1-8:村の白魔道士と諸事情
「それじゃあ、私行ってくるから」
そう言って、エリンは行ってしまった。
連絡手段も無いのにどうやって合流するつもりだ?
まあ、その辺にいれば向こうが勝手に見つけてくれるか。
知らない土地だし、あちこち勝手に見回って迷子になっても困るし、大人しくしていよう。
そう思い、とりあえず辺りを見回す。
辺りには白魔道士と思われる女性がちらほらいる。
一方で男の戦士はいない。
広場に白魔道士とやってくる者も一人二人いたが、広場に白魔道士を送り届けると、すぐに別の場所に行ってしまっている。
恐らくはエリンと同じく出場する選手だけ別の場所に集められているのだろう。
観客は、試合も始まらないのに来ているわけないか。
開会式とかあるのかは分からないが、試合が始まる頃には来るかもしれない。
とりあえず、大会が始まるまではここで待機しよう。
と、エリンを待っていたところ、一人の白魔道士が僕に声をかけてきた。
「見ない顔だけど、大会に出る人?」
余所者だからな。
僕以外の参加者は全員この村の人間なのだろう。
だから、警戒して声をかけたのか?
それとも、単に珍しがって話しかけてみただけなのか?
理由はわからないが、とにかく話しかけられたからには無視する方が逆に不自然だ。
とりあえず、答えよう。
「はい。エリンさんの相方として出場します」
「げっ、エリン参加できちゃうって事? ってか、あなた村の人間じゃないよね?」
「は、はい。この村には旅の途中で通りかかっただけで」
「はぁ……。それで、エリンに頼まれたってわけ?」
「そうですけど」
「それなら仕方ないか。あーあ、せっかく村の女の子全員でエリンと組まないようにしていたのに」
だから、エリンは一緒に出てくれる白魔道士がいなくて困っていたのか。
事情は知らないが、村の中で嫌われてるのかもな。
だとすると。
「もしかして、邪魔者ですか私?」
「うん、邪魔者っていうか迷惑。でも、旅の人で何も知らないんだし仕方ないんじゃない?」
はっきり言うなあ。
だったら、こっちもストレートに聞いてみるか。
「私の事、今潰してエリンさんが大会に出られないようにしますか?」
「それはやらない。旅の人をボコボコになんてしたら悪評立っちゃって、村の皆が困るし。『あの村に行くとボコられる』って噂になるのは嫌だし、それこそ迷惑」
なるほど、そういう考えもあるのか。
余所者だからこそ、村の人間も迂闊に手を出せないのな。
まあ、僕が逃亡中の黒魔道士だってバレたら襲ってくるだろうけれど、正体バレしなきゃ試合中の事故以外は大丈夫か。
「それを聞いて安心しました。でも、何でエリンさんはそういう扱いなのですか?」
もののついでに一応聞いておこうと、僕はこの質問をしてみた。
すると、白魔道士の女の子は考える素振りも無く率直に答える。
「何でって、女戦士が活躍なんてしたら、女も戦士にしようなんて流れになって、男みたいに鍛錬しないといけなくなったら嫌だし」
考えもしなかった。
でも、言われてみれば、そうなのか。
確かに、この村は戦士で有名だからなあ。
男も女も皆戦士にしようって事になったとしても、おかしくはない。
「でも、優勝するのは多分ケーンだから、どの道大丈夫かな?」
ケーン?
そいつかこの村の若者で一番強いのかな?
「そのケーンさんは、お強いのですか?」
「強いっていうか、他の男連中がやる気全然無いんだよね」
そういう事か。
確かに、それならやる気のあるエリンが活躍するという懸念も分かる。
「あーあ、私もケーンと組みたかったなあ。そしたら、優勝できるのに」
僕に話しかけてきた白魔道士の女は、そう愚痴っていた。
基本は戦士のための大会っぽいが、それでも優勝はしたいものなのか。
「じゃあね。試合で当たりませんように」
女は去っていった。
とりあえず、僕が闇討ちされる可能性が低い事と、エリンの村での立ち位置が少し分かったのが収穫か。