13話 君がいない午後
あの日から、
彼の姿を、図書館で見かけることがなくなった。
別に、何か特別な前触れがあったわけじゃない。
「またな」なんて言葉を交わしたわけでも、
明日も会おう、と約束したわけでもなかった。
それでも、なんとなく、
明日もまた、あの席に彼がいるような気がしていた。
だから、最初の数日は、
「たまたま時間がずれただけだろう」と思っていた。
なにかの都合かもしれない。
少しだけ体調を崩しているのかもしれない。
あるいは、何か別の予定が入っているのかも。
そうやって理由を探して、
勝手に納得して、
気づかないふりをしていた。
けれど、何日経っても、彼の気配は戻ってこなかった。
図書館の午後の静けさは、何も変わらないまま続いているのに。
本のページをめくる音も、窓の外から吹き込む風も、
彼がいたときと同じように流れているのに。
そこに彼がいないという事実だけが、
日に日に、重くのしかかってくるようになった。
気づけば、
僕はいつも通りに席に座りながら、
視線をそらすように、彼のいた席を見ないようにしていた。
見たくなかったわけじゃない。
ただ、そこに誰もいないことを確かめるのが、
少しだけ、怖かっただけだ。
思い返せば、
最後に言葉を交わしたのは、いつだったろう。
あのとき、どんな表情で笑ってくれた?
僕は、ちゃんと返事をしていただろうか。
何もわからないまま、
彼は、いなくなってしまった。
ただ、最初に目を奪われたあの姿を思い出しては、
儚く、どこか遠くへ行ってしまったんじゃないかと考えてしまう。
「……また、会えるだろうか」
黎明………
あのとき、口にはしなかったけれど、
心の中では、確かにそう願っていた。
それなのに、今になってその言葉が、
誰かに向けられた問いのように、何度も胸の中で繰り返されていた。




