たると
三題噺もどき―さんびゃくななじゅうさん。
※「タルト→https://ncode.syosetu.com/n3505hv/」の逆視点※
※GL注意※
外を見やると、突然訪れた冬の寒さに、身を震わせている人々が歩いている。
少し前の昼間のこの時間は、まだ暖かかったはずだったと言うのに、一昨日あたりから北風が吹く様になってきた。
おかげで出し渋っていた冬物のコートを引っ張り出したり、冬服を探したりと、少してんやわんやだった。
「……」
今は室内にいつから、寒さはない。
暖かな雰囲気に包まれた店内。
お気に入りのタルト専門店のカフェで食事を摂っている。
「……」
少し低めの椅子とテーブル。
その上には、2人分のタルトと、2人分の飲料。
二台のスマートフォンと、背もたれにはそれぞれ冬物のコートがかけられている。
お揃いのコートだ。
「……ん?どうしたの?」
「いや、何でもない……」
―食べようか。
そう続けたのは、目の前に座る幼馴染。
外へやっていた視線を戻すと、ぱちりと視線が合ったのだ。
咄嗟に外されてしまったけれど、きっと横顔を眺められていたのだろう、
そういうのを隠すのがへたくそなのだ、昔から。
よく見ると、短く切りそろえられた毛先に隠れた耳が、赤く染まっている。
「ストロベリーにしたの?」
「ん?うん、そうだよ」
そんな彼女が、途轍もなくかわいいなぁ…なんて思えてしまうのだから、我ながら意地が悪いと言うか、良い性格してしまっていると言うか。まぁ、この性格は彼女のせいでもあったりしてしまうけど。それは言うべきではあるまい。
目の前で真っ赤なソースがかかったタルトを器用に崩していく。
フォークについたソースだけを、軽く舐める。
その姿を見るだけで、じわじわと、何かが胸中に溢れてくる。
「おいしい?」
「……知ってるでしょ」
「んふふ、そーだけどさ」
ストロベリーはいつも私が注文しているからだ。
それを今日は避けたのは、新作を食べたいと言う気持ちもあったが。
8割ほどはそろそろ、彼女が食べてくれやしないかなぁと思いいたり、食べてるところ見たいなぁと思ったからである。
「……」
可愛い、愛しい、この子に。
私の好きなものを食べて欲しかった。
「……」
口に静かに運んでいくその姿は、とてもとても愛しく思える。
心なしか、いつもより嬉しそうに見えるのは、気のせいではないだろう。
周囲からはよく、表情や感情の表現が乏しいと言われているみたいだけど。
昔から共にいた私から言うと、あなたたちが見ていないだけだと、言わざるを得ない。
―まぁ、この子を私以上に見ることも知ることもしてほしくないし、されると、何をするか分からない。
「食べないの?」
「ん?食べるよ、写真撮ってからね」
未だ口をつけない私に気づき、声を上げる。
彼女は三分の一程食べていた。いつもより早い。
元より甘いものは決して得意ではないはずだが、私がここのタルトが好きだと言うと、ここなら食べられるから行こうと、よく2人で来るようになった。
いつもは唯一食べられるチョコレート系のタルトを頼んでいるのだが。
その彼女が、ストロベリーを食べている。
「……」
私の。
好物の。
甘い。
ストロベリー。
「……」
――可愛い以外の何がある?
「…気にしないで食べて」
「ん……」
一口、温かいコーヒーを飲み、もう一度タルトに手を付ける。
すかさず、私は自分のスマホを手に取り、SNSに上げる用の写真と撮る。
もちろん、彼女が入り込まないように、細心の注意を払いつつ。
「……」
そして、もう一枚。
おいしそうにタルトを食べる。
彼女の姿を。
一枚。
「……」
ここに来るたび、毎回撮っているのだけど。
彼女は気づいたことはない。
もしかしたら、気づいたうえで、何も言わないのかもしれない。
別に撮られてもいいかと思うくらいの関係ではあるのだけど。
―その調子で私のこの重いにも気づいてくれればいいんだけど。
「……」
彼女と私は、幼稚園に通っていた頃からの幼馴染である。
家も近く、親同士の関係も極めて良好。家族ぐるみで出かけることがあるほどだ。
その上、小学校、中学校、高校と、ずっと一緒にあった。
一度離れたこともあったが、それでも私と彼女は、千切れぬ縁を固く結んでいた。
「……」
もちろん、同じ大学に通った。
彼女は確か、志望する進路は違ったはずなのだけど、私と共に在ることを優先してくれたらしい。
なんとも、けなげで可愛らしい。
その上、あんな風に焦燥に駆られてしまうような姿を見せてくれたのだから、なおのこと愛しい。
「……」
大学が、同じではあったのだが、専攻が少々異なった。
そのせいで、人間関係の大きな改修が行われた……と彼女は思ったらしい。
私は、彼女が、私を見て居ればそれでいいので、それ自体は特に抵抗がなかった。
―が、それが彼女にとってはかなり堪えたらしい。
「……」
幼い頃。気づけば生まれ堕ちていたこの感情を大切にしてきた私と違い。
彼女は、生まれたそれをよしとはせず。
そのまま生み落ちたものをくれればいいのに。彼女が奥底に仕舞い込んだらしい。
焦燥にかられるままに、吐き出してくれればよかったのに。
―彼女が、私の唯一であることは、変わらないのに。
「……」
大切そうに、タルトを崩して行く彼女。
私は、自分のタルトにようやく手を付ける。
今日はブルーベリーのタルトである。新作らしい。
一口、口に運ぶと、少し癖があるような独特な味がした。クリームチーズかな。
「それ、おいし?」
おや、今日は早い。
毎回同じものを食べていても、いつもこうやって聞いてくる。
その度に。
こうして。
「――食べる?」
一口、彼女の口に運んでいく。
その度に私は嬉しくなる。
まっくろな。
どろりとした。
私の思いを。
彼女の口へと。
運ぶようで。
お題:焦燥・タルト・堕ちる