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ダンジョン亡国顛末記

作者: 朝比奈

散髪屋でおっちゃんたちが新聞紙広げて適当にダベッてる政治談義みたいな感じのを書いてたつもりだったのに、文章にしたらけっこう挑発的な感じになりますね。

このくらいの内容の雑談は一般人もけっこうやるだろうと思ってたんですけど、政治批判の怪文書みたいになっちゃった。すんません。


 地球に突然ダンジョンが出現し始めた。

 ダンジョンとはつまり、迷路状の洞窟がうねうねと地中に伸びる中にモンスターが徘徊し、入り組んだ古代遺跡の奥深くに謎のアーティファクトとかが隠されていたりする、ラノベとかでおなじみのアレである。


 不思議なことに、それと同時に人類はステータスやスキルやアビリティー、タレントやジョブの有無とレベルを数値的に知覚できる能力と「魔法」の力を獲得した。

 人類は地下迷宮に潜ってモンスターを倒してレベルアップしたり、宝物などの財物を手にいれる自由と能力を手に入れたのだ!


 そこで政府は当然のように「魔法等規制法」を制定。人類の新しい能力と権利を規制した。

 規制、規制、規制規制規制。とにかく全部規制。

 少子化抑制スキルも経済発展魔法も国家繁栄アーティファクトも「規制対象だから規制する」という杓子定規な理屈で全部規制。その一方で、なぜか大企業が魔法を利用しやすくなるように数ヶ月毎に法改正。


「何でそんなに規制ばっかすんだ」

「規制は手段のはずだが、手段が目的化してないか」

「法人を保護しなければならない時代があるのは理解できるが、その時代が終わっても慣習的に法人ばかり保護するのは思考放棄ではないのか。現代はむしろ法人の魔法使用権を規制し、自然人を優遇すべきでは」


 澎湃(ほうはい)()き起こる国民の声。それをものともせず「私は国民の声を聞く能力がある」とか言っちゃう国務大臣。「あの大臣さんの面の皮の厚みは迷宮膃肭臍(ダンジョンシール)の金玉の皮より厚い」と発言した芸能人は不適切発言であっという間にテレビから消えた。


 そんな中、ビキニ鎧でダンジョンを探索する女冒険者たちが出現する。

 当然だがそんな衣装ではダンジョン深層には潜れない。だが彼女たちはダンジョン表層部とダンジョン周辺の探索や奉仕作業、そし撮影会にターゲットを絞ったのだ。

 全国で開かれるビキニ冒険者撮影会。客は選ぶけど当然大人気。「ビキニ鎧冒険者」は女性の職業として定着し始めた。別にいいけど、これ業種的にはなんなんだろう。サービス業かな?


 海外では「また日本人がなんか変なこと始めた」と囁かれ、エロサイトの検索件数は「BikiniYoroi」「shokushu」「HENTAI」が一位から三位を独占し、アホな親が我が子にビキニ鎧を着せてSNSにアップし始める頃、なんかよく分らない市民団体が猛烈なビキニ鎧反対運動を展開し始めた。

 そして弱腰の地方自治体が、ビキニ鎧冒険者のダンジョン使用許可を取り消す事件が頻発。そのためビキニ鎧冒険者たちは簡単に職を奪われてしまった。


 職を奪われても誰も補償してくれない。

 ダンジョン管理団体は訴訟を面倒くさがって市民団体に反論しない。

 そして職を奪われた弱い立場の人間を見かけると、程度の低い一般市民は嘲笑(あざわら)いながら批判してくる。

「エロで稼いでるくせに恥ずかしいと思わない社会生活不適合者」

「行政の決定に逆らう奴はサヨク」

「どうせ好き放題な生活してる自営業者なんだから、この機会に庶民と同じレベルで規制されろ」

 無知な素人ほど他人を批判するが、無知な素人の批判は単なる悪口である。

 怒りに燃えるビキニ鎧たちだったが、ビキニ鎧が叩かれることで「法整備の筋道ができた」と見て取った政府は、なぜか「女性の人権のため」に「ビキニ鎧庁」を設置し、「女性まんなか」という大衆迎合主義の絞り汁の腐ったやつみたいな標語をぶち上げたのである。

 おお、「女性まんなか」。

 なんかエロいですね「女性まんなか」。

 しかし現実の被害者に対する補償や補助は申請しても絶対に下りない。生活保護と同じ。

 ビキニ鎧庁のやることといえば、特定団体への利益誘導と規制ばかり。他には女性の人権を守るための予算がないとか言って既存の制度を潰して予算をぶんどったり、新たな税制を提言したり、あと海外研修に女性議員を数十人送り込んで観光地で写真撮らせたりするだけ。


 正直「女性まんなか」とか言われても成人向け映画のキャプションにしか見えないので創作意欲をくすぐられたエロ漫画雑誌とビキニ鎧専門誌が嬉々としてネタにしたは良いものの、東京都から明らかに見せしめ的な有害指定を受け、警察に叩きまくられてあえなく休刊。

 行政のアホ標語を茶化したくらいで官憲の怒りを買って雑誌が潰れるなど貴族的な圧政そのものなのだが、形だけ民主主義を標榜し、看板だけ四民平等を歌っていれば、それが嘘でもみんな納得しちゃう国では、官憲の横暴も他国からの攻撃も、国民は見て見ぬ振りでぜんぜん改善しない、恐怖のゼンゼンマンなのだった。

 ちなみにAV業界は東京都と警察の手口に慣れてるので、すぐにはネタにせず様子を見ており火の粉を被らずにすみました。良かったですね。


 いつも通りC国政府は「日本には他国を侵略してきた歴史があり、日本のダンジョンは世界の平和にとって極めて有害」とか意味不明なことを言い出すが、日本政府は「極めて遺憾であり承服できない」みたいな定型文しか言わないのだ。今時AIでももう少し気の利いたことを言うぞ!

 そもそも「お前が言うな! 鏡でも見ながら言え!」くらいのことは言ってもバチは当たるまいし、考えてみれば外国政府からの情報宣伝による攻撃に対して反撃も防御もできない政府が、仮に武力攻撃を受けた際に国を守れるかと言ったら、そんなわけないのだ。


 選挙前になると思い出したかのように若手議員達が集まって「ダンジョン関連産業の規制緩和」などの提言とやらをやり始め、古参議員はなぜか個別に税制改革や領土問題などに言及し始めるが、なぜ若手議員は集団で提言し、ベテラン議員は個人で非公式の場で問題に言及するのか、そしてなぜ提言されたことが一切実行されないのかには誰も言及しない。

 そもそも素人がインターネットで毎日提言していることよりレベルの低い内容を政治家が提言して、政治家として恥ずかしくなかったのか。

 これらは現在でも大きな謎とされている。


 しかし彼らは防衛予算増額を理由に増税にだけは積極的だった。

 震え上がる国民、

 とにかく政府のやることは擁護する国民、

 主張の異なる国民をひたすら嘲笑(ちょうしょう)し、揶揄(やゆ)し、攻撃する国民、

 様々な国民達の意図が交錯する人間交差点。

 だが「魔法等規制法」などという悪法にも素直に従っちゃう国民達は、なぜか「自分たちの能力を、行政が規制しようとするのはおかしいのでは? この法律は廃止させるべきでは?」とはあんまり思わなかった。

 すでに制定された法律に対しては、どんなにおかしくても「間違っている」と思えなくなる呪いでもかかっているのか知らないが、この国の国民は悪法を廃止させようとしない。我慢し続ける。

 そんな騒ぎの中、今度は外国人による土地の買収が問題化。気がつけば日本全国で400万ヘクタールのダンジョンが中国企業名義になっていた。

 しかし行政は指をくわえてぼけーっとしながら見てるだけ。ぜんぜん防衛しないゼンゼンマン。


 そして税制改悪。

 新たにダンジョン税、ダンジョン資源税、ダンジョン作業従事者税、ダンジョン等保護に関する特別税、ダンジョン環境内著作物付加価値税などが創設され、しかも固定資産税とか既存の税と三重課税四重課税の嵐。

 その影響でダンジョン利用料金は跳ね上がり、冒険者の依頼達成料金とアイテム買取料金に合計16種類の税金が賦課(ふか)されて冒険者の利益は激減。減益を補うために値上がりしたダンジョン資源は市場に悪影響をもたらし、更に庶民の生活に大打撃を与える。


 しかも、その折も折、「休業・引退冒険者の生活保護のため」だったはずのダンジョン作業従事者税の87%が実は生活保護のために使われておらず、合計20兆円が使途不明のまま消えていることが判明したのである。

 様々な議論が交わされる中、マスコミは完全にダンマリを決め込んで一切それを報道せず、行政側はその点を無視してとぼけ続け、逆に「日本経済は上向いている」「日本国民からはまだ税金を取れる余地がある」などと言い出す始末。


 乱立していた冒険者ギルド、魔物産業ギルド、迷宮武具工具企業組合の多くは、なぜか行政の言いなりで冒険者や従業員の権利や自由を全然守らない。本当に全然守らない。そして日本国内のダンジョン所有者と零細企業はついに全滅。国内のダンジョンは政商と外国資本に食い荒らされ、日本は滅亡したという。

 完。



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