1-2:森の女戦士
(誤植を修正しました)
「こんなところに人? あー驚いた」
森の茂みから出てきた人影はそう言い放った。
驚いたのは僕の方だ。
いや、むしろこの場にいるべきではないのは僕の方。
驚かせてしまった僕が悪いのか。
だが、この様子だと追っ手ではなさそうだ。
茂みから出てきたのは女。
年齢は僕と同じくらいか少し上かもしれない。
だが目立つ点が一つある。
それは戦士の格好をしているという事。
女の戦士は珍しい。
というか初めて見た。
男が魔道士になる事、すなわち黒魔道士になる事と違い、女が戦士になる事は禁じられてはいない。
単純に、戦士になりたいという女がいないだけだ。
だが、目の前に現れた彼女は違うようだ。
腹筋が割れているのが見える。
胸は鎧に隠れていて正直よく分からない。
しかし、どういうわけか腹が露出していて、そこからバキバキに割れた腹筋が見えるのだ。
見せつけているのだろうか?
以前、そうやって自慢の腹筋を見せつけている男の戦士を見た事がある。
とにかく鍛えている事が分かり、単なる格好だけではないと察した。
「もしかして、魔法学校の生徒?」
分かるのか?
いや、もしかしてバレているのか?
僕は恐る恐る、しかし慎重におどおどした様子を見せる事にした。
「えっ……? あの……その……」
さて、どう出るか?
返答次第ではこの場で……
だが、僕の心配とは反対に彼女は普通に答える。
「魔法学校の制服を着ているからそう思ったんだけど、違った?」
そうだった。
逃げるのに夢中で着替えるのを忘れていた。
というか、今から着替えようかというタイミング。
そこにこの女が現れたのだ。
しかし、魔法学校の制服が普通に分かるということは、すなわち僕の正体がバレるのも時間の問題。
彼女に限定した話ではない。この村の人間に、だ。
そして、彼女もまたこの村の人間の一人だろう。
戦士の村ならば魔道士バレしないと考えた僕が浅はかだった。
考えを改めなければ。
とりあえず、今は魔道士だと正直に答えた方が良さそうだ。
幸い女装もまだ解いてはいない。
このまま女のフリで答えれば大丈夫なはず。
「は、はい。つい先日卒業したばかりです」
嘘は言っていない。
卒業したというか、卒業の儀式を受ける事にはは成功した。
危険は高かったし今も逃亡の身ではあるが、これでようやく魔道士としての力を発揮する事ができる。
卒業の儀式を受けて覚醒した自身の実力を色々と試したいところではあるが、今は目の前の不安を取り除かなければ。
「卒業してるの!? だったら、私と一緒に大会に出てくれない?」
「大会?」
「そう、大会。出場条件が戦士と魔道士の二人組じゃないと駄目で困っていたんだ」
つまり、大会の出場相手を探していると。
目の前の女はどう見ても戦士。
だから、相方となる魔道士を探しているのだろう。
確かに丁度、魔法を試してみたくはあった。
特に対人であれば、次の目的を達成するための準備にもなる。
しかし、黒魔法を使うわけにはいかない。
追っ手が来るとか関係なく、黒魔道士は抹殺の対象。
だから、大会に出るわけには……
「お願いお願い! 何もしなくて見ているだけでいいからッ!」
「えっ?」
「腕試しがしたいの! でも、私と組んでくれる魔道士が誰もいなくて困っているの」
つまり、彼女と組む他の女がいないから、数合わせで僕が欲しいと。
まあ、女で戦士をやる奴なんて変わり者だ。
嫌われ者というより、変人には近づきたくないという感じなのかもしれないな。
初対面の僕にいきなり頼むくらいには困っているみたいだし。
でも、
「ご、ごめんなさい……」
断った。
何故ならメリットが何もないからだ。
しかも、悪目立ちして追っ手に感づかれる危険もある。
「ううん、こっちこそごめん。初対面なのにいきなりこんな事頼まれても困るよね」
「いえ」
「それじゃあ。私、師匠たちのところに行かなきゃ」
女は、すんなりと去って行った。
森の奥に女が去っていくのを確認し、僕は安堵する。
何故、こんなところにいるのかと聞かれなくてよかった。
しかし、去り際に師匠たちと言ったのが気になる。
この森には、他にも人間がいるという事だ。
気を付けなければ。
そして、更に身を隠せそうな場所を探さなければ。
そう考えた矢先の事だ。
森の中から声が聞こえてきた。
「エリンと一緒に大会に出てやってくれないか?」
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