1-14:エリンを説得
エリンに人質を断られてしまった。
さて、どうやって逃げよう?
やはり村を焼き払って時間を稼ぐしか無いのか?
そう思考を巡らせている僕に、エリンが続けて怒り口調でこう答える。
「あいつの火傷を治してからじゃないと私、行かないからッ!」
そう言って、エリンは先程火だるまになった男を指差した。
成る程、やはり優しいなエリンは。
しかし、
「黒魔道士の僕にどうやって治せと?」
「さっき私の傷を治したみたいにして!」
「悪いな。さっきのは、相手の体力を吸い取る黒魔法だ。だから、残念ながらもう一度は無理だな」
アレをやるには誰かの体力を吸い取らなければならない。
さっきは、試合とはいえエリンを散々傷付けてきたケーンとかいう奴に報いを受けてもらった。
だが、今はそういう相手がいないし、村人の中から適当に人選したところでエリンは納得しないだろう。
だから、本当にエリンの要求には応えられない。
しかし、エリンはこう答えた。
「だったら。私の体力を吸い取って治癒しろ!」
優しいエリンらしい回答だが無茶苦茶だ。
今お前に倒れられたら人質にできないじゃないか。
どうしたものかと思ったが、僕とエリンが話している隙に背後で動いている奴がいる。
恐らくは奇襲攻撃でも仕掛けようとしているのであろう。
だが、慣れていないのか気配でバレバレである。
だから、
「わかった。希望通りにしてやる!」
僕は、背後で動く存在に体力吸収を魔法を放った。
「ぎゃーーッ!」
背後にいたと思われる男の悲鳴が聞こえた。
魔法が当たったようだ。
そして、僕はそいつから吸収した体力を先程火だるまになった男に分け与える。
当然ながら、男の火傷は見る見る内に治っていった。
エリンの方を見ると、彼女は覚悟を決めた感じで目を瞑っている。
「あ、あれ?」
「治癒に必要な体力なら、不意打ちしようとしてきた馬鹿から吸い取った」
「えっ!?」
体力を吸い取られて倒れている男の方に僕が振り向き、エリンもその存在に気付く。
「エリンの優しさと勇気に免じて、不意打ちしようとした事は、これで許してやる」
僕のその言葉にエリンも村人たちも黙った。
正面から戦っても勝てない相手で、不意打ちで仕留めるのも無理。
仮に村人全員が一斉に襲い掛かってきたとしても、全員を一度に黒魔法で殺せるし、それだけの力も既に見せた。
それが大人しく逃げるのだから、今度こそこのまま逃がしてほしいものだ。
村を壊滅させたくはないし、このまま黙って逃がしてほしい。
「エリン、今度こそ人質になってくれるな?」
「……わかった」
「言っておくけど、今攻撃しても僕の反撃がまた村の方に当たるかもしれないからな。とりあえずは森の奥までいくぞ」
「大丈夫だって。ごめん皆、道開けて」
森の奥へ向かう方向にいる村人たちがはけて道ができる。
僕とエリンはその道を歩き始めた。
襲ってくる者がいないかと警戒しながらであったが、村人たちはただこちらを見るだけで何もしてこない。
こうして、僕はエリンを人質にして、無事森の奥に下がる事ができた。




