6 雪解けとの出会い
烈からペアの提案があった夜、静香の帰宅後に彼からLineが届いた。
「あいつにLineとか教えたっけ」
スケートのグループから勝手に個チャを送って来たようだ。
「こう言う無神経な所も、大嫌い」
静香は呟き、内容を確認しながら自分のベッドに座る。
コーチからの返事が書いてあるようで、一応既読にしようと画面を開く。
『自主練の時なら構わない』
『静香とのペアなら練習を沢山取り入れても良い』
『本格的な試合は、俺と静香には来シーズンを考えている』
静香は有頂天になった。
来シーズンとは言え、西日本に参加できる。
西日本で上位に入れば、ジュニア選手権に出場できるからだ。
もし西日本選手権に参加できるなら得点の取りこぼしを無くすのは勿論、加点も欲しい。
相変わらず静香は週末のクラスレッスンにも通っている。
最近はずっと自主練前の為の、アップ程度の気持であった。
今後は先日偶然耳にした「長所を伸ばせ」の為だ。
基礎の基礎を再度、自らに叩き込ために行くことに決めた。
来季なら更にスケートの技術が、上がっていることが期待できる。
静香自身も下らないと分かっている、食への興味も減っているかもしれない。
目下の大きな問題は、烈のみとなりそうだ。
嫉妬は自分が越えられる相手に対してだけだと聞いた。
本当なのだろうか。
間違いないなら烈への嫉妬は消すのが懸命だ。
分かっていても、才能に嫉妬してしまう。羨ましいと思ってしまう。
いっそ、無関心になれればいいのに。
静香はそう思っても、烈は同じように思っている様子無い。
彼からの追加のメッセージがどんどんポップアップに表示されていく。
「お前、ブロックしてやろうか」
せめてポップアップ表示を不可にしようと、設定画面を開くと更に届く。
『俺、好きなの沢山あるけど仮面の男が一番好き』
『ソロのだけど』
「あ」
未読にしておこうと思っていたが、仮面の男と聞いてうっかり開いてしまった。
地味に送られていた短文は、一切読まずに返信する。
『私も、あの仮面の男なら好き』
『たぶん、一緒のやつ』
『首にロープがかかって決闘する辺りからスゲー好き』
『私は最後かな。仮面を剥ぐシーン』
『彼のスパイラルはいつも格好良いし、あとスピンも本当に綺麗』
『分かる仮面取るところ最高だよな』
『俺、あれやりたいもん!!』
静香はクスリとした。
思っていたより、烈と話すのは楽しいのかもしれない。
『ついでに好きな男のタイプ教えて』
その文面を見た時に、一瞬にして嫌悪感が戻って来た。
「やっぱ、こいつ嫌い」
静香は独り言ちて、スマホをベッドに投げる。
自分でも気付かない程度に、気持ちはほぐれていた。
この日以来、烈から届くようになったLine。
次のレッスンまでの6日間で、静香が思っていた以上に多くのやり取りをした。
コーチにはどの位の時間ペアを見てもらえるのか。
お互いソロだったら、ペアだったら、どんな曲がやってみたいのか。
何の技が好きで、どんな動きが苦手なのか。
スケート以外の話題に静香がスルーするの事に、烈は気付いたらしい。
プライベートな話は無くなり、スケートに関する話のみ。
静香は純粋に、楽しんだ。スケートが好きだった事を思い出したかのように。




