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15/26

15、正念場

駆けながら相手を観察する。でかい。それもそうだ。ダンジョンを丸々覆っていた黒スライムが一匹になったんだ。体長はおよそ20m、横幅は30mくらいだろうか。とにかくでかい。


上昇した速度ですれ違いざまに切りつけ、すぐに離れる。どうやら硬度自体は変化していないようだが大きすぎて傷が浅い。


それに俺が通過した後に吐き出された粘液は量が多すぎて風魔法じゃそらしきれない。粘液が当たった後の地面はもはやクレーターのようになっている。


「これは…勝てる気がしないな」


現状、俺はこいつにまともなダメージを与える手段がない。しかしどうやらでかくなりすぎて動けないらしい。距離をとる俺を眺めるばかりで追いかけてこれていない。


「おいおい、デブ!まさかそこから動けないのか?」


再び近づいて切り込みを入れ、離れる。やはり追撃をしてこない。


ならば、ヒット&アウェイでヘイトを稼ぎながら距離を取り続ければ倒せなくても時間を稼ぐことは、




ヒュン、シュン



ボト



「あ、は?」


左腕が飛んだ。


???!!!


「ッツ、ク、アアアア!!!」



正体不明の攻撃。奴からは十分距離をとっていたはずだ。なのに俺の腕が飛んだ。このままここにいたらまた攻撃を食らう。痛みで思考停止するな。動け。動き続けろ。


走りながら落ちた右腕を拾う。断面は荒く、筋繊維が所々はみ出ている。出血もひどい。


無理やり腕を引っ付け、ハイヒールをかける。断面が荒いためくっつきづらかったが何とか繋がった。



走りながら黒スライムを見据える。よく見ると夜の闇のせいで見ずらいが何かが黒スライムから伸び、それが俺に向かって振り下ろされた。


ヒュン、、、ズドンッ


「ッあっぶな」


間一髪、その何かを避けることができた。地面を転がりながら必死に動き続ける。


触手だ。とんでもなく長い触手。それが振るわれることで鞭のようにしなって俺に襲い掛かったのだ。


触手が振るわれた地面は亀裂がまっすぐ入っている。腕が吹き飛ぶだけで済んだのは幸運だった。


あいつが黒い上に夜なのもあって触手の動きが捕らえづらい。それでも避けきれないことはないはず、と思っていたら、突然黒スライムが震えだし、体から触手が20本くらい出てきた。


「はは、冗談だろ?」


ドガガガガガガッ


多数の触手が一斉に襲い掛かってきた。


「やばすぎる!!」」


スキルボードを用い、3次元的に動きながらなんとか触手を避ける。俊敏を最大まで上げたおかげで何とかなっているが攻撃に終わりが見えない。


一撃でも食らえば終わりだ。…一撃ですめばいいけど


避けながらかなり距離をとったがそれでも攻撃の密度が落ちない。それにこれ以上離れたら攻撃の余波が換金所のほうまで及ぶ可能性がある。


俺の勝利条件は応援が来るまでこいつの気を引き付けること。こいつを倒せなくてもいい。時間を稼ぐだけでいい。


しかし、それが難しい。開始数秒で腕を飛ばされた上に触手の攻撃は止まらない。


じきに集中力が切れて致命的なミスを犯すだろう。


それまでに応援は来るか?…恐らく、来ない。避けるだけじゃダメだ、どこかで反撃に出なければ。


攻撃を避けながら触手の動きをよく見る。でたらめだ。ただ無理やり振り回しているだけ。


だが、触手は一度に一本ずつしか攻撃してこない。それが連続して20本、絶え間なく続く。


「…あまりなめるなよ」


夜の闇に、或いは触手の動きに、目が慣れてきた。


「スゥー…」


避けながら集中力を高める。無作為に飛んでくる触手を見据え、その一本に標的を絞る。ここだ。


触手の軌道に合わせて刀を合わせ、そのまま切りつける。触手は両断され、すさまじい勢いで飛んでいった。


触手一本分攻撃の密度が減ったことでさらに余裕が出る。一本、また一本と切り飛ばしていく。そしてついにすべての触手をさばききった。


「ッハ!どうだ!!」


難所を凌ぎきったと思って黒スライムを見ると無くなったはずの触手がまた生えていた。それも明らかに先ほどよりも多い。


うん、クソゲーだな。




それからは触手を切る、また生えるの繰り返しだった。もう何本切ったか分からない。ただ分かるのはこのままだと俺はいづれ挽肉になるということだ。


俺は精神と体力を消耗しながらなんとか戦っているのに、あいつが何かを失っている様子はない。一方的だ。どうしようもない。


「ック、ァア!!」


『ご主人様!!』


また、左腕が飛んだ。千切れた左腕は別の触手に叩き潰され、もうくっつけることができない。恐らくさっき俺が左腕を繋げたのを見て学んだんだろう。もう、左腕が戻ることはない。


換金所の方から声が聞こえるような気がするが、触手から発せられる轟音のせいですでに耳は聞こえない。


応援はまだ来ない。そもそも今、どれだけ経った?どれだけの時間が過ぎた?時間の感覚が曖昧だ。先が見えない。希望が、見えない。


それでも触手を凌ぎきった。奴が再び触手を回復させる間にロウヒールで左腕の出血を止める。


左腕だけじゃない。体のあちこちから出血して意識が朦朧とする。


『ご主人様、お願い、逃げて…死なないで、いや。いや、だよぉ』


「…」


耳が聞こえないせいで紫苑の声だけが鮮明に聞こえる。また、紫苑を泣かせてしまった。それでも、返答はしない。




ここで逃げて、俺は何を失う?ここで逃げて、何を得る?どちらも答えは「命」。違いは他人の命か、俺の命かだ。





朦朧とした意識の中で、走馬灯に似た思考が走る。





俺が強くなりたかったのは、母に認めてもらいたかったから。父以上に、俺を見てほしかったから。

そのためには、父さんを越えなければならなかった。


なのに。


父さんは死んだ。子供をかばって車に轢かた。肺がつぶれた状態で、交通事故を起こした運転手の応急処置をして、死んだ。



父が死んだ後、母は俺をちゃんと見てくれるようになった。俺が父を超える必要は無くなった。俺に強くなる理由は、戦う理由はもうない。



だから、なおさら




「ここで逃げたら一生父さんに勝てない。それは腹が立つ」



そう、腹が立つ。



「最後の最後まで見せつけるみたいに英雄みたいなことしやがって…腹が立つ。それに散々修業してんのに勝てないと思ってる俺にも腹が立つ」


『ご主人、様?』


思い出せば思い出すほどイライラする。困っている人がいれば必ず助け、皆ができないと諦めることを平然とやってのける。


「勝てる気がしない、時間を稼げればそれで良い、何だその考えは」


紫苑を握る手が怒りで震える。父は死んでも命を繋いだ。なら、


「やってやるよ、ちょっとでかい大福野郎が、調子こいてんじゃねえぞコラ」



俺は死なずに命を繋ぐ。



触手が生えそろったとたん、再び猛攻が始まった。それを避けながら、今度は上へ上へと上がっていく。ダンジョンと違って天井がないため、際限なく上がれる。


触手の攻撃圏内から外れた。それでも上へ上がり、遂に雲を超えた。


スキルボードの上に立ち、下を見る。うん、雲のせいで何も見えない。だが、この真下にあいつがいるのは分かる。


「紫苑、聞こえるか」


『…うん、聞こえる…よ」


「今から少し、分の悪い賭けに出る。賭けるのは俺の命だ」


『…うん』


死ぬ気はない。ただ、万が一死んでしまった場合、彼女を一人にしてしまうかもしれない。それだけが気がかりだ。それでも。




「俺を信じろ」


『分かった』




俺はスキルボードの上から飛び降りた。










「んあ、ウオオ!!」


一瞬気を失ってた。そうだ、俺は今落ちてるんだった。


下を見れば黒スライムが触手を伸ばし、俺を待ち構えている。残った右腕を見れば紫苑がしっかり握られている。失神している間に手放さなかったようだ。よかった。


そろそろ終着点だ。紫苑の切っ先を黒スライムに向け、ただまっすぐ、落ちる。


走馬灯が駆け巡るが邪魔だ。今はただ、あいつを倒すことに全てを費やす。


「喰らえ大福野郎、重力の力を思い知れ」


すさまじい速度で落下しているにもかかわらず、それを認識して触手で俺を攻撃しようとしてくる。


攻撃が顔にかすり、頬が裂けた。だが関係ない。もう、俺は止められない。




「ウオオオオオオオオ!!!」





触手をすり抜け、黒スライムと衝突。すさまじい衝撃と共に上から下まで、一直線に貫いた。



勢いは止まらず、激しく地面と衝突。右腕を犠牲にして何とか命だけは助かった。


「か、はッ、ど、うだ」



黒スライムの中で全身強打の痛みに地面に倒れ込みながら周りを見る。一瞬、激しく震えたかと思うと、黒い霧になって霧散した。



「勝った…、な。はぁ~。流石につかれ、た…」


内臓がどっかやられてんだろう、口から血がこぼれる。息がしづらい。



そして何より…眠い。とっても。



『ご主人様…?ご主人様?いや、いやだよ!一人にしないで!!』



紫苑の声が、聞こえる。ダメだな、女の子を泣かせたまま、なんて…


笑ってくれ、紫苑。






俺は意識を失った。







$$$


<side:???>



丁度町内会の飲み会を終え、帰り際にふと見たすまーとほんだったか、に、応援要請の通知があった。普段はこの機械をいじるのが苦手で行こうと思ってもたどり着けなかったりするので無視するのだが、偶然見えた地名が昔釣り仲間と行った場所で覚えていたため、向かうことにした。


その町は穴だらけになっており、相当な被害が出ていたことがうかがえる。中には頭だけが溶けた死体があった。急ぎダンジョンに向かうと壮絶な戦いがあったのだろう、地面はめくれ、周囲の建物は無残にも崩れ去っている。


ふと、ダンジョンの入り口を見ると何かぼろ雑巾のような…いや、人か。


近づいてみるとそれは青年…いや、少年だった。右腕はひしゃげ、左腕に関しては無い。この少年が戦っていたのだろう。


「なんと、かわいそうな…、いや、彼もまた戦人。与えるべきは賞賛か。」


私は他人に施せる回復の術を持ち合わせていない。かわいそうだが彼には救援が来るまでの間、もう少し辛抱をしてもらうことになる。


それにしてもこの顔、いずこかで見たような…


「誰だ」


少年を介抱しようとしていると、ダンジョンの中から気配がした。これまでにない、異様な気配だ。


ダンジョンから出てきたのは黒い、人型の何かだった。何か、としか表せない。出てくると同時に後ろのダンジョンが崩れ去った。ダンジョンコアが失われたのだろう。


そして、失われたダンジョンコアは、その人型の腹に埋まっていた。


「面妖な…」


少年の前に立ち、構えをとる。


「      」


何かを言おうとしているのか、口…に酷似した器官を動かしている。しかし、口に覆われた膜のせいで声が出ないようだ。


「なにか…生き物として不完全なようだ。かわいそうに。いま、楽にしてやる」


丹田に力を籠め、経脈を開く。


「哀れな獣よ、私は古翁。この聖拳をもって安らぎを与えん」






真の戦いが始まった。







、、、


繁華街の最も高いビルの上、


「実験は成功だ。ハハハ、…夜明けは、近い」


黒いローブの男が笑った。






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