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4/25

4、死線



振り上げた爪を何とか避けるが、追撃の手に胸を少し切られ、血が飛び散る。


俺が今持っている武器はそこらの店で買ったナイフが二本だけだ。本当は剣がよかったのだが剣はまだお金が足りないしゴブリン相手に使わないだろうと思っていた。そもそもまだ冒険者2日目だぞ?こんな強敵と戦う予定なんてなかった!


しかし、ダンジョンにそんなこと言ったって通じるわけがない。もともとダンジョンは人間の味方ではなく、むしろ敵なのだから。


ダンジョンを侮っていた。そのツケが来た。ナイフじゃ爪の攻撃を防御しきれない。距離を離すしかないのだ。


バックステップで距離をとる。これで爪の射程範囲から逃れた。そう思ったら足元に違和感。その場でジャンプし、足元にスキルボードを展開、すると俺の足元から岩の棘が複数飛び出てくる。


そしてまた距離を詰められて苦しい展開が続く。ゴブリンの爪攻撃は早い。その上まともな装備をしていない俺は一撃でも食らえばそのままあの世行きだ。


「くそ!最弱ダンジョンにお前みたいなのが居ていいのか!?明らかにC級はあるだろ!!」


何を言ってもニヤニヤしながら攻撃をやめようとしない。少し気を抜けば足元から伸びてくる棘に貫かれてしまう。


救いは棘の攻撃は早くはなく、充分見て避けれるということ、そして恐らくゴブリンは攻撃力は高いが防御力自体は通常と変わらないことだ。苦し紛れに飛び出た棘を蹴り飛ばすとその破片がしっかりと顔面にあたり、血が出ていた。この攻撃のおかげで敵は右目を失った。それでも口元のニヤニヤは消えず、そのまま攻撃を繰り出してくる。


だが、おかげで倒せないことはないことが分かった。動きも攻撃に対するスピードは速いが防御や回避は全くしない。


つまり、俺が攻撃に転じることができればこいつを倒すことができる。しかし、その場合、差し違える形になるだろう。こんな初心者ダンジョンで俺の夢どころか人生が終わるだと?そんなのごめんだ。


だが現状、スキルボードも使って防御に回って、それでも若干さばき切れていないのだ。防御しながら攻撃なんて今の俺のリソースじゃ足りない。


そう考えているうちにも右腕が、左足が、右耳が、避けきれずに切り裂かれる。まだ細かい傷だがこのまま続ければ確実にでかい一撃を食らう。


「クソゲーすぎる!!」


もう考える余裕はない。一か八かだ。道場でも習ったろう、自分より強い相手と戦う時は、むしろ早く決着をつけるべきだと。


相手は今右目を失明している。ここを攻撃の起点とすれば多少被弾のリスクを抑えられるだろう。常に相手の右側に陣取り、隙を伺う。


振り下げ、振り上げ、横なぎ、嵐のような猛烈な攻撃の中、一瞬、疲れが見えたように見えた。或いは失血しすぎた俺の幻覚かもしれないが、もう関係ない。


両手にナイフを持ち、こちらから突然接近する。それを待っていましたとばかりにそこに合わせて爪を振り下げてくるがそれを急停止することでぎりぎり避け、目の前数ミリを異常に鋭い爪が通り過ぎる。


がら空きになった顔面にナイフを突きさす。ナイフは首元と残った左目に深々と刺さった。明らかに致命傷。それと同時に腹部に激痛が走る。


「ッツウウウウ!!」


見れば腹に爪が深々と突き刺さっていた。しかし、もう止まるわけにはいかない。腹に力を入れ、爪が抜けないようにして突き刺さった首のナイフを横に引く。


爪で攻撃ができないと悟ったゴブリンは俺の足元から岩の棘を出そうとするがあらかじめ足元にはスキルボードを張っているため棘は生成できない。この棘だけは当たったら即死だ。それだけは避けたかった。


ゴブリンの首から血が噴き出る。と、同時にその血ごと霧になって消えていった。


「か、っだ、ッハ!ざまぁみろ!!お”ええええ」


腹に刺さっていた爪も霧になって消え、血が噴き出る。


勝利の余韻に浸っている暇はない。このままじゃ遅かれ早かれ失血で死んでしまう。


「スキルボード!ゴボッ、ゴホッ」


喉に血が絡んでくぐもった咳が出る。



名前:平人努 (ヒラビト ツトム) 

種族:ヒューマン

スキル:設定変更(固有 鑑定系)

耐性:水属性耐性(弱) 邪属性耐性(弱) 物理攻撃耐性(弱)

称号:ー

属性:神聖(微弱)

適応可能一覧

<筋力>25/100 <俊敏>10/100 <持久力>23/100 <魔力>20/100

<精神力>14/100<神聖魔法>20/100

使用可能EXP200



あの異常なゴブリンを倒したことで一気に200EXPも入った。普通の武器もちゴブリンが4EXPだったのを考えるとその50倍か。だめだろ、そんなのがEランクダンジョンに出ちゃ


名前:平人努 (ヒラビト ツトム) 

種族:ヒューマン

スキル:スキルボード(固有 鑑定系)

耐性:水属性耐性(弱) 邪属性耐性 物理攻撃耐性(弱)

称号:ジャイアントキリング

属性:神聖

適応可能一覧

<筋力>25/100 <俊敏>10/100 <持久力>23/100<魔力>100/100(MAX)

<精神力>54/100<神聖魔法>100/100(Max)

使用可能EXP0


魔法系の能力に全振りした。下位の神聖魔法じゃこの怪我を癒せない。これだけが俺が生き残る道だ。発動するための呪文も覚えている。



「主よ、偉大なる我が神よ、私は信じます、貴方が私にもたらした幸運を、その全てを。今一度その御力によってささやかな奇跡を授け給え、『ハイヒール』」


ロウヒールの時よりもはっきりとした緑色の光が俺の腹を満たす。内臓が見えるほどの傷が一瞬のうちに治っていく。しかし、かすり傷を直した時は少し暖かい程度だった感覚が、今じゃ燃えるように熱い。


「ッグ、オ”、オ”オオオオオ!」


痛い痛い痛い。腹が燃えるように痛い。だがそれも少しづつ収まり、傷も完全に塞がった。新しくできた皮膚がほかの部位と比べて白いことだけが俺が確かに重傷を負った証拠だ。


「ふ、ふ、ふぅ、よし、はー、何とかなった…」


死にかけた。一歩間違えれば、或いは俺が一歩踏み込まなければ、死んでいた。まだ俺は15歳だぞ、死んでたまるか、なんて思うがよく考えればそもそもダンジョンとはそういうものなのだ。いつ死ぬか、分からない。


正直少しダンジョンをなめていた。安全に経験を積んで強くなって、いずれ大金持ちになる。そんなことを考えていたが、実際はどうだ。ダンジョンにおいてイレギュラーなんてのはむしろ普通だ。そもそも何も分かっていない、何も解明していないんだから、法則なんて分かるはずがない。いや、そもそも法則があるなんて考えている時点で慢心なのだ。


まだ冒険者になって2日目?それがどうした。あちらは一世紀も前から人を殺そうと虎視眈々と狙っているんだぞ?アトラクションじゃないんだ。言い訳なんて通じない。


俺はダンジョンというものを勘違いしていた。おかげで手痛いしっぺ返しを食らった。しかし、逆にここで気づけて良かったのかもしれない。次からはどんなダンジョンでも万全の準備で行こう。


あの異常なゴブリンのドロップ品はやはり他のゴブリンとは違った。まず魔石だが500円玉くらいの大きさで、通常の物より色が濃い。そしてあの長く鋭い爪。改めてみるとやはり異様だ。研がれたかのように鋭く、鉄よりも固い。少し細いがそのまま武器として使うこともできるだろう。そして、飴玉サイズの青い玉。これは恐らく…


「スキルオーブだ…」


スキルを手に入れる方法は主に3つある。まずは15歳になると与えられる祝福、長い間モンスターを倒しながら何かを極めると手に入れられる熟練、そしてスキルオーブを使った習得だ。


他の二つと比べてスキルオーブによる取得はあまりにも容易だ。その代わり、効果がそもそもそんなに強くなかったり、そもそもあまりドロップしないという弱点があるがそれでもスキルはスキルだ。

スキルオーブは簡単に強くなりたい富裕層などに高く売れ、オークションでは最低でも100万は値が付くらしい。


さて、どうするか。結構悩みどころだ。いくらダンジョンとは言え今後こんなことそう頻繁に起こらないだろう。


100万あれば、装備を整えることができる。今回で痛感した。どんなに弱いダンジョンでもやはり準備は必要だ。しかし、それをそろえようとすると金が要る。最低でも剣が欲しいが、剣は高い。安物でいいなら2万かそこらで買えるが、安物に命を預けたくはない。最低でも10か20万からだろう。そこに鎧やなんやかんやを揃えるとなる結構な額になる。


スキルという絶対的な基礎能力が上がればそれだけでできることが多くなる。それに装備はいつでも金が溜まれば買えるが、これは今しかない。


「俺の夢は何だ。強くなることだ。そのためにはいま、何が必要だ…?」


決まっている。スキルオーブを使う。


金は最悪借金でもなんでもすればいい。しかし、スキルオーブに変えはない。強さに貪欲にならなければこの先生きていけない。


さて、取り込むと決めたらさっさと取り込みたいところだが、そもそもこれなんのスキルオーブなんだ?


そう思っていると突然目の前にスキルボードが開いた。





スキル「地形操作」を取得しようとしています。取得しますか?

Y/N





わお、スキルボードさん、教えてくれるんですか?それにしても『地形操作』とはあの地面から棘を生やしたり壁を作ったりしてたやつか。これは相当便利だ。攻撃にも防御にも使える。スキルボードと合わせればさらに機動力が上がること間違いなしだろう。


モチロンYES!!


すると手のひらにおいてあったスキルオーブが青い光になって俺の手に吸い込まれていった。そして胸のあたりがカッと熱くなる。


名前:平人努 (ヒラビト ツトム) 

種族:ヒューマン

スキル:設定変更(固有 鑑定系) 

    地形操作 (習得 操作系)

耐性:水属性耐性(弱) 邪属性耐性 物理攻撃耐性(弱)

称号:ジャイアントキリング

属性:神聖

適応可能一覧

<筋力>25/100 <俊敏>10/100 <持久力>23/100<魔力>100/100(MAX)

<精神力>54/100<神聖魔法>100/100(Max)

使用可能EXP0


無事習得できたらしい。試しに俺の足元に岩の棘を発現させる。しかしうまくいかず、棘の先端が曲がってしまうし、そもそも速度が出ない。スキルは単純な道具ではなく、技能、或いは才能だ。赤子が初めて立った時、すぐに走ることができないように、修練を積んで初めて使いこなすことができる。


今はこんな雑な石の壁を作り出すのが精々だが、いずれはあのゴブリンのように複数の棘を広範囲に、近接攻撃と混ぜながら出せるようになるだろう。



今日は災難だったが、その分思わぬ拾いものをした。もう小鬼の住処に得られるものはないと思っていたがまさかこんなに収穫があるとは。


幸先がいいのか悪いのか分からないがとりあえず生き延びて、そして強くなれた。それだけで十分だ。







「おっちゃーん買取頼む!!」


「はいはい、って、おお、こりゃまたすげえな。…ん?この魔石は…まさかユニーク個体のボスでも倒したのか?」


「多分そうだと思う。だいぶ苦戦したし死にかけた。今後このダンジョンのボスに挑むやつは用心した方がいいかもな」


「マジかよ…一人で倒したのか?余程優秀なスキルを手に入れたんだな」


「ま、そんなところだな。」


恐らくおっちゃんは俺が余裕で勝てたと思っているのだろう。しかしそれは神聖魔法で傷を癒したからであって普通に死にかけた。まぁ結果良ければすべてよしだ。そういいうことにしておこう。


「ありがとうな、おかげで被害が出ずに済んだ。っと、買取だったな、ちょっと待っててくれ」





極小魔石 200円×28  

ゴブリンの牙 100円×17

ゴブリンの爪 50円×20

ユニークゴブリンの爪 500円

小魔石 2000円×1


計10800円




なんと一万円を超した!!今日は6時間ほど潜っていたので時給に換算すると1700円程度だ。



その、時給に換算するのやめたら?はい、やめます。


「すまねえな、魔石のでかさからしてC級くらいのモンスターだったんだろ?C級っつったら本来もうちょっと高いはずなんだがよ、いかんせんゴブリン系はどこまで行っても需要が少なくてな…」


らしい。ま、まぁ本当は100万のスキルオーブもあったし?全然夢あるっしょ。正直あれだけ苦戦して魔石が2000円なのは少しショックだったが、しょせんEランクダンジョンだ。こんなものだろう。


ま、今度からはもう少し効率のいいダンジョンに行くし、次に期待だな。


二度とこんなダンジョンくるか!!ッぺ!










ユニークボスとの戦いで壊れたリュックの買い替え、帰りに誘惑に負けて回転ずしに行き大食いしたため、今日の収支-2万3000円!!



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