1-4:戦士と魔道士の大会
(誤植を修正しました)
「エリンとの話は終わったのか?」
僕が戻るなり老人たちの一人が聞いてきた。
「ええ、特に作戦とかがあるわけではないので、手短に」
「そうか」
明日の大会には出る。
それはいい。
それより、興味本位程度に聞きたいのは、
「ところで、貴方達がエリンに大会に出るように促したのですか?」
──しばしの沈黙。
そして、老人たちの一人が答えた。
「そうかもしれんな」
何か意味ありげな回答。
老人たちの意地でエリンを大会で優勝させる気なのか?
それとも、
「ワシらがエリンに槍を教えたせいだ」
「と、いいますと?」
「言葉のままだ。ワシらはエリンに槍を教えた。エリンは覚えた槍の実力を試したくなった。それだけだ」
そういう事か。
習った事を試してみたくなる気持ちは分かる。
だが、エリンはこうも言っていた。
師匠たちの無念を晴らす、と。
「最初は楽しかった。いや、今も弟子の成長に年甲斐もなく正直わくわくしてしまっている。だが、エリンが大会に出たがっていると知った時に気付いてしまった。ワシらは、ただ自分たちの無念をあの娘に背負わせてしまったのだと」
「それは、槍使いとしての無念、ですか?」
「そうだ。剣ばかりが持てはやされる今の時代で、エリンが槍を認めてくれたのが嬉しくてな。つい、甘えてしまったのだ」
つまり、槍使いの老人たちは、エリンを自分たちの無念を晴らすための道具にしたわけではない。
しかし、結果としてエリンは無念を晴らすための道具になってしまった。
老人たちに悪意があったわけではなさそうだ。
僕にエリンと一緒に大会に出てほしいと頼んだのも、本当に弟子を思っての事のようだ。
まあ、仮に思惑があったところで断るつもりはなかったけど。
これはあくまで同情ではなく取引。
取引に私情を挟むのは良くない。
僕は、そう思うからだ。
本当に興味本位で知りたかった。
事情は多少異なるが、妹の事を思い出したからだ。
だが、私情を挟むのであれば、老人たちが無念を晴らすためにエリンをそそのかしていた方が救いがある気がした。
エリンはやはり誰かに言われたからではなく本心で優勝……いや、槍の力を認めさせたいのだろう。
だから、説得して大会に出場させるのを諦めさせるのは無理だし、実際に大会に出場して現実を思い知るまで止められない。
「これは、エリンに対するワシらの責任の取り方なのだ。あの娘を焚きつけてしまった事へのな」
「改めてお願いする。大会の出場条件を満たすために一緒に出てやってくれ」
「本当に何もしなくていい。あくまで、エリンの願いを叶え、身の程を自覚させるのが目的だからな」
老人たちに改めてお願いされてしまった。
「心配なさらずとも、明日の大会には出場します。その代わり、泊める約束は守ってください」
「おお、そうか。改めてよろしく頼むぞ」
「ガハハ、ここまでの旅は疲れただろう。前金代わりに今夜は旨いものを食べさせてやる」
「よかったよかった。まあ、元より黒魔道士のお前さんには、大会に出る以外に何もできないのだがな」
──一言余計だ。
確かに人前で、それも大会なんて人が集まるところで黒魔法を使うのは自己紹介をするようなものだ。
黒魔法ならば使うわけにはいかないな。
だが、今回は何もしなくていいと言われている。
だったら、大会に出る以外は何もする事もないか。
ともかく、エリンと大会に関する疑問はとりあえず晴れた。
もののついでに、もう一つ聞いてみよう。
実はこっちの方が重要な気もするし。
「しかし何故、突然現れた黒魔道士の私を信用するのですか?」
「エリンに対して殺気なく普通に接していたからだ。それ以上の理由はない」
「国が黒魔法を禁止した事なんてワシらには関係ないからな。変に疑う理由もないだけだ」
野暮な質問だったかな?
確かに、言われてみれば逆に疑う理由がないのか。
それに、この老人たちには国が決めたルールなんて関係ないと。
黒魔法が何故禁止されたのかも知っているし、これからの目的にも深く関わってくるから思うところはあるけれど、今はいいか。
「それよりも、ここまでの旅の間に腹も減っただろう? まずは飯にするぞ」
そういえば、食べていないし、お腹も減っているな。
先の事を考えなければいけないけれど、お言葉に甘えて、まずは食事にするか。
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