14、黒塊
<side:受付嬢>
世の人に換金所と言われるこの施設、冒険者組合ダンジョン産品買取出張所はダンジョンの管理及び監視という業務もあるためいつでも数人以上は常駐している。
その日、私が遅番になっていたのは偶然だった。
事務所のほうでドロップアイテムの帳簿と新種のスライムについての書類をまとめていたとき、突然視界が真っ暗になった。
「…停電?なぜ?」
ダンジョンの管理という重役を担うこの施設はそこらの施設よりもあらゆる設備が頑丈にできている。それに緊急時には強力なシェルターとなって施設内の人間を守る関係上、停電などあってはならない。
何かが、起こっている。急いで本部に連絡しなければ。
停電自体はすぐに収まった。明るくなった途端にデスクの上においてある通信機に手を伸ばす。
「それは、ご遠慮いただこう」
「っく、ぐあっ」
伸ばした手の上に足が乗せられ、体重をかけられる。ミシミシと音を立てて手がきしむ。見上げれば全身黒ずくめのローブの男がいた。顔は不自然な影のせいではっきりとは見えない。
「あなたは誰ですか、なぜここに侵入したッ」
「お前のような端役に熟成された真実はもったいない。しかし、ここにきた目的だけ教えてやる。」
おもむろに挙げた右手でやけに劇がかったように指を鳴らした。その瞬間また電気がすべて消え、すぐに復活した。
「なにをした!!」
何かをされた。何かをされてしまった。それだけは分かった。
「うるさいぞ、人間。質問は一つずつだ」
「ッグ、アアアア!!」」
手に乗せられた足にさらに体重を乗せられる。これ以上は手が粉砕しかねない。背に隠したボールペンをスキルで強化し、男の足に突き刺す。しかし、一見刺さったかのように見えるペンだが、まったく手ごたえがない。
こいつ、実体がない。しかし私の手に感じる痛みが確かにそこにあることを証明している。
「それで、目的だが…一時の間、この町は実験場になっていただく。実験であるからしてあまり強い冒険者に来られては困るのだよ。まずは、我々の理論の正しさを証明する。そのためにこの施設の通信機能を全てシャットダウンさせてもらった」
「っく、何を、する気…だ」
「何をするか、というよりも何が起こるか、だな。もうじき…おや、もう始まったようだ」
男の視線が窓に向く。そこには何か、黒いものがへばりついていた。蠢くそれはバスケットボール大の…
「す、スライム…?なぜ地上に?それに…」
黒いスライム。報告があったスライムの異常個体。実験という言葉から察するに、黒いスライムは人工的に作られた…
「さて、私の仕事は終わった。それではまた、生きていれば」
「な、まて!!」
目の前にいたはずの男が一瞬発光したかと思うといつの間にか消えていた。高速移動でもない、空間転移でもない。恐らくスキルによるものだろうがどんなスキルか見当もつかない。
「っく、そ、れよりも!!」
手の痛みを我慢しながら通信手段を全て試すが全部だめだ。その間にもスライムは窓を覆いつくしていく。ついには外の景色が全く見えなくなった。
…怖い。それでもやれることをやらなければならない。
私は、諦めない。
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夜の闇と一体化しているような黒スライムの塊を見据え、俺は戦うための準備を始めた。
幸い奴らは集まり、ダンジョンを覆うのに夢中で攻撃して来ない。しかし、ゆっくりはできない。
「スキルボード」
名前:平人努 (ヒラビト ツトム)
種族:カースドヒューマン
スキル:設定変更(固有 鑑定系)
地形操作 (習得 操作系)
呪刀紫苑招来 (固有 召喚系)
耐性:水属性耐性(弱) 邪属性耐性 物理攻撃耐性(弱)
称号:ジャイアントキリング 呪人
属性:神聖 邪
適応可能一覧
<筋力>100/100 <俊敏>100/100 <持久力>100/100<魔力>100/100
<精神力>100/100<神聖魔法>100/100<視力>100/100<風魔法>100/100
使用可能EXP2620→2529
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黒スライムを倒しまくったおかげでEXPがとんでもない数入っていたのでとりあえず精神力と持久力にポイントを割り振り、ついに7つ以上の適応をマックスにすることができた。
『適応上限の解放を確認しました。それに伴い、一部の安心フィルタが解除されました。※システムアップデートがあります。設定画面からアップデートをしてください。※バッテリーが少なくなっています。アップデートには十分な…』
通知が長い!!今はそんな暇ないから!!
通知の表示を削除し、通常表示に戻すと適応の表示が更新されていた。
適応可能
<筋力>100/1K<俊敏>100/1K <持久力>100/1K<魔力>100/1K
<精神力>100/1K<神聖魔法>100/1K<視力>100/1K<風魔法>100/1K
習得可能スキル
(2K)
剛力 俊足 足軽 魔力強化 精神統一 鷹の目
(5K)
信仰者
(7K)
風魔法。
全ての適応の分母が1Kに更新された。1Kは恐らく1000を表しているんだろう.そして何よりスキルの習得が可能になった。並んでいるスキルは全て習熟系スキルで間違いないが、まさかこれも自分で選べるとは思いもしなかった。
しかし、どれも要求されるEXPが高すぎる。風操作に関しては7千ポイントも必要だ。
適応を上げるのが良いのかスキルを習得するのが良いのか悩む。
適応可能
<筋力>1K/1K<俊敏>1K/1K <持久力>100/1K<魔力>100/1K
<精神力>100/1K<神聖魔法>100/1K<視力>100/1K<風魔法>100/1K
使用可能EXP2529→729
悩んだ末に筋力と俊敏をマックスにした。今必要なのは黒スライムを効率的に倒せる力だ。残りのポイントは念の為残しておくことにする。
「紫苑行くぞ」
『わかった』
「風よ、我に纏いて一矢を退け。『ウィンドコート』」
体にまとわりつくように風が走る。『ガスト』ほど強力な風魔法ではないがあの厄介な粘液だけは弾き飛ばすことができる。
魔法を纏って黒スライムの塊に突っ込んだ。まずは合流しようとする黒スライムの数を減らす。
「うお!」
筋力と俊敏をいきなり1000まで上げたせいか自分の体に一瞬意識が追いつかなかった。
その勢いのまま繰り出した技術もくそもない刀の一振りが黒スライムを同時に3体一刀両断にした。
「はは、こりゃ案外何とかなるかもな」
町の方からやってくる黒スライムを倒しまくる。たまに飛んでくる粘液は風魔法のおかげで俺に到達することなく地面に落ちる。
そのまま順調に数体倒したのだが、黒スライムの一匹が突然粘液を飛ばさず俺の方に突っ込んできた。
「ウッ、ゴハッ!」
まさか本体が突っ込んでくるとは思わなかった俺はもろにその攻撃を受けた。黒スライムは通常スライムより早く、そして硬い。衝撃は鉄球を受けたかのようにすさまじく、一瞬息ができなくなる。
幸い黒鋼の鎧の部分に当たったため骨は折れていない。生半可な鉄の鎧ではあの攻撃を受けきれなかっただろう。
しかし、問題はその後だった。その後の全ての黒スライムが粘液を飛ばさず、そのまま突っ込んでくるようになったのだ。ダンジョンで出会った黒スライムもそうだったがこいつらには知能がある。そしてこいつらはそれを共有している。
突っ込んでくる分動きが単調になったため倒しやすくなったがその分怪我も多くなってきた。それも切り傷などではなく打撲というのも痛い。骨が折れてしまえば回復に時間がかかってしまうのでなんとか避けたいのだがどうしても数が多すぎる。
それでも何とか倒し切り、換金所に向かう。
換金所はダンジョンよりもへばりついているスライムが少ない。黒スライムたちの目的はやはりダンジョンにあるんだろう。
窓の黒スライムを倒し進めるとようやく換金所の中が見えた。中には何かの機械を必死に操作する黒髪の…いつも受付してもらってるあのお姉さんだ!!
って、それどころじゃない。お姉さはこちらの存在に気づき、窓の方へやって来た。
《なぜあなたがこんなところに!?ここは危険です、早く避難して本部の方に連絡を取ってください!!》
と思ったらいきなり怒られた。スピーカー越しだがいつもクールなお姉さんが慌てているのが分かる。まあ当然か。
「連絡は何度も取ろうとしました。避難してる人も救援を呼んでるはずですが一向に応援が来ないんです。もしかしてここもですか?」
《そんな…まさかあの男この町全域に…分かりました。ならばなおさらここから離れてください。D級のあなたではこの数は対処しきれない!!》
「えっと、確かにそうかもしれないけどじゃああなたもここから出ないと」
《…それは無理です。この施設の電子機器が全てだめになってしまって中から開けることができません》
扉は金属のシャッターが下りてるし、今話してる窓も分厚い上に中に金属の線が張り巡らされている。
中から開けられないなら…
「ちょっと離れていてください!」
《何をする気ですか!》
紫苑を手に取り、腰だめにして思いっきり横に振った。
「ジーン」
『しびびびびーん』
腕が痺れる~
全然だめだ。嘘だろ?今の俺の筋力は上限解放したうえでマックスなんだぞ!?割り振ったポイントだけ見れば10倍だ。それなのに刃は半分も通っていない。
それでも何回かやればいずれは…
《何をやってるんですか!あなたは早く避難してください!!通信障害も町の外までは及んでいないはず。あなたも冒険者なら町の外まで行って応援を呼んできてください!!》
「じゃあお姉さんはどうするんですか!あなたを助けるまで俺はここから離れない!!」
そういってってもう一度、刀を振ろうとした時だった。
『…ご主人様、何か、おかしい…かも』
俺も、何かを感じた。ダンジョンの方からだ。そちらに目をやると、黒い塊が一つ、目に入った。
もちろん黒スライムだ。だが、様子がおかしい。先ほどまでよりさらに一体感が…というより、一体になっている。
とてつもなくでかい黒スライムが一体、そこにいた。
《な、あれ、は、スライムグラトン…C級上位のモンスターが、なぜ…》
通常でC級、ということは黒いあいつはB級以上はあるだろう。
「紫苑、力を貸してくれ」
『もちろん』
《な、何をする気ですか!!》
「あいつを倒します。倒せなくても時間を稼ぐ」
そうすれば町の外に避難した市民がじきに応援を呼んでくれる。はず。
《無茶です!!あなたはまだD級なんですよ!?早く逃げて!!》
「あなたが逃げたら僕も逃げます」
《ちょっと!!》
お姉さんを置いて俺はダンジョンに駆けだした。
おれはどうやら問題を過小評価していたらしい。黒スライムを減らせるだけ減らせばそれでいいと思っていた。
しかし事態は進み続けている。受付のお姉さんが逃げられない以上、俺がここから離れてしまえばあの規格外の黒スライムにシェルターごとやられてしまうかもしれない。
腹くくれ。ここが正念場だ。




