表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/26

18、前途多難


「やぁ、諸君!!こんにちは!!俺は鬼塚拳蔵(おにずかけんぞう)だ。そしてお前らは今日から政府の犬、いや、豚だ!!」


けたたましい音と共に扉から入ってきたのは50代ほどの男だった。スキンヘッドに傷だらけの顔、たくましい体つきからして恐らく冒険者だろう。それも、かなり強い。


怒声のような声で自己紹介したかと思ったらいつの間にか政府の豚にされてしまった。確かに徴兵制度は国に奉仕するものなので豚ともいえる。いやそんなわけないだろ


「鬼塚さん、あなたも一機関に仕える身なのですから説明責任をちゃんと果たしてください」


いつの間にか扉の前に立っていたのは俺をここまで連れてきてくれたあの軍服の男だった。その顔は相変わらず無表情だ。


「皆さんこんにちは。私は飯田鋼哲(いいだこうてつ)、鬼塚教官の補佐教官だ。今後私たちのことは教官とつけて呼ぶように。よろしく頼む」


その顔からは全然よろしくしようという気持ちが感じられないが少なくとも鬼塚教官よりは話が通じやすそうだ。


そのまま、本来鬼塚教官が諸々について説明する予定だったそうだがカンペを忘れたとかで結局飯田教官が説明することになった。



まず、徴兵期間中、俺たちはダンジョンガードという機関の特殊国家公務員として働くことになるらしい。そして、彼ら先生の役割は俺たち兵士の訓練や、能力の評価だ。


鬼塚教官は今は現役ではないがAランク冒険者であるため、もし彼に認められれば徴兵期間中にAランクになることも可能。飯田教官は冒険者ではなく軍人だが、現役のBランク冒険者と同等の力、権限を持っているらしい。また、ランクが上がれば国からの賞与が増え、Bランクにもなれば月200万も貰えるんだとか。


まあ企業で働くB級冒険者は月1000万以上稼ぐのでそれを考えてしまえば大したことないように感じるがあくまでも実績を積むために兵士になったんだ。その上お金も貰えるならありがたいことこの上ない。


その他この寮での規則や諸々の説明が行われた。


「と、こんなものか。それで、何か質問がある者はいるか」


ないことはないけど今の俺はもっこりしているので手を挙げられない。


「一ついいっすか?鬼塚センセはなんで現役を引退したんすか?」


質問したのは金髪のチャラそうな男だった。飯田教官の説明中も足を組み、なぜか大きな音を立てる失礼極まりないやつだ。まさか鬼塚教官にもその態度で行くのか。


「ハッハッハ、やっぱり気になるか!いいだろう!!見ろ!これが原因だ!!」


ダァンッ


突然勢いよく右の足を机の上にのせ、ズボンをたくし上げた。そこにあったのは逞しい足…ではなく、鉄でできた義足だった。



「…は?」


なんだよ、それ



「見ての通り右足をなくしちまってな!それで現役を引退して、おまんま食うために国に雇ってもらってんだ」


「ちょっとまってください」


思わず口を挟んでしまった。全員の視線がこちらに向くがそんなのどうでもいい。


「鬼塚教官はA級冒険者だったんでしょう?でしたら再生魔法を受ける金も人脈もあるはずだ。なら、それは、その義足は何のつもりですか!!」


ほとんど怒声だった。でも仕方なかった。


「なんだ、お前知らんのか。再生魔法は時間がたってしまえば使えんぞ、有効なのは12時間くらいか。何のつもりも何もただ間に合わんかっただけだ。ってお前…そういうことか」


「…え?」


あまりに衝撃的すぎる情報に俺の脳はフリーズした。


12時間、ということは、じゃあ俺の腕はもう…


「なんだよ体も頭も足りてねーやつばっかだな」


「あ?」


「センセーもお前も、モンスターにやられちまったんだろ?知ってるか?冒険者は冒険しちゃダメなんだよ。身の程わきまえて活動しなきゃ」


金髪の男が何か言い出した。なんだよこいつ、お前に何がわかる、お前ごときに、俺の、冒険者の、何がわかるっていうんだ。


「それは一理ある」


「確かにな」


俺の怒りをよそに先生達はその意見に概ね賛成らしい。


…確かにそうかもしれない。でかい黒スライムと戦ったとき、俺は逃げようと思えば簡単に逃げられた。しかし、俺が逃げれば黒崎さんがやられていた。


その行動に後悔はない。そうだ。この話はもうずっと前に終わった。


治らないというのなら、それもそれでいい。だが俺は諦めない。そう決めたはずだ。


「…口を挟んでしまい、申し訳ありませんでした」


「んだよ腕もなければ根性もないのかよ、てか服も着てねーじゃん。顔もキモいしお前なんで生きてんのw」


こ、こいつ…!!


「そこまで。君は、早美和樹だったか。先ほども言った通り私たちのことは教官と呼ぶように。そして、平人努、発言は挙手してから行うように」


「へいへーい」「了解です」


「よし、他に質問する者もいないようなのでミーティングは以上とする。君たちは一時的ではあるが国の組織の一員として働いてもらう。規則に準じ、模範となるような行動をとるように。それでは次に訓練場に移動し、そこで運動検査を行う」






飯田教官は厳格な性格らしい。てきぱきと指示を行い、俺たちと鬼塚教官を訓練場まで誘導した。

もはや鬼塚教官は補佐すらしていないがこれいかに。



移動中、早美とかいうやつは他の参加者の女の子に声をかけまくっていた。顔は男の俺から見ても整っているので余計腹立つ。



動揺と怒りと嫉妬でごちゃ混ぜになりながら歩き続けていたらいつの間にか訓練場についていた。


「では運動検査を始める。鬼塚教官、よろしくお願いします」


ようやく鬼塚教官の役割が来たようだ。でもやっぱり役割的に鬼塚教官の方が補佐の方がしっくりくるけどな…


「よし!運動検査とはつまり、…運動検査だ!!」


なるほど。


「…補足説明を行う。運動検査では、君たちの戦闘能力を項目ごとに評価する。この評価によって今後の訓練内容、任務を決定するので死ぬ気で行え」


今後の検査、訓練、任務で負った傷は国から支給されたポーションや高位の神聖魔法使いに治してもらえる。そのためここでは本当に死ぬ寸前まで努力することが推奨されているらしい。


ダンジョンで死なないために死ぬ気で努力させるというのは、それがとてつもなく過酷であるということを除けば実に理にかなっている。


「と、いうことだ!!それではさっそく始める!まずは対人戦闘評価だ!お前らはモンスターを倒すだけでなく、スキルを使う凶悪な犯罪者の制圧も行わなければならない!!そのための対人評価を行う!!と、いうことで一人ずつコートに入ってこい!」


そう言ってバスケットコートぐらい広さの鉄格子で囲まれたコートに真っ先に鬼塚教官が入っていった。


え、対人って、鬼塚教員と戦うのか?


「そこにおいてある好きな武器をもって番号順に入れ。スキルも使えるものは全部使って殺す気で挑め」


おかれている武器は剣や刀、槍、こん棒、弓など様々だ。すべて刃はないが鉄製なので当たり所が悪ければ本当に死んでしまうだろう。


最初に入っていったのはボーイッシュな女の子だった。持って行った武器は槍。2mくらいの標準的なもので一対一ならリーチもあってかなり有利だろう。


対する鬼塚は腕を組んでいるだけで武器は見えない。まさか素手で行くのか。


「お願いします!!」


「おう!!殺す気でこい!!」


開幕と同時に女の子が突然床に槍を刺した。地面はコンクリートでできているはずなのにその槍は抵抗なく半分まで深々突き刺さったように見える。


と思ったら槍の先端は鬼塚教官の足元から突き出ていた。


転移系の固有スキルか。それにしても殺意が高すぎる。


しかし、鬼塚教官はその攻撃を避け、そのまま鉄の槍を蹴り折った。


「ック、」


「初見殺しの攻撃は殺しきれなかったと判断したら即座に追撃を入れろ!!!殺しきれなくても動揺はする!!なのにお前が動揺してどうする!!」


「ぐ、ッハ」


目にもとまらぬ速さで接近した鬼塚教官はそのままお腹にボディブローを入れ、血反吐を吐きながら女の子は倒れた。


よ、容赦ねぇ…


「よっしゃ!!やりすぎた!!医療班はよこんかい!!」


女の子は気を失ったようで立ち上がることができず、そのまま担架で運ばれていった。


「あのですね、気絶させたら次の検査ができなくなるでしょう、それに備品もなるべく壊さないでください。お願いしますよ」


「すまん!!」


この光景を見た俺たちは皆顔を真っ青にした。殺す気でって、俺たちが殺されるんじゃね?


「はい、次ぃい!!」


その後の生徒たちは失神こそしなかったが壮絶な痛みにもだえ苦しむことになった。


鬼塚教官はほぼ初見殺しのスキルも全て対応しきり、その上でボディブロー一発で生徒を仕留めていった。そして何より鬼塚教官は今までに一度もスキルを使っていない。その身体能力は驚異的なものではあるがあれだけでA級になれるとは考え難い。手を抜きに抜いてあれなのだ。


「はぁ、皆なっさけねぇなー。たかが引退したおっさんにこんな体たらくでよぉ」


次はあの金髪野郎らしい。今までの惨状を見といて未だにあの態度がとれるということは余程の自信が有るのだろう。


やれやれといった感じでコートに入っていく。その手には武器はない。


「ごちゃごちゃ言ってないで、はやくこい!!」


「おっさんのたたきにしてやんよ!!『ウェポンマスター』!!」


開始と同時にいきなり地面に手を触れたかと思うと地面から10本の剣や槍、刀などの武器が出てきた。どれも全て魔力を帯びている。


「殺す気でいいんだよなー?後悔すんなよ?」


そのうち一本の槍を蹴飛ばし、それと同時に剣を持って接近する。


「ほう、」


飛んできた槍を受け止め、その槍で剣を受けようとしたが槍は突然霧となって消え、背後の足元から別の槍が飛び出てきた。


そこで初めて攻撃を受け止めず、槍と剣を大きく飛んで躱した。


「俺の『ウェポンマスター』は武器を10本まで魔力として保管し、それを自由自在に出したり消したりできるうえ魔法みたいに飛ばせて直接攻撃もできる激強スキルなんだよ!!」


めちゃめちゃ説明し始めた。しかし、そのスキルは破格の性能をしていた。


くそ、チャラ男の癖にカッコいいスキル持ちやがって!!その上持っている武器は恐らく全てダンジョン産の魔剣か一流以上の鍛冶師の物だ。どうやって集めたか知らないがその一つ一つから強力な力を感じる。


「ッハ!確かにいいスキルだ!!しかーし!!」


突然地面を蹴り砕いたと思ったら舞った石の破片を正拳突きで早美に向かって放った。


「、なッ!!守れ!!」


早美の前面に武器が集まり、石の凶弾から早美を守る。


「扱う本人に武器を扱う技術がなければ、それは結局は弱い!!」


石と共に背後に回っていた鬼塚教官が、慌てて振り返った早美の腹を打った。


「げ、ッぼオオオオオ!!」


「おっと、きったね!!!!」


早美は失神こそしなかったが盛大にゲロをまき散らした。


「お、ぼ、ごええええ、ぐっそ、クソ、クソ!!」


地面をのたうち回りながら苦しむ姿は見ていて少し心がすっとした。


その後も戦闘は続き、その度に腹を殴られ、皆ゲロを吐いてコートを汚していく。


あんまり汚れすぎたので途中で水魔法で清掃してもらい、そしてようやく俺の番が来た。武器を何にしようか迷ったが、そういえば使ったことのないスキルがあったのでそれを試させてもらおう。



「よろしくお願いします」


俺は何も持たずにコートに入った。左腕の袖が風になびいてぱたぱたと揺れる。


「おう、次はお前か。お前は…片腕でも、冒険者を続けるのか?」


突然質問をされた。その顔に今までの豪快な笑顔はない。


「なぜ、そんなことを聞くんですか」


「俺も、初めは続けようとした。しかし、片足というハンデは常に死ぬか生きるかの生存競争を強いられる上位ダンジョンの中ではあまりにでかかった。本来、生物とはそういうものだ。弱い者、他者より劣るものは駆逐されていく。お前にはまだ他に道があるはずだ」


恐らく本当に心配して言ってくれているのだろう。しかし、何度も言うが俺の中でその答えはとっくの昔に出ている。



「俺が選んだ道に分かれ道なんてありません。俺の生き方はもう決まってる。それに、腕がないからと言って、他者より劣っているとは限らない」


「お前が思っている以上に生存競争とは過酷で、残酷なものだ。理不尽といってもいい。しかし、お前の決意は固いようだ。何を言っても無意味だろう。なら、」


鬼塚の周りに重く、濃厚な魔力が渦巻く。あまりの密度に空間がゆがんで見えた。


「俺が、お前に理不尽を教えてやる」


「俺にとって理不尽かどうかは俺が決めます」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ