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1-4:戦士と魔道士の大会

(誤植を修正しました)

 僕が森の奥に進むと、湖のほとりで槍の稽古をしている女がいた。


 先程出会った彼女。


 自己紹介がまだだが、彼女の師匠を名乗る老人たちの話から、名前がエリンだという事は既に知っている。


 僕の姿に気付いたエリンが声をかけてきた。


「あっ、さっきの」


「私、やっぱり大会に出ようかなって」


「えっ、やったー。嬉しい。でも、急に何でまた?」


「あなたのお師匠さんたちに頼まれて」


「師匠たち、いないなあと思ったらそっちにいたんだ」


「さっきの私たちの話を聞いていたみたいで」


「そうだったんだ。だから、頼んでくれたんだ」


「それなりの見返りは貰いますので、後で御礼を言った方がいいと思います」


「そうする。でも、あなたもありがとう。大会、明日だから困ってたんだ」


 あ、明日!?


 また急だな。


 でもまあ、ここにあんまり長く居ても仕方ないし、丁度いいと考えよう。


「そうなの?」


「急でゴメン!」


「ううん、日程を聞かなかった私が悪いだけだし。明日だからって気が変わったりはしないから大丈夫」


「よかった。これで女だって戦士はやれる。それから、槍は剣に劣らない武器だって師匠たちの無念を晴らせられる!」


 女の戦士を認めさせるねえ。


 そっちは分かり易い理由だな。


 男の魔道士が禁止されている今の時代と違って、女の戦士は禁止されてはいない。


 だから、単純に自分の事を周りに認めさせたいが本当の理由で、それを女の戦士を認めさせたいと大義がある様に誤魔化したいのは何となく分かる。


 しかし、槍と剣というのはどういう?


「あの、槍は剣に劣らないっていうのは?」


「私の師匠たちは元々槍使いの戦士だったんだ。だけど、ある時から『戦士の武器と言えば剣』って流れになっちゃって、日陰者になった師匠たちはこの森の奥に追いやられちゃって。だから、私が槍で優勝して村の人たちに槍を認めさせるんだ!」


 つまり、師匠たちへの恩返し?


 それとも、あの老人たちが彼女をけしかけた?


 あるいは、両方の理由?


 何れにせよ、単なる自己満足のための大会出場ではなく、勝たなきゃいけないみたいだ。


 けれど、


「本当に私は何もしなくていいの?」


「うん。白魔道士のサポート無しで勝った方が槍の力だって示せるし」


 成る程なあ。


 勝つ事よりも槍のアピールが大切なのか。


 それなら、僕が何もしなくていい、むしろ何もしない方がいいと分かる。


 強いてやる事があるとすれば、自分に向けられた攻撃を回避する事。


 攻撃を防ごうと思えば、黒魔法で防ぐ手段は幾らでもあるけれど、それはやらない方がいい。


「それじゃあ、明日はよろしく。って、自己紹介がまだだった。私はエリン。あなたは?」


「クロエです」


「うん、それじゃあ改めてよろしく。クロエ」


 互いの自己紹介も終わったし、明日の大会は出場するだけで僕は何もしなくていい。


 作戦とか立てるわけでもないから、今日はこれでいいか。


「それじゃあ、明日また」


「明日またって。これからどうするの、クロエ?」


「今日からしばらくエリンのお師匠さんたちのところに泊めてもらうつもり」


「えっ? 村に家があるんじゃないの?」


 しまった、ここで怪しまれたか。


 というか、ひょっとすると、さっきまで村の住民だと思われてたのか?


 何とか誤魔化さないと。


 でももう、老人たちに泊めてもらうとまで言っちゃったし。


「う、うん。旅の途中なんだ」


「あっ、もしかして卒業旅行ってやつ? 見聞を広めるために魔法学校を卒業したら旅するって友達もいたし、それ?」


「そ、そう、卒業旅行の途中」


 よかった。


 向こうが勝手に都合良く解釈してくれた。


「そっか。卒業旅行中なのに無理言ってゴメン。私、てっきり見覚えのない同郷の後輩だと勝手に勘違いしちゃって」


「ううん、大会に出る見返りで泊めてもらう約束だから気にしないで」


「へー。師匠たちもこんな可愛い女の子に泊ってもらえるだなんて幸せ者じゃん。優勝賞金は山分けのつもりだったけどクロエに全額渡さないと割に合わないかも」


 可愛い女の子、か。


 正直、魔法学校に通っていた頃は女装がバレないか不安で仕方がなかったけれど、こうやって褒めてもらえると少しだけ自信が持てる。


 だが、あの老人たちは僕が男だと分かった上で泊めてくれるのだ。


 おまけに、僕の事を通報しないでもいてくれる。


 むしろ、恩義を感じなきゃいけないのは僕の方。


「き、気にしないで。そ、それじゃあ、また明日」


「うん、また明日!」


 こうして、僕は逃げるように、先程の老人たちのところへと戻って行った。

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