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2、実戦


 て、ことで最寄りのダンジョンに来た。ダンジョンは冒険者と同じでE~Sの6段階にランク分けされており、ダンジョンに行きたいなら冒険者登録をしなければならない。が、冒険者登録をするとダンジョン内で負った怪我などにかかる費用は保険適用外になるなど、ダンジョン内で起こることはすべて自分の責任になる。


 それでも冒険者になり、ダンジョンにダイブしようとする人が多いのは一攫千金の夢が捨てられないからだろう。それに加えて冒険者になると色々な特典もあり、例えばB級以上の人は国から無制限にお金を借りれたり(返さなかったらランクは剥奪される)、A級以上にもなれば多重婚が許可されるなど、法律さえも凌駕するものがある。S級に至っては世界ぐるみで優遇されるらしい。


 ということで冒険者登録をすることにした。登録自体は簡単で、市役所でもらった鑑定登録書と身分証明書を提示し、もらった契約書に印を押せば完了。もらった冒険者証明書カードには俺の名前とEのでっかい文字が書かれている。大事に財布にしまった。


今回俺が潜るのは小鬼の住処とかいうE級ダンジョンだ。小鬼とはつまりゴブリンのことであり、まぁ雑魚だ。しかし、個体によっては武器を使う個体もいるので油断はできない。しっかり死人も出ている。


駅の改札のようなところで冒険者カードを通していざ入場。中は洞窟の中にも関わらず意外に明るく、それなりに広い。


同業の人が何人かいたが、基本緊急時以外は冒険者同士は不干渉という暗黙のルールがあるため早足です

れ違った。


「ウオオオ、ほとばしれ!!『ウォーターカッター』!!」


「ッフ、闇の炎に抱かれて死ね!!『ダークファイアー』!!」


すれ違う途中でいろんなスキルを見たが、みんなかっこいいスキルをもってた。いいなあ俺もかっこいいスキルが欲しかったなあ…なんて思ってねえし!!うらやましくねえし!!



洞窟の中をどんどん進んでいくと、曲がり角の方から物音が聞こえ、のぞいてみるとゴブリンがいた。見たところ1体だけだ。武器は…持ってないな。


まずは自分がどれだけやれるのか確かめるため、スキルは使わずにいく。ホームセンターで買ってきたナイフを使おうと思ったが、相手は素手なのでこちらも素手で行く。


「よお」


こちらから声をかけた途端、何やらわめきながらこちらに向かってきた。噂には聞いていたがなんでこんなに殺意高いんだよ。


殺意は十分だが走り方もバタバタとしていて隙だらけだ。向かってきたところに合わせて思いっきり膝蹴りを合わせる。リーチはないが破壊力は抜群だ。身長も小学生程度だったので丁度顔面に入った。


ペキペキと音を立てて吹っ飛び、そのまま霧になって死んだ。残ったのは小さい牙と小指ほどの赤い石。

モンスターは死ぬとドロップアイテムを残してあとは消える。このドロップアイテムさえもダンジョンに放置しておくと誰も見ていない間に消えてしまう。根本的に生物とは違うのだ。


ドロップアイテムは冒険者の基本収入源だ。ゴブリンの牙と魔石はそれぞれ100円、200円のはした金だが、何事もちりつもだ。拾っておくか。


そう思って手を伸ばすと、目の前に突然スキルボードが現れた。


「ブヘッ」


物理接触をONにしていたので盛大に鼻をぶつけた。イライラしながらスキルボードを見ると、




モンスターの討伐を確認、EXPを2獲得しました。手動適応設定により、ストレージに一時保管されます。


ストレージ EXP:2



EXPとは、確か適応一覧をタップした時に出てきた単語だ。なるほど、EXPはモンスターを倒せば手に入るのか。試しに適応一覧の<筋力>の欄をタップしてみると、前とは違った画面が出てきた。



<筋力> 適応EXP0/100(2EXP使用可能)



前は必要なEXPが足りないとだけ表示されていたが、もう一度見てみると適応EXPなるものが表示されていた。どうやら手に入れたEXPをここに割り振ることができるらしい。せっかくなので割り振ってみる。



<筋力>適応EXP2/100(0EXP使用可能)



「おお、なんか力がみなぎる…かも?」


なんとなく変化を感じるが、感じないともいえるかもしれない(?)。どうやら2程度ではたいして変化はないらしい。まぁまだ一体目だしな。まだまだこれからだろう。


今度こそドロップ品を拾い、バッグの中にしまう。さて、次の検証はもう少し奥の方に行って試してみるとしよう。






あれから二階層下り、三階層に来た。上の方は同業者が多く、全くゴブリンとエンカウントしなかったので、下るしかなかった。小鬼の住処は全部で六階層なので、まったく戦闘しなかったにも関わらずすでに半分は攻略したことになる。しかし、基本的にダンジョンは下れば下るほどにモンスターが強くなる傾向があるため、いくら最弱ダンジョンと名高い小鬼の住処でも、初のダイブ、かつソロでここまで来るのは十分危険と言えるだろう。


しかし、下った甲斐があったのか、早速ゴブリンとエンカウントした。一気に5体もだ。その上その中の3体はそれぞれこん棒、槍、ナイフを持っている。例によって、こっちに気づいたとたんに鼻息を荒くして襲い掛かってきた。


「ようやく来たと思ったら団体様か、丁度いい、俺のスキルボードの餌食となるがいい!!」


普通に戦っても恐らく勝てる。しかし、今回は検証も兼ねている。スキルをどれだけ戦闘に組み込めるか確かめてみよう


まずは検証1、突っ込んできた最初の一体の目の前にスキルボードを出現させる。すると、盛大に音を立ててぶつかり、後ろにもんどり打って頭を打った。その隙に喉元を踏み砕く。一匹目。


検証2、こん棒の大ぶりを躱しながら、スキルボードをゴブリンと重なるようにして生み出そうとするができない。仕方なくこん棒の軌道に合わせて斜めにボードを配置し、いなしながら体制を崩して喉元を切り裂く。二匹目。


検証3、槍のゴブリンから距離をとり、スキルボードを横に、できる限り薄くするよう頭で念じ、かつ

バイブレーション機能を作動させる。薄すぎて俺からも見えなかったが、突っ込んできた槍のゴブリンの頭が空中で置いてけぼりになった。三匹目。


検証4、ナイフのゴブリンが距離を詰めてくる前に、スキルボードを使って壁キックしながら高度を上げる。ゴブリンがどう頑張っても手の届かないところでスキルボードを床にして停止。下を見下ろすと必死にジャンプするゴブリンがいる。スキルボードを消してその顔面に着地。頭が陥没して死亡した。そのまま逃げようとしていたもう一匹のゴブリンにナイフを投げて仕留める。一気に五匹目。討伐&検証完了。


死体が霧になり、ドロップ品が床に散らばる。


「よしよし、やっぱりこのスキル直接戦闘に使えるぞ。それに普通にTUEEEE!!」


今回の検証で分かったのは、


1、スキルボードは盾として使える。強度の限界は分からないがゴブリンの突進、こん棒の大ぶりを防げたので十分盾として機能するはずだ。一枚しか出せない、畳一枚分くらいが上限であることは考慮しなければならない。


2、何かに重なって出現することはできない。モンスターの体の中に出現させて即死させるとかはできないらしい。


3、スキルボードは攻撃にも使える。スキルボードは空中に固定されるので相手が触れるのを待つしかないが、スキルボードはピアノ線くらいまで細くなれるのでトラップとして活躍すること間違いなしだろう。


4,足場として運用することもできる。やはり一枚しか出せないのがネックだが、工夫すれば立体的な戦いをすることができる。戦術の幅の広がり方がマジパナイ。


一つ一つの効果としては本場の戦闘系スキルには及ばないが、そこは何とか汎用性の高さで誤魔化しきれるだろう。


そして、ゴブリンを5体倒したことで16EXPを手に入れた。武器もちは少し多くもらえたようだ。それを<筋力>に全振りする。


<筋力>適応EXP18/100(0EXP使用可能)


さっきは変化を感じきれなかったが今回は確実に変化を感じる。試しに足元にあった石ころを握ると砕くことができた。


このEXPについてだが、冒険者の中で噂されている経験値というやつを可視化したものかもしれない。歴戦の冒険者はスキルなどなくても容易に鉄を曲げ、走れば車よりも素早く、飛んでくる銃弾を生身で受け止めることができる。これは、モンスターを倒すたびに何かが体の中に吸収され、それが蓄積することによって超人的なパワーをもたらすからだと考えられている。その「何か」を経験値という言葉で表したのだ。


この経験値によって強化される要素は人によって変化する。戦士系の人は筋力や持久力が、魔術師系は魔力や精神力がよく上がる。


俺はそれを自分で好きに割り振ることができる。これは結構なアドバンテージではなかろうか?


よし、これで俺が十分に戦えることが分かった。もう検証は必要ないが、シンプルにモンスターを倒すたびに能力が上がるのは楽しい。もう少しだけ狩ってみるか。







$$$


「こんなもんか」


バックを見ればドロップ品でいっぱいになっていた。まぁそんなに大きなバックじゃないけどね。次からはもう少しちゃんとしたリュックでも持ってこよう。

それでもこんだけあればまとまった金にはなるだろう。最近金欠気味だったし換金が楽しみだ。


流石に今日は疲れたし、もう帰るか。






「換金お願いしまーす」


「ハイハイ、ちょっと待ってね」


あまり人がいないからか奥の方でサボっていたおっちゃんがのっそりした動きで出てきた。


「じゃあドロップ品と冒険者証明書を提示してください、って、おおすごいな」


ドロップ品が牙とか小指ほどの魔石とかで全部小さいのでバッグごと手渡す。


「ちょっと多いから少し待ってもらうことになるけどいいかい?」


「分かりました」


待つこと数分、手に書類をもっておっちゃんが戻ってきた。


「はい、お金は冒険者証明書にチャージしておいたから、現金にしたいときは近くのATMか換金所に行ってくれ。詳細な買取情報はこの紙に書いてるから目を通しておいてな」


冒険者証明書はキャッシュカード兼デビットカードのように使える。稼いだお金を現金に換えることもできるが、そのまま支払うこともできるのだ。


さて、初ダンジョンでいくら稼げたかな?




極小魔石 200円×20

ゴブリンの牙 100円×10

ゴブリンの爪 50円×10

ゴブリンのナイフ 100円×2


計5700円


おお、…お、おう。微妙だな。だいたい4時間くらいいたから時給換算すると1425円か。バイトにしては高い方。いやでも命かけてこれか…。


「まぁゴブリンの素材なんてそんなもんさ。むしろ兄ちゃんは稼げてる方だぜ?」


どうやら表情に出ていたらしい。苦笑しながらおっちゃんが慰めてくる。


「最弱ダンジョンですもんね…でも、にしては冒険者多くないですか?」


3階層以降では一切見なかったが、1~2階層に至っては多すぎてゴブリンが見当たらなかったほどだ。稼げてる方で5000円ちょっとなら普通にバイトした方がいいまである。なんでだ?


「あーそりゃちょっとした運動代わりにだろ。知ってるだろ?モンスターを倒せば経験値のおかげで身体能力が上がるの。寿命も延びるらしいしな。金のかからないフィットネスクラブ程度に考えてんだよ。まったく、そんなことのために冒険者登録しやがって」


おっちゃんはやれやれといった感じで首を振った。そりゃジム程度に考えてんなら下層に行くことはないか。稼ぐ必要もないんだから命を懸ける必要もないんだろう。


しかし、逆に好都合だ。もう少し自分の戦い方を見定めたいし、下層に行けば人がいないのは助かる。明日も行くか!





帰りに焼き肉を食ってデザートにケーキを食ったため今日の収支-500円!!





ダンジョン 

 一世紀前に突如として表れた大穴。中にはそれまでの生態系からかけ離れたモンスターが跋扈しており、穴から出てきたモンスターによって天変地異の日に世界人口の半分以上が失われた。しかし、対抗する手段を手に入れた人類はモンスターをダンジョンに追い戻し、今では主要な産業の一つとなっている。だが、依然としてモンスターの脅威は続いており、冒険者の本来の仕事はダンジョンからモンスターを間引き、モンスターが人里に出ること、即ちスタンピードを未然に防ぐことである。

ダンジョンを攻略するには最奥にあるコアと呼ばれる核を破壊する必要がある。核を破壊するとダンジョンはモンスターを生み出す能力を失い、時間経過で完全に塞がる。

基本ダンジョンは見つかり次第即攻略されるが、管理が安易で商業価値が高いと判断されたダンジョンに限っては攻略せずに残される。

また、単純に攻略難易度が高いせいで攻略がなされていないダンジョンもある。中でも天変地異のその日に現れ、それから今に至るまで攻略されていないダンジョンはアビスと呼ばれる。すべての冒険者はアビスの攻略のために精進しなければならないとされているが、一部の上位の会社だけが攻略を進めているのが現状である。



 

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