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12/26

12、異変


夕方、道は人々や車でごった返している。早足で歩くサラリーマン、下を向きながら歩く浪人生、飲みに誘う会社の上司と誘われる後輩、学校帰りにカラオケに行こうとする学生たち。


いつもの風景。変わらぬ日常。


「はぁ、はぁ、はぁ、だ、誰か!!助けて!!助けてくれ!!」


そこに、一つの非日常が現れた。


息を切らしながら必死に走る男がいた。何かにひどくおびえているようで、しきりに道行く人々に助けを求めている。


「なにあれ…」 「やっば、動画とっとこうぜ」 「これはバズるっしょw」 「…」


しかし、人々は男性を遠巻きに見るだけで誰も助けようとしない。少しおかしい男性がただ喚いているだけ。自分には関係ない。いずれ誰かが警察を呼んで、捕らえられるだろう、皆、そう思っていた。


「クソ!!き、君!!」


「うわっ」


動画を回していた学生の腕が掴まれた。


「た、頼む!!警察か、冒険者…そうだ!!冒険者組合に連絡を」


「て、てぇ離せよおっさん!!きめぇんだよ!!」


男が学生に突き飛ばされた。


「おまえ頭おかしいだろっ!!け、警察呼ぶぞ!!」


「た、頼む!!できるだけ早く…」


男の顔が恐怖にゆがんだ。


「あ、あ、あぁああ!!」


「ちょ、待ちやがれ…って、は?」


男が突然叫んだかと思うと再び走り始めたのでそれを追いかけようとした学生達だったが、3歩も進まないうちに男が倒れた。


倒れた男の頭にはぽっかりと穴が開いていた。


「は、はぁ?」


穴の中から、黒い何かが這い出てきた。


「う、うわああああああ!!!!!」



日常は、崩れ始めていた。
















>>>>>>


ダンジョンから帰還した俺は真っ先に換金所に向かった。


管理されているダンジョンの付近には必ず換金所が設置されており、冒険者組合というダンジョンのあれこれを管理する行政機関によって運営されている。


そのため、何かダンジョン内で異常があった場合、換金所の受付の人に相談すればそのまま冒険者組合の方に話がいくのだ。


換金所はいつも通り人でいっぱいだ。


列に並び、順番が来るのを待つ。そういえば初日以降あの地元のヤンキーみたいな人達を見ない。長い間このダンジョンで稼いでいたようなのでてっきり毎日来るものと思っていたが、引退したのか?


それだけじゃない。前までよく見ていた冒険者も最近は全く顔を見せないようになった。


最近はスライムの個体数の減少が顕著だったから、引退したというよりほかの稼げるダンジョンに鞍替えしたのだろうか?


「次の方」


「あ、はい」



順番が回ってきた。受付の人はもちろんあのクールな黒髪ロングのお姉さんだ。


「それではドロップアイテムと証明書を…」


「あ、すいません、その前に報告しないといけないことがあって、まずこれお願いします」


俺の目の前で死んでしまった冒険者の冒険者証明書を渡す。


「ありがとうございます。知っていれば、この冒険者が亡くなった際の出来事を教えていただけますか?」


「はい。ダンジョンの4層でその冒険者が黒いスライムに襲われているのを目撃して、異常事態だと判断した俺はその冒険者を守ろうとしたのですが力及ばず、黒スライムの攻撃によって、頭部が溶けて死んでしまいました」


今思い出してもグロイ死に方だった。成仏していることを祈る。


「黒いスライム、ですか。」


「はい、大きさは通常のスライムと変わらないのですが、硬く、早く、強力な腐食液を吐いてくる難敵でした。多分Cランク中位くらいはあったと思います。」


「…分かりました。情報提供ありがとうございます。この情報については冒険者組合の方で適切に処理させていただきます。死人も出ているので一時的にダンジョンを封鎖するかもしれませんね」


「そうですか…」


明日も来ようと思っていたので残念だが仕方ないか。あれは完全にイレギュラーだった。ユニークボスの発生のように「ありえなくはないが限りなく確率の低い事象」などではなく、純粋な異常事態。


何か不穏な感じがする。




その後、いつも通りドロップ品の換金をしてもらった。黒いスライムゲルはもしかしたらすんごい値が付くかもと思ったのだが、前例がないため値を付けれないらしく、調査報酬として冒険者組合の方から多少のお金をいただけることになった。その額5千円。


いや、うれしいよ?うれしいけどさ…。



















お腹がすいたので今日は近くの繁華街で夜ご飯を食べることにした。家の近くの商店街と違って平日にも関わらず人が多い。



せっかくなのでちょっと高級な焼き肉屋に入った。


「うっひょー、やっぱ高級焼き肉は違うなぁ」


よく通う食べ放題の焼き肉とはわけが違う。味も食感も満足感も何もかもが一級だった。


「ご主人様、私も食べたい…」


壁に立てかけてあった刀が突然黒い着物を着た少女になった。呪刀紫苑の人間形態だ。


「食べたいって、食べれるのか?」


「うん、食べれる。食べたい。…だめ?」


長い前髪の奥に見えるうるんだ瞳、捨てられた子犬のような表情。そんな顔をされてことわれる男がいるだろうか、いや、いない。(反語)


「ダメなわけないけど、あんま人目が付くとこで人間化するなよ?」


「う、分かった」


突然刀が人間化したら騒ぎになるだろうし、変な奴に目をつけられたら厄介だ。少しかわいそうだがなるべく人間化したり刀になったりしている所を人に見られたくない。


ここは個室なので心配はないが、用心するに越したことはない。


一番おいしい部位の焼肉を小皿にのせて紫苑の前に置く。時間をかけて育て上げた肉だが可愛い紫苑のためなら痛くもかゆくもない。


しかし、紫苑は正座したまま肉を眺めるばかりで食べようとしない。


「どうした?食べていいぞ?」


「…ご主人様、あの、私、刀、だから箸使えない…ごめんなさい」


そういえばそうだった。紫苑が人間化できるようになったのは今日のことだし、箸の持ち方なんて分かるわけないか。


「あのね、だから…あーん、して欲しい…な」


「仕方ないな…」


肉を箸でつかんで口を開ける紫苑の口に運ぶ。


「はい、あーん」


「あーん、あ、あちち」


出来立てだったので熱かったのか、口の中で肉をハフハフさせている。なんだこの可愛い生物は。


「どうだ?おいしいだろ?」


「うん、おいしい、とっても。…お返しに、私もあーんしてあげる」


そう言って肉を箸を使って俺の口まで運んでくる。


あれ、箸使えないんじゃなかったの?なんて考えは俺の頭に浮かぶことはなかった。


「あーん」


「あーん、うん、いつもよりおいしい気がする」


「え、えへへ、…うれしい、な…」



その後も二人で交互にあーんしながら焼き肉を食べた。何て言うか満足感がすごかった。腹も心も満たされたような気がする。


おかげでお会計で3万という額を見てもぜーんぜん驚かなかった。ぜーーんぜん。全く。ホントだヨ?

ただ次来るのは俺がもう少しランクアップした時かな!!






店を出ると辺りはすっかり真っ暗になっていた。繁華街は暗くなってからが本番だ。店に入る前よりも人は増え、喧騒も増している。


紫苑はおなか一杯になって眠くなったらしく、刀形態になって俺の背で休んでいる。


せっかくなのですこし繁華街を見て回ることにした。


やはり活気がすごい。どこの店からも大きな声や豪快な笑い声が聞こえる。


それに、ガールズバーやコンセプトバーの客引きか、未だに寒い日が続いているにもかかわらず露出の激しい服を着ている人やバニーガールもいた。お勤めご苦労様です。ありがとうございます。


めちゃめちゃガン見してたら怖い兄ちゃんがこっちを睨んできたんですぐに逃げた。




そんなこんなで繁華街を楽しんでいると、どこかで悲鳴が聞こえた。最初は誰かが酔って暴れてるもんだと思って気にせず徘徊を続けていたが、少しづつ異変が広がっていった。


まず、いたるところで大声が聞こえ始めた。今までの喧騒とは違う切羽詰まった声だ。次に必死に走って何かから逃げようとしている人が現れた。思わず引き留めて何があったか聞こうとしたがまあまあ強めに突き飛ばされてそのまま走って行ってしまった。と、思ったら同じように必死に走っている人が何人も現れ始めた。


ここまで来たら流石に何かが起こったことに気が付く。そして、それは周りの人達も同じだ。異変は徐々に広がり、そしてパニックになった。



「キャー!!」「な、何が起こってんだ!!」「にげろ!にげろ!にげろ!」「あっちで人が死んでる」

「ちょっとまってくれ!!ここに倒れてる人がいる!!」「腕が!腕が!消えた!」


元々人が多かったせいで道は阿鼻叫喚となっていた。走って逃げようとする人がいるがその人たちも走る方向がでたらめだ。あっちに行ったりこっちに行ったりしている。


「クソ、何が起こってんだ!?」


何とか人込みを抜け、元来た道を戻ってきた。丁度バニーガールの人がいたところだ。


「クソ、まみちゃん、早く逃げろ!!」


「いや、いやだよ!!ゆう君も早く逃げよう!!」


そこには先ほど俺が凝視していたバニーガールと、怖い兄ちゃんがいた。なにかからバニーガールことまみちゃんを守っているらしい。


怖い兄ちゃんの方を見てみるとダンジョンで見たあの黒いスライムがいた。


なんでこんなところにあいつがいるんだ!?いや、そんなことよりも!!


「危ない!!」


黒スライムが体を震わせた。あの粘液を吐く気だ。俺は急いで兄ちゃんに近づき、目の前にスキルボードを設置した。


危機一髪、粘液がスキルボードに阻まる。したたり落ちた粘液は地面に触れて穴を開けた。



「僕は冒険者です!!早く建物の中に避難してください!!あと冒険者組合に応援要請をお願いします!!」


「す、すまない!!恩に着る!!まみ!!いくぞ!!」


「ゆう君!良かったよぉ、うわーん」


バニーガールのお姉さんが兄ちゃんに泣きながら抱き着いていた。クソ、助けなきゃよかった。…冗談…です。


黒スライムの前に立って、紫苑を抜き構える。


『んみゃ、何事?』


「紫苑、寝てるとこ悪いけど少し働いてもらうよ」


『働く…んみゅぅ、わかた」


やっぱり眠いのかそのまま反応が無くなってしまった。おいおい、この状況で寝れるって鋼のメンタルかよ…いや鋼でできてたわ。




「何が起こってるのか分からんけどとりあえずは」



前傾姿勢になって地形操作を発動、アスファルトがうねり、黒スライムを捕らえる。


「お前を倒してから考える!!」


スキルボードの弾性付与によって人間ロケットとなった俺は黒スライムをアスファルトごと貫いた。



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