1-3:森の亡霊たち
(誤植を修正しました)
誰かの声が聞こえた。
大会に出て欲しいと。
男の声。
少なくとも、さっきの女のものでは無いと確実に分かる。
「誰?」
とりあえず、僕は驚いたふりをして周りを見回す。
すると、声の主は森の中から出てきた。
年老いた戦士の男たち。
一人ではない。
確認できるだけで三人いる。
もしかしたら他にも隠れているかもしれない。
「驚かせたかな?」
男の一人がそう聞いてきた。
男たちは警戒を解いている。というか最初から警戒などしていない様子。
むしろ、突然出て来た事を申し訳なく感じているように見える。
先程の女と同様、どうやら敵意は無さそうだ。
「ええ、少し驚きました。けれど、大会に出てほしいというのは?」
とりあえず、話を続けてみるか。
「さっき、お前さんが会ったあの娘、アレはワシらの弟子エリン。だから、師匠としてお願いしているわけで……すまんな、話は全部聞いていた」
老戦士の男の一人がそう答えた。
ああ、そういう事か。
弟子思いのいい師匠たちだな。
だが、彼女の師匠たちに頼まれたとこで僕には出る理由が、
「駄目かな、黒魔道士殿」
バレている!!
僕はとっさに身を構えた。
だが、老戦士たちは顔色一つ変えずにこう言い放つ。
「遅いな。身構えると同時に魔法を放つべきだ」
いきなり説教されてしまった。
「まあ、落ち着け若いの。通報するつもりなら、もっと前にしている」
「何か訳有りなのだろう? 見逃してやる。ただし、弟子のエリンに手を出した場合、話は別だがな」
どうやら、僕が黒魔道士だと知った上で敵対するつもりはなさそうだ。
相手の本心は分からない。
けれど、個人的に優しいおじいさんの言う事は信じたい。
だから、警戒を解いた。
「分かるのですか?」
「ワシらは先の内戦前から黒魔道士を見た事もあるし、実際に対峙した事もあるからな。感覚で分かる」
「鈍感な奴やワシらより若い世代は分からんだろうがな」
そういうものなのか。
今後、老人相手には特に気を付けないと。
「本当に、通報しないのですか?」
「ワシらを追いやった連中に通報してやる義理はない!」
よく分からないが、通報されないのならよかった。
「それで、先程の話だが」
「大会に出ろ。出ないと、って事ですか?」
「別に出ないと通報するだなんてケチ臭いことはせんよ。ただ、お前さん、行く場所も今夜泊る場所も無いのだろう?」
目的達成のために行かなければならない場所はある。
しかし、今夜泊る場所が無いのは事実。
「しばらく泊めてやるから、宿泊料代わりに出てやってはくれないか?」
そうだな、まずは今日の寝床が得られるのはありがたい。
「無論、飯も三食付けてやる。悪い話ではないだろ?」
「そういう事でしたら」
決まりだな。
「おお、引き受けてくれるか」
「たった今、出場する理由ができましたので」
とりあえずの生活は何とかなりそうだ。
「エリンの師匠として礼を言おう。ええっと、名前は何だったかな?」
「クロエと呼んでください」
勿論、これは偽名だ。
いや、偽名というか魔法学校に入学してからはずっとこの名前。
もはや女装時の本名だな。
「そうか、ありがとうなクロエ。では、まずはエリンと二人で話し合ってくれ。ここから少し奥に行ったところにある湖のところにいるはずだ」
急だな。
でもまあ、まずはそれが一番か。
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