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13、氾濫


「ふぅ、倒せないことはないけどさすがに疲れる」


この技を使うたびに毎回反動を消すために死にかけている。少しでもミスれば壁に叩きつけられて俺は壁のシミになるだろう。


「だいたい、なんでこんなところに黒スライムがいるんだ?」


辺りを見渡すと未だにパニックは収まっていない。しかし、よく見ると黒い小さな何かが人に襲い掛かっているのが見える。


「まさかあれ全部黒スライムか!?なんでだ?何が起こってるんだ!?」


分からない。分からないがとにかく助けないといけない。


「スキルボード」


名前:平人努 (ヒラビト ツトム) 

種族:カースドヒューマン

スキル:スキルボード(固有 鑑定系) 

    地形操作 (習得 操作系)

    呪刀紫苑招来 (固有 召喚系)

耐性:水属性耐性(弱) 邪属性耐性 物理攻撃耐性(弱)

称号:ジャイアントキリング 呪人

属性:神聖 邪

適応可能一覧

<筋力>100/100 <俊敏>100/100 <持久力>23/100<魔力>100/100

<精神力>86/100<神聖魔法>100/100<視力>100/100<風魔法>100/100

使用可能EXP400→205





黒スライムを倒したことでとんでもない量のEXPを手に入れていた。それを使って筋力、俊敏、視力の適応をマックスにした。これで人間ロケット戦法ももう少し楽にできるだろうし、恐らくそれを使わなくても黒スライムを倒せる。


「皆さん!!落ち着いて!!建物中にの避難してください!!僕は冒険者です!!落ち着いて!!」



俺の声が聞こえたのか、人々が急いで建物の中に避難していく。その背中を追って襲い掛かろうとする黒スライムを後ろから切りつける。先ほどと違って人間ロケット戦法を使わなくても確実に刃が通るようになってはいるがやはり硬い。少し工夫しなきゃ一撃じゃ倒しきれないらしい。


切りつけたスライムが次は俺に向かって飛んできた。工夫、工夫か。



俺に一直線に向かってくるスライム。それに合わせて俺の方からも前進する。ぶつかる寸前に左足を軸に半時計回りし、逆手に持った紫苑を飛んできたスライムに合わせ、いなしながら一回転する。




「切る」とは、刃と物体の間の摩擦によって生じる現象である。即ち、その摩擦を最大限にした時、切れ味も最大限になる。ならば、敵の動きとこちらの動きを合わせて切れば、その摩擦はさらに増すだろう。


直剣を持つものは特に、ただ振るのではなく、動きの中で敵を刻むべし。



百舌鳥流兵法「柳ノ巻」より。




黒スライムは空中で一文字に切れ、地面に着地する前に霧になって消えた。


なんかやっとまともに剣術した気がする。俺が修業している間に教わった武器は色々あるがその中でも剣術は必死になってやってきた。


だが、格上の敵は俺が未熟なのもあって剣術とか言ってる暇なかったし、弱い敵には剣術なんて必要ないし、なんだかんだで使う機会がなかったが自分と同程度の強さの敵と戦う分には有用だ。




と、そんなことを考えているうちにもう一匹見つけたのでそちらに向かう。


そいつを一匹倒したらまた一匹現れ、それを倒したら次は2匹現れ、倒しきれないうちに次は3匹現れ…


「って、おい!!どんだけいるんだ!?」


最初は適応値を上げたおかげで対処できていたが次第に手が回らなくなってきた。黒スライムの数が減らない。どころか増えてきている。


「キャー!!」  「助けてくれ!」


悲鳴が聞こえた方向を向くと地面に倒れた女性と男性がいた。それぞれに一匹黒スライムが襲いかかろうとしている。


「ック、スキルボード!!」


目の前の黒スライムから一度距離をとり、二人に降りかかる粘液をスキルボードで防御、黒スライムは地形操作で捕らえる。


「早く逃げろ!!」


「ひ、ひいいい」 「あ、ありがとうございます!」


二人を逃がしながらまずは目の前の黒スライムを倒し、岩の牢獄から抜け出した二匹のスライムを順番に倒す。


とりあえず何とかなったかと思ったらあちこちで悲鳴が聞こえ始めた。クソ、俺だけじゃ守り切れない!!


だいたい、一匹や二匹ならまだしも、どうしてこんなにモンスターが地上に出てきているんだ!?スタンピードが起こったのか?あふれかえっているモンスターがスライムであることを考慮すると恐らく粘性の極が発生原か。


しかし、なぜ?よりにもよって管理されているダンジョンがスタンピードを起こす?それも絞りつくされた死にかけのダンジョンだ。ありえない。スタンピードではないのか?じゃあ何が原因だ!?


分からない。分からない。分からない。


そう考えている間にも黒スライムはどこからともなく現れ、被害を拡大させる。


黒スライムは殺戮そのものが目的であるかのように逃げ惑う人々に粘液を飛ばしては殺し、その死体は放って次の獲物に向かう。


基本、どのスライムも生物を殺した後はその死体を使って繁殖を行おうとする。その習性が、こいつらにはない。異常だ。異端だ。何もかもが無茶苦茶だ。



原因が分からない以上まずは目の前の黒スライムを倒し続けるしかない。


逃げ惑う人々を誘導しながら黒スライムを倒し続ける。そろそろ体力の限界が近づいたところでようやく黒スライムが見当たらなくなった。


ひとまず何とかなったが、その間に何人もの人が亡くなった。今の俺じゃ守り切れなかった。


「…クソ、何がどうなってんだ!?なんで誰も助けに来ない!!」


地面に突き立てた拳が音を立ててめり込む。割れた拳から流れた血を、地面が吸い上げる。


「ご主人様…」


いつの間にか紫苑は起きていたらしい。人間形態になり、俺の頭を抱き寄せた。


金属特有のひんやりした感触と、確かな人の温もりが俺の心を落ち着かせる。


「…ありがとう、紫苑。少し取り乱した」


「大丈夫、つらい時、は、私がそばにいる…から」


少しの間紫苑を抱きしめた。情けない話だがこれだけで本当に頭が冷静になってくる。いつの間にか刀の形態になっていた紫苑を背負い、俺は気合を入れなおした。


「とにかく冒険者組合と連絡を取ろう。次またいつあいつらが現れるか分からないしな」


未だに応援が来ないのは恐らくなにか電波障害か何かが起こったと考えていいだろう。それならば直接向かうしかない。


ここから一番近くの冒険者組合の施設は粘性の極ダンジョンの換金所だ。そう遠くはない。俺は急いでそこに向かった。










道中、黒スライムを何匹も見つけた。しかし、変だったのはどの黒スライムも同じ方向、つまりダンジョンの方に向かっていた。初めはダンジョンに何か異変が起こり、ダンジョンから黒スライムが解き放たれたのだと思っていたのだが、逆に黒スライムの方がダンジョンに向かっている。


ダンジョンに近づけば近づくほどにその量は多くなり、体のでかさも一回り二回りでかくなっていく。


何とか黒スライムを倒しながらダンジョンまで来た。


「う、っそだろ…」


ダンジョンまでようやくたどり着いて見えたのはただ一色の黒だった。


もちろん夜の闇によるものではない。


ダンジョンの入り口も換金所の窓口も、そのすべてに灯りにたかる虫のように黒スライムがへばりついていたのだ。


背筋が凍るような気がした。


「なんだよ…これ」


とても、とても俺一人で対処できるような事態じゃない。


これは災害だ。


もしこいつらが街の方に解き放たれたらここら一帯は終わる。


しかし、幸いなことになぜだか理由はわからないが黒スライムはダンジョンに向かって集まっている。向かう過程で多少の被害は出るだろうが無作為に暴れ回られるよりマシだ。


ならば街の方に戻って黒スライムを倒したほうが良い。そもそもこんな数相手にするのは無理だ。被害を減らしながら応援を待てばいずれこの災害も収まる。





なんて甘い考えじゃだめなことくらい分かる。





異常なモンスターが異常な数ダンジョンに集まっているのは、そこに異常な理由があるからだろう。

モンスターが生物を襲う以上のことを、モンスターの生みの親であるダンジョンに求めている。

そんなもの、ろくなことにならないに決まっている。


結果がどうであれ、おそらく多くの人を巻き込むことになる。


それに、黒い塊の中、微かに光が見える。おそらくそこは換金所の窓で、光があるということは中にまだ人がいるということ。


換金所は設置される場所が場所のため、特別頑丈な作りをしており緊急時にはシェルターになる。いまあの粘液にさらされて原形をとどめているのはそのおかげだろう。しかし、あれだけ黒スライムがあつまってしまえばその頑丈さもいつまでもつか分からない。誰かが助けないといけない。


そして、ここにいるのは俺一人。


「やるしか、ないか」


もちろんこの全てを倒せるとは思わない。それでも減らせるだけ数を減らす。


減らしたってどうにもならないのかもしれないけど、それでも何もやらない理由にはならない。


「紫苑、起きてるか?」


『起きてる…けど、これ、やるの?』


「うん。このままこいつらが集まるのを待ってたら不味いことになる予感がするんだ」


『…私も、そう思う、けどこの数は無理、だよ』


「分かってる。それでも、やる。できる限りな。」


『…』


「だから、力を貸してくれ紫苑。全力で行く」



『分かった』




黒スライムは今も増え続けている。増えるたびに嫌な予感が増幅する。


おそらくこの「予感」はカースドヒューマン由来の第六感によるものだと思う。数が増えるたびにその予感が増えるということは減らせばその予感も減るはずだ。


やれるだけのことはやってみる。






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