長年の親友に新郎ごと結婚式を譲ったところ、予想以上に幸せになりました。
「シンシア、彼と出会わせてくれてありがとう。わたし、きっと幸せになるわ!」
突然親友に呼び出されたかと思ったら、自分の婚約者が親友と腕を組んで登場してきた。彼らの姿は、目を白黒させて立ち尽くす自分とは対照的に驚くほど堂々としている。シンシアは何となくこの後の流れを察しながらも、念のため親友に声をかけた。
「……あの、ジュニパー。あなたたち、一体いつの間にそんな関係になったの? そもそも私とライさまの結婚式は来月なのよ?」
「前にシンシアが、ライとの付き合い方をわたしに相談してきたことがあったでしょう?」
「マリッジブルーなのかしらと尋ねて笑われた日のことかしら?」
「ええ。それであなたとライでは相性が良くないかもしれないけれど、わたしとライなら悪くはないかもと思っていろいろと確かめてみたの。そうしたら、わたしたち運命だったみたいで。こんなところで理想の相手を見つけられるなんて思ってもみなかったわ」
親友はうっとりと頬を染め、ライを見上げた。その瞳は熱を孕み、なんとも艶やかに潤んでいる。彼もまんざらでもないらしく、鼻の下を伸ばしていた。そのまま反省しているようにはとても見えない表情で薄っぺらな謝罪を口にする。
「そういうわけで悪いが、お前との婚約は破棄させてもらう」
「まあ、解消じゃなくって破棄だなんて。ライったら、男前。とってもかっこいいわ! そうそう、シンシアにはわたしの婚約者だったアロンをあげるから問題ないわよね。お似合いのふたりが結婚することになって、わたし、本当に嬉しいわ」
「ああ、まったく似合いのふたりだな」
「わたしとあなた、シンシアとアロン。本当に完璧な組み合わせね!」
「美男美女の完璧夫婦と、地味で平凡、面白みのない夫婦の完成だ」
ジュニパーがライを褒め称えれば、ライは当然のように胸を張り質の悪い冗談を連発する。親友の賞賛も頭が痛いが、先ほどまで婚約者だったはずの男が胸を張る意味はさらに理解できない。シンシアは顔を引きつらせながら、おずおずと尋ねた。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「ええ、問題ないわ。安心して。わたしなら、あなたと違ってこの結婚でちゃんとうまくやれるから。幸せに暮らしていけるって、自信を持って言えるもの」
「そうだぞ。ジュニパーはお前なんかと違ってちゃんとできるんだ」
「……ふたりが納得しているなら、私に異論はないわ」
シンシアの返事にジュニパーは満面の笑みをたたえて抱き着いてきた。本当に嬉しいのだろう、その場で何度も小さく飛び跳ねている。ジュニパーの子猫のような愛らしさは、地味で生真面目なシンシアにはないものだった。ほんの少しの羨ましさを抱えて、シンシアはジュニパーを抱きしめ返す。
「ありがとう。シンシアならわかってくれるって信じていたわ。わたしたち、これから先もずっと良いお友だちよね?」
「あなたは永遠に私の大切な親友よ」
「そう言ってくれるって信じていたわ。結婚式には絶対に来てちょうだいね! 一生忘れられない最高のお式になるわ!」
「わかったわ。楽しみにしているから」
「シンシア、結婚式当日に当てつけとばかりに白いドレスなんて着てくるなよ。いくら捨てられた婚約者だからって、そんなみっともない真似をするほど落ちぶれちゃいないだろう?」
にやつきつつふたりの会話に割り込んできた元婚約者には苦笑だけを返して、シンシアは足早にその場を立ち去った。
***
シンシアの婚約者であるライは自由気ままな男だ。思いついたら即行動の彼は、たびたび問題を引き起こしてきた。ライの両親たちは、息子の飽きっぽさや集中力のなさ、目先の面白さに飛びついてしまう軽さをよくよく理解していたらしい。規則に厳格で真面目さが取り柄のシンシアを婚約者に据えることで、ライの手綱を握ろうとしていた。
つまりはライのため、今後の侯爵家のための結婚だ。お断りしたくても、本家筋からのご指名とあってはシンシアに拒否権などない。そして結局のところ、シンシアとライの婚約は顔合わせ直後から波乱万丈としかいいようのないものとなってしまった。何せ他家にも聞こえるほど真面目なシンシアと、臨機応変と言えば聞こえはいいが、場当たり的に行動しがちなライである。うまく噛み合うことの方が難しいのは明白だった。
貴族の子女が通う学園を卒業してからも、シンシアは毎日ライへの注意と尻拭いに追われていた。
『ライさま、当日に遠出に誘われても難しいのです。私にも都合というものがございます』
『お前は都合がつかないのではない、つけようとしていないだけだ』
『ライさま、何事も使用人を動かして事前に確認を入れましょう。当日、店や劇場の席に空きがないからといって表で騒いだところで何も解決いたしません』
『何事も事前に決められていてはつまらない。偶然の出会いを楽しみたいとは思わないのか? 毎日毎日調べものばかりして、屋敷から出ようとしない引きこもりには理解できないか』
『ライさま、もう少し落ち着きを持ってください。特に女性への振る舞いにはよくよく注意をお願いします』
『本当につまらぬ女だな。感情を押し込めて暮らしていては、表情筋が固まってしまうぞ』
彼にしてみれば、四角四面なシンシアこそノリが悪く、面白みに欠ける人間らしい。何を言っても分かり合えない日々に、シンシアはいつしかライの言うことには極力黙って従うようになっていた。
婚約者の気まぐれにいつも振り回されているシンシアは、友人が非常に少ない。シンシアが予定を入れていたところで、ライは自分を優先するように命じてくる。シンシアを放置するほど友人がいるのだから、自分に構わずにお友だちとやらと交友を深めていればよいだろうに。
そんな彼女の愚痴に付き合ってくれていたのが、親友であるジュニパーと彼女の婚約者であるアロンだった。ジュニパーは他人を傷つけるような行動を好まない。だからこそシンシアは、ジュニパーがこんな大胆な行動を起こすとは考えたこともなかったのである。
***
「驚いたな。ジュニパーがいきなりそんなことをするなんて」
「アロンさまも、ご存じなかったのですね。では、急いでライさまのお屋敷に!」
「いや、その必要はないよ」
急いで事態を知らせたものの、アロンはただ首を振るばかり。
「一時の感情で行動して、誰が幸せになれるというのです! いけません!」
「いいや、これで三方良しの結果になるとも。心配しなくてもいい。ジュニパーの行動には、僕も賛成している。すでに僕たちは、両家の両親のもとで婚約解消済みだ。なんの問題もないよ」
「そんな……」
「面食らったのは、その場に僕がいなかったからだ。もともと僕も同席する予定だったのだけれどね。彼女は、積極的なひとだから」
笑いをこらえた声に、ちくりと胸が痛む。ライとの婚約を調える前から、ずっと好きだったひと。面倒な相手と婚約を結ばされたと思っていたら、親友が自分の好きな相手と婚約してしまったのだ。日々、動揺を隠すだけで精一杯だったのに、今度は思わぬ幸運で好きなひとを手に入れてしまったのだ。乱高下する感情に、思わず視界がにじむ。
「僕とジュニパーは、ずっと同じ目的のために共闘してきていたんだ。僕たちの間に友情はあっても、それ以上のものは存在していないよ」
「でもアロンさまは、いつ見てもジュニパーと楽しそうに過ごしていらっしゃっていて……」
「ああ、それは。いや、これは後から話そうか。大丈夫、全部うまくいくから」
優しく抱き寄せられて、思わず縋りついてしまう。こんな状況だというのに、ひとりだけ幸せを感じてしまって良いのだろうか。海のような青い瞳に吸い込まれそうで、シンシアは静かに目を閉じた。
***
結婚式当日、シンシアはアロンに申し訳ないとは思いつつも、結局一緒に結婚式に出席していた。身に着けているドレスは、深い青。王都での有名ドレスメーカーに頼んだ特注品で、ほっそりとしたシンシアの美しさを引きたてている。
式にはシンシアが見たことのない子どもたちも大勢参列していた。本家と分家という関係にもかかわらず、記憶にない子どもたちの姿に少しだけ疑問を覚えたが、何せライの交友範囲はかなり広い。自分の知らない友人の子どもたちを連れてきたのかもしれない。ライの友人の子どもたちとは思えないしつけの行き届いた姿に、鳶が鷹を産むこともあるのだとシンシアは自分を納得させた。
「本当に、そのまま使ったのですね」
「何も変わっていないのか?」
「驚くくらいそのままです」
遠目からちらりと花嫁である親友の姿を確認し、シンシアとアロンは小さくため息を吐いた。ジュニパーとライは、シンシアが花嫁として準備していた式の内容をそのまま流用したらしい。
ジュニパーがドレスの裾を引きずっているように見えるのも、胸元が少しばかりきつそうなのも日数的なものを考えれば仕方がないのだろうが、なんとも言えない気持ちになってしまう。だが、親友が選んだ道であればもうこれ以上何も言うまい。シンシアは気持ちを切り替え、楽しい話題を探してみた。
「そういえば、サムシングフォーは何か用意したのでしょうか」
「サムシングフォー?」
アロンが問い返してきた。サムシングフォーは、古くから続いている結婚式のおまじないだ。何か古いもの、何か新しいもの、何か借りたもの、何か青いもの。これら4つの品物を用意し結婚式に取り入れることで、花嫁が幸せになれるとされている。
「君は何を用意するつもりだったんだい?」
「私は特に何も。望んだお式ではないのに、そこまで一生懸命になれなかったというのが一番の理由なのですけれど。どうせ向こうのお義母さまが張り切って口を出してくるのだろうなと思ったら、考える気も起きなくて」
シンシアの答えに、アロンが苦笑した。自由気ままなライの両親もまた、かなり癖が強い。結婚式は花嫁の夢ではなく、姑の見栄と誇りが詰まっているのだろう。裕福な侯爵家なので、金銭面の心配がないことだけが唯一の救いかもしれない。
「たぶんだけれど、きっと面白いものが見れると思うよ」
「何かご存じなのですか?」
「知っているような、知らないような。まあ、楽しみにしておいてくれ」
お祭りごとが大好きなジュニパーのことだから、何かしらの準備はしているのだろう。けれど、そもそも未婚であるシンシアの元にはサムシングボロウの打診など来ることはない。そのため一体何を準備したのか、まるで想像もつかなかった。
***
結婚式は粛々と進んでいく。誓いの言葉とともに、新郎新婦が熱い口づけが交わされると思ったその時、するりとふたりの間に子どもたちが入ってきた。驚く周囲の反応をよそに、子どもたちはにこにことドレス姿の今日の主役を見上げている。
花嫁であるジュニパーもまた、当然のように子どもたちの頬にキスを落としていった。ちゅっと音が鳴るような熱い口づけに、子どもたちがきゃっきゃっと笑い声を上げる。呆然とする花婿に向かって、ジュニパーはにこりと微笑んだ。
「さあ、誓いのキスを。これからみんなで家族になるんだもの。問題ないわよね?」
「え、い、一体何を?」
「もう、ライったらダメよ。子孫繁栄は貴族にとって大切なことだけれど、子種だけばらまいても意味がないじゃない。ちゃんと、しっかりとした愛情と教育が必要なのよ。安心して。この子たちには、ちゃんと事情を説明しているから。みんな、ばっちり理解してくれたわ!」
問われた子どもたちは、一斉にはいと返事をした。お行儀よくしつけられた、身なりのよい子どもたち。けれど、彼らが新郎を見る目は一様に冷たい。わきまえているからこそ静かにはしているけれど、好意はいろいろと奔走したらしい新婦にしか向けられていないのだ。ざわめきが周囲に広がっていく。
「同じ血筋であるはずなのに、どうしてこんなにも見覚えのない子どもたちが式にいるのか不思議だったのです。学生時代のお友だちのお子さまなのかとも思っていましたが、先ほどの言葉から考えると……」
そこでシンシアとアロンは顔を見合わせた。あとさき考えずに行動するライが、適当な女たちと一夜限りの行きずりの関係を楽しむ姿が目に浮かぶ。最近では魔力の型で親子鑑定ができるようになっているが、その技術の開発には男女双方の事情が複雑に絡み合っているのだろう。
「見知らぬ女たちが使ったお古の新郎に、姑と舅以外に一気に増えた新しい家族。産みの母への手切れ金と見舞金、婚約破棄に伴う私への慰謝料で、おそらく新郎の個人資産はすっからかん。両親から借金したことは確実。素晴らしいサムシングオールド、サムシングニュー、サムシングボロウですね。サムシングブルーは、貴族に流れる青い血で賄うつもりかしら」
「他にもあるじゃないか。おあつらえ向きの青いものがさ」
「え?」
きょろきょろと辺りを見回すシンシアに、アロンがいたずらな顔でささやいた。
「ライの顔色さ。見てごらん、人間の顔ってあそこまで真っ青になれるものなんだな」
おろおろとうろたえる新郎には目もくれず、一気に子沢山の母となったジュニパーは、まっすぐに前を向いている。その顔は、意外なほど晴れやかで美しかった。
***
しばらく後。新婚となったシンシアとアロンの前に、涙目のライが現れた。結婚式にはジュニパーと子どもたちだけが出席してくれていたので、久方ぶりの再会である。
「シンシア、助けてくれ! 俺はこんな生活なんて望んでいなかった!」
「ライ、淑女に対する距離感を忘れてしまったのかい?」
結婚式よりもさらに顔色の悪いライが、シンシアにすがりつこうとしていた。隣にいたアロンがさっとシンシアの間に入る。かつて傲岸不遜で有名だった色男が、顔色悪くくまを浮かべ、ひとり指先を震わせていた。
「あら、ごきげんよう。一体、こんなところで何をしていらっしゃるの?」
「ジュニパーを知らないか?」
「まあ、夜会会場で迷子になってしまいましたの? 彼女とは先に挨拶をしましたけれど、その後は別々に行動しておりますから。この会場のどこかにはいるのではないかしら。そもそも夜会では基本的に夫婦そろって社交をするものでしょう? ジュニパーを見失ったからと言って、こちらに行方を尋ねられても……」
「朝から晩まで働きっぱなし。せっかくの社交も、両親とジュニパー、それに年長の子どもたちだけで終わらされてしまう。こんなのあんまりじゃないか」
ライの愚痴に、シンシアとアロンはふたりそろって肩をすくめてみせた。今まで散々、誰かに合わせるのは嫌だとか、自由に行動したいだとか、堅苦しいのは嫌いだとか言っていた男が、今さら一体何を言っているのだろう。
「俺は寂しい。ひとりで自由気ままに行動しても楽しくない。どうしてだ。ジュニパーはどうして俺を放置する?」
「放置しているのではなく、かつて望んだ通りの生活を満喫させてもらっているのではありませんか」
「俺が望んだ生活?」
「結婚しても、妻や子どもに縛られるのはまっぴらごめんだとおっしゃっていたはずです。面倒な両親の世話は妻に任せたい。嫁姑問題が起きても、関知したくない。子どもを仕込むのが夫の仕事なのだから、教育は妻がやるべき。すべて、叶っているでしょう?」
「だが、そんな、俺は変わったのに!」
「それはあなたが変わったのではなく、周囲が変わってしまって取り残されてしまっただけのこと。大丈夫です、今までもこれからも、あなたはあなたらしく『自由に』過ごせますわ」
「君がシンシアを手放してくれたおかげで、僕たちは幸せに暮らしているよ。そのことについてだけは、礼を言わせてもらおう」
自分が家族を疎ましく思うことはあっても、自分が家族に疎ましく思われる可能性については考えもしなかったようだ。自分の都合の良いときだけ、家族になりたいと言われたところで誰が心を砕くだろう。そんな当たり前のことにようやく気が付くだなんてなんと愚かな。言いかけた言葉は、ぐっと飲み込む。
「あらあら、何をしているの。我儘ばかり言っていると、お仕置きしちゃうわよ? でもお利口にしていたらご褒美をあげるわ。だからちゃんとおうちに帰って、お仕事をしていてね」
呆然と立ち尽くすライの元に、騒ぎを聞きつけたジュニパーが戻ってきていた。連れていた侍女にライを任せ、うまく外に連れ出しているところを見ると、こういった出来事は初めてではないらしい。遠くで何か物音がしていたが、それもすぐに静かになった。
***
「さっきはごめんなさいね。ライが迷惑をかけたみたいで」
「全然かまわないわ。それよりもジュニパー、あなた、本当に大変じゃないの?」
何をとは詳しく言わないまま、シンシアは親友に問いかけた。しかし、ジュニパーはおかしそうにころころと笑っている。
「大丈夫よ。わたし、シンシアと違ってうまくやれているでしょ?」
「そうね。私には耐えられない状況を、ジュニパーはよくやり過ごせているものだと思うわ。あんな男を押し付けちゃって、申し訳ない気持ちでいっぱいなの」
「申し訳なく思う必要はないわよ。だって、欲しい物は全部手に入れたもの。自分で動かすことのできる領地と自由に使えるお金、自分に協力的な義両親にたくさんの可愛い子どもたち。死ぬ危険もなく子沢山になれて、そのことで社交界の同情も買える。なんてお得なのかしら」
「そのお得さを差し引いても、普通は手を出せないのよ。できる限り関わり合いになりたくないの。不良物件どころか、事故物件だわ」
「わたしは事故物件で快適に暮らせるけれど、わざわざ嫌がっているひとが住むべきじゃないもの。親友には、想い合っている相手と幸せになってほしかったし」
可愛らしく片目をつぶってみせるジュニパーの姿は、昔からちっとも変わらない。感極まったシンシアが、大好きな親友に抱き着いた。
無理矢理にライとの婚約が調えられたとき、ジュニパーは確かにこう約束してくれたのだ。わたしが助けてあげる。だから、絶対に諦めないでと。
シンシアが好意を寄せていたアロンをジュニパーが自分の婚約者にした挙句、味方として計画に引っ張り込み、結婚式直前に婚約者の入れ替えを実行した時には卒倒しそうになったが、彼女がそれなりに幸せに暮らしていると言ってくれたおかげで、ようやく素直に新婚生活を満喫できる気がした。
「相変わらず、君は見た目とのギャップがすごいな。結婚式で特大の爆弾を落としたあげく、年長の者たちを手懐けてしまう君の豪胆さには度肝を抜かれるばかりだよ」
「あら、好意を伝えられない相手の側にいるために、好きでもない女の婚約者になったあげく、影のように後を追い回していたお方には敵いませんわ。わたしとのデートの時も、シンシアへの愛ばかり語っておられて」
「それは言わない約束だろう!」
アロンがジュニパーを誉めているのかけなしているのかわからない発言をすれば、ジュニパーはアロンが隠していた特大の秘密を暴露する。見た目が子猫のように可憐なジュニパーは、その性格もまた子猫のように純真無垢だと勘違いされやすい。実際は、彼女ほどしたたかなご令嬢もいないというのに。親友の幸福と、自分の理想の生活を手に入れたジュニパーは誇らしげに微笑んだ。
「じゃあ、ジュニパーはちゃんと幸せに暮らしているのね」
「ええもちろん、あなたたちと同じようにね。これが我が家の『夫婦は合わせ鏡』の解釈よ。それにね、わたしライのこと嫌いじゃないのよ。特に今みたいに、ちょっとやつれて煤けている美男子は大好物なの。なんだかんだで破れ鍋に綴じ蓋ってこと。これからも、死なない程度に転がしておくつもりよ。あら、ライが昔あなたたちに言った通り二組ともお似合いの夫婦になってるじゃない」
また楽しそうに笑い飛ばすジュニパーに、シンシアとアロンもつられて笑い出してしまうのだった。
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