表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

王室秘伝の媚薬にまつわる秘密の話

 超絶イケメンな高身長プリンスが皇太子に正式指名される運びとなった。その祝賀会で婚約者が公表されることになったのだが、その未来の王妃様を一般公募すると発表があり、適齢期を迎えた娘――そうでない女たちも――は奮い立った。肝心の王子様は物凄い浮気者で数多くのご令嬢と浮名を流す女誑しで、結婚しても自分が大事にされないと分かっていても「我こそは次期国王の后に相応しい!」と特に根拠もなく全員が思ったのだから、ファンタジーの世界とはいえ皆どうかしている。

 ただし例外はある。媚薬の研究に熱中するオー嬢(仮名)だ。彼女は女盛りを迎えていたが、自分の恋愛より自分自身が創り上げた媚薬の売れ行きの方が気になって仕方がなかった。効き目はある! と思うのだが売り上げは伸びない。材料費がかさむため赤字が続いており、このままでは廃業もやむなしという状況である。

 強い酒精をグラスの四分の一まで注ぎ、それを一気に干してオー嬢は溜め息を吐いた。

「飲まずにやってられない」

 もう一杯やるか、とボトルをつかんだら来客があった。

「ここは媚薬を製造・販売する薬種商だと聞いたが、昼から営業中の飲み屋だったかな?」

 カウンターの上に置いたボトルとグラスを慌てて隠し、オー嬢は言った。

「これは媚薬の材料です。品質を確かめておりました」

 マスクで顔を隠した客の男は媚薬を注文したい、と言った。金貨の詰まった袋をカウンターに置く。袋の口から覗いて見える黄金色の輝きにオー嬢は鼻息を荒くした。

「どのくらいお入り用でしょう?」

「あるだけ買う。だが、その前に媚薬を調合する様子を見せてくれ」

 同業者のスパイかもしれない、とオー嬢は疑った。

「それはお許しを。企業秘密ですので」

 袋の中から金貨を一つまみ出し、仮面の男はカウンターにばら撒いた。

「この袋の金は見学料だ。商品の代金は別途支払おう」

 それだけあれば滞納している家賃を払ってもお釣りが来るとオー嬢は計算した。

「どうだ、悪くない話だと思うが」

 マスクの男にオー嬢は頷いた。

「分かりました。それでは奥の方へ」

 材料を見せられた客の男は絶句した。何とか言葉を絞り出す。

「ちょ、ちょっと待てよ。これを飲むのか、人間が」

 オー嬢は「効き目がありますので」と自信たっぷりに答えた。様々な動物の生殖器の干物や檻の中に閉じ込められた動物たちから抽出された液体を、さも愛おしそうに見つめる彼女から、マスクの客は気持ち悪そうに視線を逸らせた。

「まあいい。飲むのは俺ではないからな」

「どんな方が飲まれるのです? 男女で配合に違いがありますので、教えていただけないでしょうか?」

「美女だ。ありとあらゆる美女たちに飲ませたい。俺の夢は世界中の美女を集めたハーレムの建設だ。そのためには媚薬がいる」

 諸星あたるみたいな奴だな、とオー嬢は呆れた。しかし金を払う相手なら、どんな馬鹿や悪魔にでも媚薬を売る覚悟はできている。

「媚薬には様々な形状がございます。粉薬、水薬、お香や揮発性の香水といった気体がございまして」

 その言葉を聞き、マスクの男は鼻で深く息を吸い込んだ。

「そうか、さっきから気になっていたのだ。この店の中には、凄く良い匂いがする」

「特に、この調合室は匂いが強いですわ。作り立ての媚薬が豊富に置いてありますから」

「めまいがしてきた」

「慣れたら気になりません。今は気分が優れなくても、もうすぐ良くなります」

「……横になりたい」

 仮面の下で力なく客の男が呟いたので、オー嬢は調合室の隣にある仮眠室へ案内した。

「しばらくお休み下さい」

 そうオー嬢が言い終わると、マスクの男は小声で笑った。

「ふふ、この部屋に男を入れたことはあるか?」

「いいえ。お客様を裏へ通すことはございませんから」

「この媚薬の効き目は凄まじいな。お前を抱きたくなって、もう我慢できない」

「何をなさいます!」

 いきなり男に抱きつかれ、オー嬢は必死に抵抗した。その弾みで、男の顔を覆う仮面が落ちた。

「あなたは! この国の王子!」

 超絶イケメン王子は端正な顔を淫らに歪ませた。

「ちょっと小耳に挟んだので冷やかし半分で遊びに来たら、本気になってしまったよ」

「お戯れはやめてください! お后様を公募するのではなかったのですか!」

「お前がいい。俺の妻となれ」

「嫌です!」

「ダメだ、俺はもうお前に心を奪われてしまった。もう離さない」

「放して!」

「一生お前を溺愛する。浮気なんて絶対しない。大切にする。俺を捨てないでくれ」

「こんなの犯罪です! たとえ王子様でも、絶対に許されません」

「文句は自分の作った媚薬に言え」

 そんなつもりはまったくなかったオー嬢だが、図らずも王妃様となってしまい、本当に驚いた。だが、自分で創薬した媚薬の効果が現れたことは満足できた。彼女の薬は王国秘伝の品となった。その製法は今日も秘密のままである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ