21、自覚
「ふわーあ、おはよう、忍さん」
「ん~、おはよ~」
もはや忍さんが俺の隣で寝ているのにはもう慣れた。しかし、対策を怠っているわけではない。この扉を見て欲しい。昨日は扉の内側に南京錠をつけてみたのだが、それも綺麗に外されている。
もうどうしようもないよね。
『私のご主人様なのに…うらめしや…』
部屋に立てかけてある紫苑からどす黒い怨念が漏れ出ている。もう忍さんには明かしちゃってもいいんじゃないだろうか。
いや、どこから話が漏れるか分からない。忍さんは口は軽そうには見えないがうっかりで普通に人に話してしまいそうだしな。これも紫苑のためだ。
朝ご飯を食べるために食堂に来た。朝早くだが結構人がいる。適当な席に座り、ご飯をかき込んでいると俺の前に誰かが座った。そいつの存在に気づいていたが俺は気にせず食事を続けた。
「おい、無視すんじゃねぇよ片腕不細工野郎」
「…」
「おい、聞こえてんだろうが!!無視すんじゃねえ!!」
「なんだ、用件だけ言え」
金髪のチャラ男、早美和樹だ。最近はいつもこうやって俺に絡んでくる。
「俺にあの刀をよこせ。俺の方がお前なんかよりうまく使えるからな」
そう、こいつは紫苑をよこせと言ってくるのだ。『ウェポンマスタ―』のスキルを持つ自分に使われた方が武器は喜ぶだのお前はあの刀の力に頼ってるだけでお前自身は全然強くないだの俺に絡んできては催促してくる。
「俺はあのクソじじいをぶっ殺して個人のダンジョン配信者として初のA級冒険者になるんだよ!!そのためにはお前のあの武器が必要なんだよ!!」
こいつはどうやらダンジョン配信者らしく、手っ取り早くランクアップするために徴兵制度に入ったんだとか。企業に属さない配信者がB級以上にランクアップする方法としては割とありふれた方法らしい。この期間中に鬼塚を倒してA級冒険者になれば登録者数もそりゃ増えるだろう。うん、それで俺に何か関係あるか?
応えるのもあほらしいのでご飯を黙々と食べる。そうしていると次は俺の肩に手を置いてきた。
「あのな、俺はお前のためにも言ってんだぞ?お前はあの刀のせいでまだ戦えると思ってるのかもしれないけどな、それは勘違いだ。片腕の冒険者に未来なんてないんだよ。今のうちに身の程わきまえて武器を俺に渡して冒険者やめろ」
流石にイライラしてきた。恐らく俺が検査で一位だったのも気に入らないんだろう。
「それに、聞いたぜ?お前の固有スキル、スキルボードをいじることしかできない前代未聞のクソスキルなんだろ?今は上手いこと使ってるっぽいけど、それも上位帯じゃ通じねぇって。どっちにしろお前に未来はねぇよ。余計刀だよりで情けねぇよ」
何処から漏れたのか俺が鑑定所で鑑定してもらった時の固有スキルの効果を知っていた。確かに字面だけ見れば弱いだろうし、スキルの強さが冒険者の強さと言っても過言ではない上位帯においてはこのままだと確かにきついかもしれない。しかし、早美も俺と同様Cランクだったはずだ。なぜこいつに上から目線で話されなければならない?
もはや話を聞くのも面倒なんで食べきれていないがお盆をもって席を立った。
「おい、あんま調子乗んなよ」
早美は俺に足をかけてこけさせようとしてきやがった。しかし、その程度でこけるような俺じゃない。瞬時にかけてきた足を強引に押し込み、足を地面に付けようとした。しかし、足元から生えてきた剣がそれを許さなかった。
「ック!!」
咄嗟に剣をかわしたが体制が崩れた。そこに足払いをされ、ついにこけてしまった。
お盆に乗っていた食器がひっくり返り、盛大に音を立てる。
「おいおい、大丈夫カァ?」
クッソ、大声でわざと周りの気を引きやがって…
「おまえ、こんなところでスキルを使って、どういうつもりだ」
「はあ?使ってねぇよどこに証拠があんだよ不細工」
俺が手をついて立ち上がろうとしたらその手を足で蹴ってきやがった。手が片方しかない俺は支えが無くなり、地面の残飯に顔面から倒れ込む。
「ぶっ、ハハ!!お前、流石に無様過ぎんだろw!!あーあ、カメラ持ってきとけば良かった。勘違い冒険者に鉄槌を下す!!とかいうタイトルで絶対バズってたろうになw。でもよ!!こんなところで地をはいつくばってるような奴が冒険者続けてたらこれ以上に悲惨なことになるかもしれねぇだろ!?なあ!みんな!!」
「なにあれ、感じわるー」「かわいそうに…」「まぁでも確かに一理あるな」「あれダンジョン配信者のKAZUKIじゃない!?私めっちゃファンなんだよねー」「こんなところで盛大にこけるような奴が冒険者やってけるかよあんま舐めんな」「かわいそうだけど実際そうかもね」
周りから聞こえるのは憐みの声や早美に対する賛成の声ばかりだった。
「おいおい、流石にかわいそうだな。よっしゃ、じゃあ最後にチャンスをくれてやる。俺がお前の冒険者としての力を見てやる。もちろんお前はあの刀なしでな。お前の力で正々堂々戦え。それで俺が素質なしと感じたらあの刀をよこせ。分かったな」
流石に頭に来た。
「上等だこの野郎表出やがれ」
以前、鬼塚と戦ったコートに入り、早美と相対する。俺はショートソードを持ち、早美は両手にロングソードを持っている。お互い持っているのは訓練用の武器だ。コートの周りには食堂で俺たちのやり取りを聞いて見に来た奴らが集まっている。
「それで?ルールはどうすんだ?」
「スキルの使用はもちろんあり、だがお前はあの刀を使うな。俺も訓練用の武器以外は使わねぇ」
そういって一本のロングソードが霧になった。いかにも2本しか持ってないみたいにしているがさっきそれ以外に8本の槍やら刀やらを霧にしているのを見た。あいつが操れる上限も10本なのでちょうどだ。どこまでも卑しいなこいつ。
「勝敗については集まった視聴者の皆さんに決めてもらう。その方が公平だろ?」
さっきお前の視聴者ですとかファンですとか言ってたやつが多数だけどな。何が公平だ。
「…まぁいいだろう」
「よっしゃ、じゃあ早速やるかァ」
そう言うと共に俺の頭上から槍が落ちてきた。こいつにプライドはないのだろか…。攻撃を察知していた俺は避けながら無言で早美との距離を詰める。
「ックソが、モブはおとなしく当たってろや!!」
霧にしたばかりのロングソードを真正面から飛ばしてきた。それをスキルボードで受け、同時に左右から飛んできた短剣をかがんで避ける。
そしてまたしても頭上から槍。簡単に避けられるが少し試してみたいことがある。ショートソードを口にくわえ、落ちてきた槍を避けて掴み、霧になる前にコート外にぶん投げた。
すると、槍は霧になって戻らず、そのまま残った。
「操作系のスキルには操作範囲がある。お前の場合お前を中心に球状に半径15m程度。だろ?」
「てめぇ!!」
少し観察していれば分かることだ。見透かされたのが癪に障ったのかやたらめったらに武器を飛ばしてきた。それらを冷静に見切り、全て掴んで外に放り投げた。
「おい!!危ないだろ!!」「ちゃんと戦えー」「面白くなーい」
観客の言葉を無視し、早美に迫る。すでに9本の武器を場外に出した。後は早美が手に持っているロングソードで終わりだ。
「ウオオオオ!!」
焦った早美が俺に向かって突進してきた。そのまま振り下ろした剣を俺の剣で受け流し、伸び切った体に蹴りを喰らわす。
「ぐッ、はっ、」
早美は剣を手放し、地面に倒れ込んだ。念のため最後の剣もコート外に飛ばし、早美に近寄る。
「はい、チェックメイト」
倒れた早美の首元にショートソードの切っ先を当てた。どう見たって俺の勝ちだろう。
「いや!!KAZUKI!!負けないで!!」「頑張って!!KAZUKI!!立ち上がって!!」「卑怯者!!」
は?負けないで、じゃなくて負けだろうが。しかし、観客は和樹の負けを認めない。それどころかKAZUKI頑張れコールを始めた。
ここで俺は過ちに気が付いた。どんなに俺が追い詰めても観客が勝敗を決める。そして早美のファンは早美負けを絶対に認めない。
つまり、俺に勝ち目はない。
「うおおお!!」
俺が一瞬戸惑っていると早美が立ち上がり、俺に向かってきた。しかし、すでに武器は全部場外に行ったはずだ。こいつに何ができる?
そう思っていたら突然早美の手の中に青い剣が現れた。
「ック、」
間一髪で剣で受けたが、鍔迫り合いになってしまった。片腕の俺にとってこの状況は不利すぎる!!その上この剣、明らかに重い。恐らくそういう能力の魔剣なんだろう。受け流しもよけることもできない。
「早美!!それは反則だろうが!!訓練用の武器で戦うってのはどうなったんだ!!」
「言い訳してんじゃねぇ!!見っともねぇぞ!」
くそ、そもそもこいつの操作できる武器の数は10本のはず。その10本は既に処理したはずだ。…いや、まて。こいつが初めから最後まで持っていたロングソードは一度も霧化していない。まさか、あれだけスキルの支配対象外だったのか!?
「戦術ってやつだよ不細工馬鹿がア!!」
分かってるわクソが!それが魔剣だから問題なんだろうが!!
「お前、俺が刀使うのは禁止しといて自分は魔剣使っていいのかよ!!」
「これはお前のための試練であって俺の試練じゃねぇからな!!」
さらに魔剣の重量が増す。その重さに耐えきれず訓練用の剣ごと俺は切り倒された。
「はい、俺の圧勝」
「流石KAZUKI様!!」「あの戦術は震えたわ」「片腕「チェックメイト(キリッ)」で負けてんの笑ったわw」
…クソ、好きかって言いやがって。どう見たってズルしてただろうが!何が俺の試練じゃないだ!!屁理屈言いやがって!!おかしいだろ!!
「だが、片腕じゃなかったらお前は勝てていた。そうだろ?」
「は?」
倒れた俺の頭上に現れたのは鬼塚だった。いつから居たんだ。
「おい、真剣での隊員同士のみでの摸擬戦は禁止されている。見ていたお前らも、分かってるよな?」
鬼塚の一睨みで観客は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「見たところ真剣を使ったのは早美だけのようだ。早美、お前には罰則を与えんとな」
「いや教官~、これ真剣じゃなくて魔剣ですけどw、ブぺッ」
次の瞬間、早美の顔が鬼塚の拳によって陥没し、気絶。すぐに医療班が担架をもって早美を連れて行った。
「平人、お前も担架が必要なようだが?」
「…いや、大丈夫です」
自分の腹にハイヒールをかけ、傷を完全に癒した。
「どうだ、悔しいか」
「…」
嫌な奴だ。運動検査の時もそうだった。見た目や言動からは考えられないくらいねちっこい。自分が諦めたのに、俺が諦めないのが気に入らないんだろう。
「答える必要性を感じませんね」
「そうか。では俺が答えてやる。今のお前は悔しさなど感じていなかった。ただイカサマをされたということだけに目が向き、それに対しての怒りだけがあった」
「…怒って当然だろうが、だいたい、あの試合に俺の勝ち目はなかった。あんなの」
理不尽だ。
その言葉を言いかけてから俺はようやく気が付いた。自分の過ちに。
「当たり前だろ。お前がなろうとしてるのは”それ”が当たり前の世界だ。それに怒ってどうする」
そうだ、当たり前だ。
冒険者にとって理不尽なんて当たり前だ。それをどうにかして突破するのが冒険者だ。
俺は理不尽に対して、悔しいとすら思わなかった。立ち向かおうとすらせず、負けるのが当たり前のものとしてただ受け入れていた。そして理不尽に対してただ怒りを向けた。
今の俺は、理不尽に立ち向かう者じゃない。
「今のお前はただ地を這う負け犬だ」




