5-4:聖都に入る隠し通路
旅の末、僕はエリンと共にようやく聖都の前までたどり着いた。
道中、危惧していた魔獣にも襲われる事はなく、ここまで来れたのは幸いだったと思う。
「ねえねえ、クロエ。聖都で蘇生の白魔法を使える人って、その大魔道士役の人しかいないの?」
「多分な。昔はもっといたらしいけれど、内戦があった時にそういう魔法が使える家系の人が途絶えたと聞いた事がある」
「そうなんだ」
「強力な魔法が使える五指の家系も僕が生まれた段階でアルコル家、イグニス家、ウーラム家の3つ既にが滅んでいたし、今は僕のエリクシール家も、な」
僕がそう話すとエリンは不味い事を聞いてしまったと思ったのか急に黙り込んでしまう。自虐的な事を言わなければよかったと僕は反省した。
だが、とりあえず今は聖都の中に入らないと。
聖都に入るための正門を見ると大勢の人が並んでいるのが見える。
「凄い行列だけど、あの人たちも蘇生の白魔法が目的かな?」
「聖都が凄いのは大魔道士役だけじゃない。蘇生魔法の域には達していなくても、重傷くらいまでなら何とか治せる強い白魔道士が集まっている。それと、観光地としても単純に人気らしい」
だが、それにしては列の進みが遅い。
心当たりがあるとすればやはり手配されている黒魔道士、すなわち僕を捕らえるための検問であろう。
確かめたわけでは無いが検問自体は先の交易都市ポン等でも既に体験しているし、むしろ無い方がおかしい。
当然ながら力づくで無理やり通る事はできるけれど、エリンの蘇生の前に騒ぎを起こしたくは無い。事が面倒になるだけだ。
まあ、元より正門から入るつもりは無かったのだが。
「エリン、聖都の神殿に通じる隠し通路がある。そこから行こう」
「神殿って、そこに聖……じゃなかった大魔道士役の人がいるの?」
「そうだ。まあ、実際行ってみれば分かる。ついて来てくれ」
僕はエリンを連れて聖都の外周を半周した後、少し外れの方角に歩く。
聖都から少し離れたその場所には人間と同じくらいの大きさの古びた5体の女神像が並んで設置されており、更にそれを守る大きな祠が立てられている。
「この女神像の裏、祠の奥に隠し通路の入口、いや出口がある。本来は聖都内の神殿からここまで脱出するのに使う秘密の通路なんだけど、今回はここを利用しよう」
「中は大丈夫なの?」
「多分な。少なくとも、幼少の時に通った時は大丈夫だった」
近くで見ればそれなりの建築物なのだが、聖都から微妙に離れている事もあって誰も近づかない場所だ。
故に隠し通路の出口としては最適な場所ではあるが、手入れがまるでされていないので少々ボロい。
だが僕と妹が幼い頃、当時聖都で大魔道士役をやっていた母に会いに行くのに使っていたから多分大丈夫だろう。
僕とエリンは女神像の裏に回って地下に降りる階段がある事を確認した後、通れる事を確認しつつ慎重にゆっくりと進む。
地下に伸びている通路には当然明かりもないので僕が炎の黒魔法で明かりを灯している。
幼い頃に通った時と変わらないが思い出と比べて少し狭い。そう感じながら伸びる地下通路を先へと進む。
そうして通路を真っ直ぐに歩いていると、やがて先の方にうっすらと上りの階段が見えてきた。
「ここを上れば神殿内部に出るはずだ」
「どうする? 私が先に進んだ方がいい?」
危険は無いと思うが万が一の事もある。
それに、こんな事は考えたくは無いが仮にエリンが攻撃を受けても屍操の黒魔法の効果で全部無効化されてしまう。だから、エリンを盾にした方がいい事は確かだし、僕が死ねば魔法が解けてエリンは死んだまま二度と動けなくなり本末転倒。
エリンの提案通りエリンに先に進んでもらった方がいい事は確かだ。
「分かった、頼む」
「オッケー、任せて」
エリンを先頭にして階段を上り扉を開けると、そこはやはり聖都の神殿の内部だった。
僕の記憶が確かならば、ここは神殿のエントランス近くにある回廊。
「誰だ!? 何故、隠し通路から入ってきた!?」
「多分侵入者だ。取り押さえろ!」
隠し通路の出入口付近が警戒されていたのか、僕とエリンは早々に見張りの兵に見つかってしまう。
そして、すぐさま衛兵たちが集まってきて囲まれる。
「クロエ、どうしよう? 騒ぎが大きくなる前に通路を戻って引き下がった方がいいかな?」
「いいや、このまま殺さない程度にこいつらの相手をしよう。大魔道士役に会えさえすれば問題ない」
僕たちが神殿の衛兵に負けるとも思えないしな。
こっちには武の厄災を倒したエリンがいる。
それに、いざとなれば僕の黒魔法で衛兵たちの動きを止めればいい。
「目的はリリアンヌ様か!? 誰か急いで報告を!」
「そうだ、リリアンヌ様に報告しろ。クラウディオが会いに来たとな」
僕たちの狙いが大魔道士役だと知って動揺する衛兵たちに、僕はそう言い放った。
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