23、新たな力
「や、ったぞ…」
エルダートレントがちりになるのと同時に俺はその場に倒れ込んだ。
息が苦しい。視界に靄がかかったようだ。鼻からは鼻血が垂れ流れている
百舌鳥流無明空絡は相手の初太刀を逸らすものであって嵐のような連撃を全て逸らすような便利な技ではない。
究極の集中と忍耐力によってようやく一太刀を逸らすような技を常に使いながら戦ったのだ。この消耗もおかしくはない。
なんとか息を戻し、露出したダンジョンコアを見る。相変わらず赤色の正八面体といった様相だが、その赤みが少し強い…かも。何はともあれ、攻略完了のために紫苑を刺した。
『うまうま…ご主人様もお裾分け』
紫苑を伝って俺を黒い靄が俺を包む。そして、俺はまたしても黒い空間にいた。相変わらず奇妙な空間だな。そう思っていると暗闇の向こうから黒い何かが這ってきた。ナマコだ。
俺はダンジョンを攻略するたびにこの謎空間に呼び込まれ、このナマコみたいな黒い塊を取り込んで助けている。その度に精神世界とはいえ死にかけるのでできればやりたくないのだが、こいつを取り込むことで寿命が延びてる説があるので毎回泣く泣く取り込むことにしている。
「勇者ー、助けに来た?連れってってくれるの?やたやた、あげるあげるー」
いつもより一回りでかいナマコをやはり口から取り込み、窒息死する…と共に俺は現実世界で目覚めた。
「ふぅ、流石に疲れた。精神世界とはいえ死ぬのはきつい」
休憩をしたいところだが、ここはアビスゲート、未だにダンジョンの中だ。ダンジョンの中に生成されるダンジョンに入らずとも、アビスゲートが直接生んだモンスターもそこらにいる。
俺には地形操作という便利なスキルがあるため、簡易的な洞窟でも作ることができればそこで休むことができるのだが、ここらの地面は木の根が邪魔して人が入れる隙間がない。
どうにか適した場所はないかと探していると向こうから冒険者の一団がやって来た。かなりの大所帯だ。その先頭を歩くのは銀色の袴の狐目の男、あいつは…
「一天ギルドの天内一か?あの装備と人数、相当深くまでダイブする気だな」
一天ギルド、天変地異後すぐに設立された超老舗ダンジョン企業だ。昔から優れた企業として認知されていたが現在のギルドマスター天内一になってその業績は飛躍的に伸び、現在では日本のダンジョン企業一番の業績を誇る。
一天ギルドには天内を含めた3人のS級冒険者が所属しており、基本一人でいることを好むS級が3人もそろうのは国外はともかく日本では珍しい。
確か才花が所属してるのも一天ギルドだったはずだ。
それにしても多い。50人ほどだろうか。中には明らかに戦闘職じゃない人もいる。鍛冶師や料理人だろう。
アビスゲートは深くなれば深くなるほど階層の間隔が大きくなっていく。その上先の階層に行くには正解のダンジョンを見つけるまでダンジョンを攻略し続けないといけない。
空間収納系の魔道具のおかげでダンジョン内における兵站事情は大きく改善されたが、それでも長期の攻略となると武器や精神的な消耗が増える。そのために戦闘職以外も引き連れているのだろう。
絡まれたりしても面倒なので道を変え、他の場所を探すことにした。
ようやく木の根がいい感じになっている所を見つけた。地面に穴を開き、入り口を塞ぐ。もちろん空気の通り道は作る。
そしてスキルボードを出し、ディスプレイの明るさ設定をマックスにすることによって簡易的な部屋の完成だ。大きな木の根がちょうどいいところにあったのでそこに寝転がる。
広さもそこそこあり、木の根が張り巡らされているおかげで崩落の恐れもない。一時的な休憩所にしようと思ったがここを当分の拠点にするのもいいな。
「スキルボード」
バッテリー(寿命)
21%
バッテリー使用量
バッテリーウィジェット
・・・
遂にバッテリーが21%を超えた。前まで表示されていたバッテリー残量の警告文も消えた。
「よし、これでようやくシステムアップデートができる」
スキルボードの設定を開き、システムの欄をタップする。
システムアップデート
システムアップデートが可能です。
システムアップデート 実行
この実行を押せばシステムアップデートが始まるのだろう。何が起こるか分からない。一度寮にもどるか?いや、ここも十分安全だ。それに次戻るときは鬼塚に勝てると確信した時だ。そのためにも
「実行」
『システムアップデートを実行します。一時的にデバイスをスリープモードに移行します。』
「はえ?」
なんか通知が来たと思ったら突然眠たく…なって…
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暗い森の中を一人、歩んでいた。
「グアアアアァ!!」
突然、闇の中から鬼が現れた。その体は以上に発達した筋肉で覆われており、手にもつ金棒には血と肉片がこびりついている。
「消去」
それを顔色一つ変えずに剣で切り伏せる。鬼は自分が切られたことすら気づかずに黒い霧になって消えた。
すると、あたりの闇が突然晴れ、暖かな日差しが森を照らした。
「…」
木漏れ日の温かみにふと笑みがこぼれた。
どこかの村に来た。地面は舗装されておらず、並ぶ家々も随分と前時代的だ。
俺はここに何しに来たんだ…?ああ、そうだ、この村を襲うモンスターを倒したことを報告しに来たのだった。
一番大きな藁ぶき屋根の家に行き、そこにいる村長に事情を説明した。
説明していたら背後に現れた村長の娘が俺の背にナイフを突き立てた。
「今頃モンスターを倒してきて何様のつもり!?私の息子はもう帰ってこないのに!!勇者なのになんで守ってくれなかったの!!死ね!!あんたが死ねば良かったのに!!…アアアァ、」
娘は泣き崩れた。そこに村長が駆け寄り、娘の背を撫でる。
「…孫だけじゃない。多くの命を失った。勇者の役目は守ることだろう?何をしとったんだ?お前に、大事な人を失う苦しみがわかるか?…もういい、とっとと帰れ、よそ者」
俺は村を出た。村を出るまでに村民から石を投げられた。皆、大事な人を失ったんだろう。
村長に帰れと言われたが、俺に帰る場所はないので、そのまま進むことにする。
太陽の光がやけに冷たい。
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「…なんだこの胸糞わりぃ夢」
「ご主人様、おはよう」
目覚めると紫苑が人間形態で抱き着いていた。最近一緒に寝れていなかったからだろうか、密着しすぎてちょっと苦しい。
それにしても奇妙な夢だった。誰かの記憶を追体験するような、やけにリアルな夢だ。そういえば初めてナマコを取り込んだ時も見たような気がする。しかし村は中世ヨーロッパくらいの文明に見えたが、その時代にモンスターは出現していない。あの世界は一体…
それにちょくちょく出てくる勇者ってなんだ?いや、単語の意味は分かるが、あの世界ではしっかりとした存在として認知されていた。ナマコもちょくちょく俺のことを勇者と呼ぶし、本当は誰のことを言ってんだ?
「ま、いっか」
しょせん夢だしな。
そんなことよりシステムアップデートによって何が変わったのかを確認しなければいけない。
スキルボードを開き、色々検証した結果、様々なことが分かった。
まず、押さえておきたいのが、この設定に書かれている説明において、ディスプレイはこのスキルボードそのものを指し、デバイスとは俺そのものを表す。バッテリーイコール俺の寿命だったことも考えるとそれは妥当ではある。
今まで「設定変更」で変更できるのはスキルボードに関するものばかりだった。しかし、今回のシステムアップデートでデバイスに関する変更も可能になった。
デバイスに関する設定項目は主に3つ。バッテリーの「電源プランの変更」、CPUの「オーバークロック」、そしてストレージの「バックアップ」だ。
「電源のプラン変更」にはプランとしてバランス、高パフォーマンス、そして究極のパフォーマンスというのがあり、「オーバークロック」にはONとOFFの項目がある。
この二つに関しては説明だけではよく分からなかった。
そして唯一使い方を理解した「バックアップ」だが、なんとバックアップとして保存していた自分の状態をいつでも復元できるようになるらしい。
「これなら俺の腕も…」
と思って色々いじってみたが腕がある状態の時のバックアップファイルが無いため治すことはできなかった。
「クソ、やっぱりダメか…ん?」
俺は今までバックアップなんてとったことはないはずだが、なぜか下にスクロールしていくと一つだけファイルが見つかった。
しかし、書かれている言語が俺の知ってる言語のどれにも該当しない。そういえば言語設定で表示する言語の翻訳ができたはずだ。それを使ってみると謎言語が日本語に翻訳された。
勇者
元の言語は明らかに長文だったはずなのに、たった一言、勇者と翻訳された。勇者、また勇者か。
それにもしこのバックアップファイルを使うと今の俺の状態にこの得体のしれない情報が上書きされるんだろ?流石にやめとこう。
確認も済んだ。後は実戦しながら確かめて行こう。




