


「あの受付の女もだ!!見とけよ、いつか滅茶苦茶にしてやるからなっ!」


ある古ぼけた建物の中、平人努に絡んでいた中年男性が3人集まっていた。ここは彼らが昔事務所として扱っていたテナントの一室だ。今では倒産してしまい冒険者として働いているが、あるビジネスのために再び仲間で金を出し合って借りている。


「まぁまあ、そんなことよりちゃっちゃとやっちゃおうぜ。あんなガキほっとけ、どうせペットボトル1本分しか稼げねぇんだったらこっちのが効率良いだろ」


「それもそうだな。しかし、最近は地域活動とやらの一環で動物も減ったからなぁ、素体の回収方法は見直さんといけんな」


そういいながら部屋のいたるところにある冷蔵庫を開ける。その中にはカラスや猫、ハトなどの死骸が冷凍保管されていた。


これらは彼らがボランティアとして行っている死体回収によって集められたものだ。その死体を処分するのではなく、彼らは有効活用している、と思っている。


「確かに、前より全然少ねぇじゃねぇか。人間だったらこれくらいでも十分なんだけどなぁ」


「ハハ、確かに。どうせ燃やすくらいだったら俺たちにくれってんだ」


「いいからさっさとやるぞ!種はちゃんと捕獲してきたんだろうな?」


「モチロン朝飯前よ!じゃあやるか!」


事務所の倉庫を改造して作った地下部屋。そこには牢屋のような檻で囲まれた空間があった。

その檻の中に自然解凍した死体を投げ入れる。


「よし、準備はいいか?」


「「おう!」」


「じゃあやるぞ!『解放』!!」


右手を前に出し、そう叫ぶとスキルの影響か目の前の空間が少しゆがんだかと思うと、その中からスライムが出てきた。スライムは当然、近くにいる人間に襲い掛かろうとする。


「『パラライズ』!」


そこにもう一人の男がスキルを発動。手から放たれた黄色い光に囚われたスライムは一切動けなくなる。

動けなくなったスライムを檻の中に残し、二人は脱出。扉を閉め、一息つく。


「ふぅ、いつもこの瞬間だけはひやひやするぜ」


スキルの効果が切れたスライムは再び男たちに襲い掛かろうとするが、檻の外には出られない。数分、檻に向かって突撃していたがやがて静まり、近くにおいてあった死体に興味を示し始めた。


そして、猫の死体にまとわりつき、その死体を溶かし始めた。


「よし、後は頼んだぜ!!」


「まかせろ、たくさん増えろよ!『ハーヴェスト』!!」


スキルの効果で牢の中が緑色の光で満たされ、死体からうっすらと苔が生えてくる。

そして、スライムに至っては通常よりもはるかに早い段階で分裂を始めた。


「何度見てもすげぇな…農家にでもなればよかったのによ」


「馬鹿言え、あんな土くせぇことやってられっか」


「それもそうだな」


「「「ハハハハハ」」」


笑い声が響く。彼らが行っているのはスライムの栽培。スキルを使い、ダンジョンからスライムを連れてきて、増やす。それを檻の外から狩ることで安全に、大量にスライムゲルを手に入れるという彼らの最近の稼ぎ頭である。


モンスターの故意の連れ出し、および繁殖がばれれば即死罪である重い国家反逆罪であることを除けば、確かに大変効率的なビジネスである。







しかし、忘れてはならない。モンスターは決して、人の味方ではないということを。








「そういえばお前が連れてきたスライム、黒色ってそんなの上層にいたか?」



「そういえば…まさかお前、これアサルトスライムか?16階層まで行ったのかよ!?」


「いや、なんか黒いローブ着た男…?がよ、どうやら俺たちと同じ商売してるらしく、おすそ分けってことでこいつをもらったんだわ。何でもこの商売のために特別に調整したスライムらしくて超高純度スライムゲルをドロップするらしいぜ」


「おいおいマジかよ…分裂してるスライムも黒色ってことは上手くやれば俺たち一生遊んで暮らせるぞ!!やくやった!!」


「ハハ、よせやい。これで疎遠になっちまった女房も帰ってくるだろ。そしたらな、うんと贅沢させてやるんだ。」


「この幸せもんが!!ハハハ」


「ハハハハハ!…ん?なんかスライム少なくなったか?てか、あれ?あいつあんなに大きかったっけ?」


先ほどまで順調に増え続けていたはずだが、視線を戻せばそこにいたのは一匹のスライムだった。


しかし、その大きさはバスケットボールくらいの大きさからバランスボールほどになっている。


そして、たくさんあったはずの死体がもう一つもない。あまりに早すぎる。スライムは体から消化液を分泌し、溶けた部分を吸い取るようにして食べる。それはつまり、このスライムが異常なほどの消化力を備えているということ。


これはあまり知られていない事実だが、スライムは常に飢えている。そのため、食事を終えればすぐに次の標的が自分の探査範囲に入るように移動する。


そのスライムはすでに探査範囲に、3体の餌を捉えていた。




「なぁ、なんかこのスライムおかしくないか?でけぇしなんかずっと俺たちのこt


ッジュ


スライムから消化液が吐き出された。結果、男の頭が溶け消えた。


「ハハハは、は?」


突然、目の前で頭が消えた。よく理解できなかった。檻の方を見ると鉄格子が溶けてそこから黒いスライムが解放されようとしていた。


「『パラライズ』!!」


しかし、彼らも長年冒険者をやってきた。同じダンジョンをずっと探索していたので決して強くないが、その分スライムの扱いには長けている。


スライムは、先手を取られれば死ぬ。


「そのまま抑えとけ!育て!『ハーヴェスト』!!」


ポケットに忍ばせておいた種をスライムに投げつける。命中と共に一気に育ち、その丸い体をがんじがらめにした。その後も成長は止まらず、スライムを強かに締め付けるが何故か死なない。


「動きは完全に止まった!今しかない!」


「おう!あいつの仇!!」


念のためにおいていたハンマーと剣を持ってスライムに飛び掛かる。普通のスライムなら過剰といってもいいほどの攻撃。


そう、普通ならば。


キィィィィン…


金属同士がぶつかったかのような甲高い音の後、ハンマーと剣の先が宙を舞った。


「ハ?どういう意m ッジュ


「あ、は、え?あ、あぁ、うわああああ!!!!来るn ッジュゥ



、、、



そして、静かになった。静かになった部屋でスライムはゆっくりと食事を始めた。人間の、特に魔力の高い個体はモンスター達にとって非常に良い栄養源になる。スライムの体積はさらに2倍ほどに膨れ上がり、小学生程度なら丸呑みできるほどになった。


しかし、まだ腹は満たされない。お腹がすいた。黒いスライムは、その探知範囲を広げた。すると、そこには多くの人間がいることが判明した!!


その事実にスライムは体を揺らして喜んだ。そして、一番近い標的に向かって一直線に進んだ。


壁も、扉も全て溶かして。何物も、それを止めることはできなかった。












どこかの暗い部屋の中、黒いローブの男が笑った。










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