20、ナマコ
「勇者、勇者のにおいする。勇者、怖かったよお、痛かったよお」
今ナマコは俺の膝の上に乗って必死に体を擦り付けてきていた。最初は気持ち悪くて俺の体に触れないように逃げていたのだが健気に這いずってくるもんだから諦めて膝の上に乗せてやった。
「よしよし、ほら、痛いの痛いの飛んでけー、これでいたくないだろ?」
「うん、うん、痛くない、すごいー!!勇者凄い!!」
最初は気持ち悪すぎてはったおそうかなとか思ったけど慣れてきたら可愛いな。って、そんなことしてる場合じゃない。俺は早くこの空間から出なきゃいけないんだった。
「おい、えーっと、お前、名前とかあるか?」
「名前!!名前…ま、じ、…?ミャ?ミャン、みゃいーん」
「よし、お前はナマコな。ナマコ、まず俺は勇者じゃない。努だ。平人努、冒険者だ」
「ナマコは、ナマコね!わかた!つとむは、つとむ?勇者じゃない?つとむはつとむで、ん?でもつとむは勇者だよ?ん?」
「よっしゃ、そういえば俺勇者だったわ。そんな勇者つとむは今困っててさ、早くここから戻らないといけないんだけど、どうすればいいかナマコは分かる?」
現実の俺の体は恐らく失神しているはずだ。流石にダンジョンの中で一人で失神はまずい。
そして早く話を進めたいのにどうにもナマコの反応が悪くてイライラする。やっぱ気持ち悪いしなんかもどかしくて叫びそうだ。あああああ!!
「戻る…?勇者、勇者、いくの?あのね、じゃあ、じゃあつれてって、ナマコつれてって?」
「どうやったら戻れるの?」
「もどる、分からないー、けど、行くなら、ナマコもいく!つれってって」
ッチ、知らねぇのかよ。
「いや無理」
知らないならこいつに用はない。俺は縋り付いてくるナマコを引きはがし、この世界から出る他の手がかりを探すことにした。
「あ、あぁ、いや、おいてかないでー、もう痛いのいやあ、いじめないで、苦しいのいやああ」
「うわ、落ち着けって」
必死に縋り付いてくる姿はまるで犬だ。悲痛な声も相まってこんななりでもやっぱりかわいく見えてしまう。
うーん、でもこいつ絶対あんまりよくない存在だしな…紫苑の時とは別ベクトルの悪い何かを感じる。根源的な邪悪というべきだろうか。俺の人間の部分が全力でこいつに警鐘を鳴らしている。
ほとんど連れて行かない寄りで思考を進めていたら、それを察したのかナマコは俺の足元で丸くなって泣き始めた。
「ふええ、じゃ、じゃあ殺して?次はちゃんと殺して?もういやだよう、ゆうしゃの言ったとおりしたら、ちっさくされて、たべられて、バラバラにされて絞られて、無理やり食べさせられて、もういやだよお、ゆうしゃ、勇者、ナマコ、やくそく守れない、ゆるして、ごめんなさい、もう殺して、殺して」
なんかよく分からないけど勇者との約束でここにいるのか?それで苦しんでるのか?
勇者とやらがこいつをそんな風にした意図が分からないが流石にかわいそうだ。はぁ、仕方ない、連れてってやるか。それでどうせ寿命かなんかヤバいのが奪われるんだろ?
「分かった分かった。連れてってやるから。で、どうすればいい?」
「やた、やた、勇者、一緒いられる。ずっと一緒。痛くなくて一緒!!」
ナマコがジャンプして俺の胸に飛び込んできた。あまりに暴れるもんだから俺は押し倒されてしまった。
「こらこら、落ち着け落ち着けハハハ、って、ハ?ホガ、モガガ!!」
犬が顔を舐めるみたいなもんかと思っていたらナマコが突然口の中に入ってきた。最初はふざけているのかと思ったがどんどん入ってくる。息が、息ができない!!喉がぐるじい”い”
「お”ゴボボボボ、ウ”エ”、お”、ボオォオオ”」
必死にナマコを取り出そうとするが手元が滑ってしっかり握れない。
「じ、じぬ”、ぶお”えええ、ウぼぼオオオ”オ”!!」
喉をかきむしるがどうしようもない。顎が外れ、裂けた喉から血がしたたり落ちる。
「ずっと一緒ずっと一緒ずっと一緒ずっと一緒ずっと一緒!!あげるあげるあげるあげるあげるあげる!アハハハハ!!」
「ウ”、ガ、ッカハッ…、、、」
俺はナマコに無理やり体内に入られ、窒息でもだえ苦しんで死んだ。 ~Fin~
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「ハア、ハア、これで、決着だ」
一人の青年が、ひとりの少女の首元に剣の切っ先を突き付けていた。
辺りは壮絶な戦いの余波により空間はゆがみ、理さえも崩壊していた。そこはもはや現世から切り離された別の場所にあった。
「決着、…決着?終わり?残念、残念だ、…なあ」
剣を向けられた少女は少し悲しそうな顔をしながらも無邪気に笑った。
少女は常に一人だった。誰ともわかりあえない、そういう風にできていた。そういう風に生まれ落ちた。混沌の化身である彼女を尋常な存在が理解できるはずもないのだ。
彼女の眠りは新たな絶望の始まり。彼女が夢を見るだけでそれは現実に影響を及ばし、そこにいる人々を恐怖に陥れる。
彼女がどうやって生まれ、どこから来たのか。それはだれにも分からない。ただ、その存在はひたすらに邪悪だった。
しかし、その日やって来た青年もまた、尋常な存在ではなかった。肉という枷を背負ってはいたが、それでも彼女と存在として負けずとも劣らない存在であった。
ゆえに、彼らは分かち合った。その孤独を、その苦しみを。その戦いは少女にとって初めての他者とのコミュニケーションだった。
最初で最後の人との関わり、それがもう終わってしまう。しかし、少年はその切っ先をそらした。
「なあ、×××、いや、×××××。お前は、ただ一人なのが嫌だったんだろう?」
「…うん、うん。そうだよ。ずっとずっと、苦しかったんだよ。でもね!!もう一人じゃない!!勇者がいるから!!…だから、もう、いいんだ」
「いや、お前はこれから人のために生きろ。そうして罪を償え。そうすれば、独りじゃなくて済む」
少年は剣を収め、彼女に手を差し伸べた。
「お前は善と悪の区別がついていないだけだ。それは人が担当する領分だから。だから、それを人から学べ。最初は苦労するだろうしお前を嫌う人もいるだろう。お前のことを理解できる人も少ない。だがいずれ、お前を受け入れてくれる人がきっと現れる。それまで人のために生きろ」
その言葉を少女は信じた。なぜなら他でもない目の前の存在が、自分を受け入れてくれているから。彼が言う通り、もっと多くの人と分かりあえると信じた。
「うん…うん!!私、人のために生きる!!勇者!!私、もう一人じゃない!!」
少女は、その日初めて心からの笑顔を浮かべた。
「お前なら、きっと、大丈夫。誰かが、お前を受け入れてくれるよ」
少年もまた、人生で初めて心からの笑顔を浮かべた。
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「ぶあぁああっ!!」
『うひゃあ、ご主人様どうした?』
見渡す限りの木と目の前の穴から見て俺はダンジョンの入り口に来たらしい。そして木の洞の中にはただの空洞が広がるだけ。どうやら無事にダンジョンをクリアしたらしい。
「俺、どれくらい意識失ってた?」
『意識失ってたの?』
どうやらあの暗闇の世界で流れた時間とこちらで流れた時間に食い違いがあるらしい。
「いや、なんでもない」
気絶している間になんか映画のラストシーンみたいなやつを見た気がするが、ま、夢だろ。そんなことよりも確認しなければならないことがある。
名前:平人努 (ヒラビト ツトム)
種族:カースドヒューマン/カオスヒューマン
スキル:設定変更 (固有 鑑定系)
地形操作 (習得 操作系)
呪刀紫苑招来 (固有 召喚系)
耐性:水属性(弱) 邪属性 物理攻撃(弱) 混沌属性(極々微弱)
称号:ジャイアントキリング 呪人 混沌人 入門者
属性:神聖 邪 混沌(極々微弱)
適応可能
<筋力>1K/1K<俊敏>1K/1K <持久力>100/1K<魔力>100/1K
<精神力>100/1K<神聖魔法>1K/1K<視力>100/1K<風魔法>100/1K
使用可能EXP1300
習得可能スキル…
⚙
*アップデートが可能です
なんかまた変なのが増えてるよ。種族もなんか増えたし、極々微弱ではあるけど耐性と属性に混沌が付いた。混沌ってなんだよ。聞いた事ねぇぞ。おそらくナマコ由来のユニーク属性なんだろうけどさ。
それと称号の入門者か。今のところ一切わからん。
それと一応バッテリーも確認しておくか。
バッテリー(寿命)
16%
*バッテリー残量が20%を下回りました。
バッテリー使用量
バッテリーウィジェット
・・・
…ん?お、おお!?たしか前見たときは15%だったよな?それが16%ってことは…増えた!!やった!!ダンジョンコアを壊せば寿命が延びるのか!!いや、ナマコを食ったからか?わからんけどこれは大きな進歩だ。
なんか夢の中では大分エグイことをされたがこれといったデメリットは今のところない。むしろプラスしかない。
それどころか当分の目標も定まった。とにかくダンジョンコアを破壊しまくれば充電が溜まる。そしたらシステムアップデートができるようになる。
今でもできないわけではないけどシステムアップデートには十分な充電がある状態が好ましいと注意書きされていた。充電0%=死となるため、なるべく万全の状態で行いたい。
よし、攻略も終わったしそろそろ帰ろう。
「?…なんか紫苑でかくなった?」
『?分かんない』
そういえば紫苑経由でダンジョンコアの力を吸ったのだった。つまり、紫苑もコアの力を吸っているはずだ。なにか変化があってもおかしくない。
『ん~?』
成長期かもね!!ま、いいや!!かえろ!!
寮に帰ったあと、飯と風呂をさっさと済ませて寝ることにした。今日はそんなに動いていないがナマコとの一件で精神的に疲れた。
布団に入るとすぐに意識が遠のき、眠りについた。
「…んあ?」
夜中、誰かの気配がして一瞬目が覚めた。布団に入って来て俺の体に抱き着いてくる。
恐らく紫苑だろう。時々こうやって俺に抱き着いてくる。そう思った俺は再び眠りについた。なんか今日の紫苑は暖かいし柔らかいな…やっぱり成長期か…って、刀の成長期ってよく考えたらなんだよ…ふみゃふみゃ…
チュン、チュン
「んん、ふあー」
朝か。4月なのでまだ朝は冷える。しかし今日はやけに温い。おかげで今日はぐっすり眠れた。今日から毎日紫苑と寝ようかな…そう思いながら隣で寝る頭を撫でると気持ちよさそうな声を上げる。やっぱり可愛い。
「んみゅう、、、」
「ん?」
しかし、少しずつ頭がさえてきて、気づいたことがある。紫苑の髪は癖のないストレートだ。寝ぐせも基本付かない。しかし、今俺の手にはくしゃくしゃの毛が絡まっている。
恐る恐る掛布団を剥いでみるとそこには知らない女の子がいた。
「あ、え?だれ?」
って、見覚えがあるぞ…?彼女は確か…
「伊賀さん?」
「ん~、ん、はえ?」
彼女もようやく起きたみたいで、目が合った。
「あれ?君は…努君?なんで私の部屋にいるの?」
「あ、いや、ここ俺の部屋っす」
「はえ?」
きょろきょろと辺りを見渡す伊賀さん。服装がシャツ一枚というラフすぎる格好のせいでドキドキする。あ、シャツが肩から落ち…ない。ック、あと少しだったのに。いや、そのチラリズムこそが俺のエクスタシーを加速させる…!!
「あっちゃー私間違っちゃったみたい。ごめんね!!」
「あ、いや、むしろありがとうございます」
「なんじゃそりゃ」
そう言うわけで一緒に朝ご飯を食べることにした。伊賀さんは
「しのぶでいいよ!!」
…忍さんは中学生の時の同学年だった子だ。同学年と言っても卒業式の日に少ししゃべったくらいで大した接点はなかった。彼女は優秀なスキルによってシカクイという大企業の探索部にスカウトが来ていたのだが、そこで優秀な成績を出しすぎたせいで同期と反りが合わず、なんやかんやあって結局退職してしまったらしい。退職したはいいものの、先立つものがなく、とりあえずの食い扶持を稼ぐため、徴兵制度にエントリーしたらしい。
「一応努君たちと同期なんだけど、ここに来るのがちょっと早くてね。すこーしキツメの任務を回してもらってて、それで昨日帰ってきたの。長期任務で全然寝てなくてさ、ミスっちゃった。てへ」
らしい。それにしても、まさか中学の同学年の子と同じ職場で働くどころか同じ屋根の下で暮らすことになるとは。っていうか女の子と一緒に暮らすの!?自分の部屋はあっても風呂トイレ洗濯は一緒だよ!?
何考えてんだダンジョンガード!!感謝しかねぇよ!!(号泣)
「ま、そーゆーことで、よろしく、努君♪」
「お、おう、よろしく」
それから彼女と同居しながら仕事をこなし、日常生活を送る中でいくつかの問題点が浮かび上がってきた。
まず、先日あったようなミスが忍さんはとても多い。頻度で言うと週5日は起きたときには隣にいる。プライベートルームは鍵が付いているので寝るときは閉めるようにしているのだが、忍さんはスキルの問題で無意識のうちに開錠できてしまうらしい。とんだ犯罪者体質である。その上寝ぼけている間は訓練の成果とかで大抵気配を消しているらしい。
おかげで忍さんがいつ入ってくるか分からないため、俺にプライベートな時間はない。俺は別にいいのだがそうなると紫苑がうかつに人間形態になれないため、紫苑は最近は一度も人間化できていない。
そのうえ、紫苑は俺と寝ることができなくなってしまったためそれでイライラが溜まっているのか漏れ出る怨念が凄いことになっている。
このままでは忍さんが呪いパワーでどうにかなってしまうかもしれない。
どうしたものか…




