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4 雪解けへの出会い

 週に一度コーチから指導を受けると言っても、1対1のほうが少ない。

 静香と同じ時間帯でレッスンを受ける生徒の中に、(つよし)も参加する様になり2カ月近く立つ。


 静香は苛立ちは募るばかりだった。

 ただでさえ芸術面や食の事で、気持ちが沈んでいたというのに。

 

 加えて、烈の存在だ。

 静香に足りないものを、彼は悠々と見せつけきた。

 おまけに烈はチャラい性格の持ち主で、余計に不快にさせた。

 

 出来る限り関わりを持たないようにするも、コーチが同じなのだ。

 嫌い抜くのも自分の精神衛生上、良くないと考えた静香は公平な目で見る努力をしていた。

 

「スケートに関しては平等でありたいもの」

 


「確かに踊りは素敵かな」

 今日は彼の通しの初練習だったから、改めて良い所を探そうと演技を見た。

 

 氷の中心に立ち演技前のポーズを取るだけで絵になり、物語の始まりを強く予感させる。

 一つ一つの動きは曲との繋がりを理解させた。

 静が動を引き立たせ、動が静にもっと沈黙を持たせる美しさもある。


 それでも、どうしても。

 小さな所や技術面で、ケチを付けたくなる。

 

 スピンの軸足が安定していないせいで、回転し始めた場所からのずれてしまう事。

 ジャンプだけでなく小さな足技の際の、体重の掛け方が甘い事。


 マイナスを見つける必要なんてないのに。

 彼が気に食わないせいで、どうしても評価を下げる箇所を探してしまう。


「みんなからも嫌われていたら、こんなに気持ちが沈まなかったのかも」

 レッスン終わり自主練に向かう中心に、いつも烈がいるようになった。

 

 ふと、そんな彼と静香は目が合う。

「静香! 」と、軽く手を上げ烈が彼女に近づいた。


 あんたにファーストネームで呼ばれる筋合いはないんだけど。

 心の中で毒づいた。


 静香は仕方なく、リンクサイドに留まり烈を待つ。


 烈は静香を見てぷっと軽く噴き出した。

「何よ」

「静香って本当に俺の事、嫌いだなって」


 失礼にもほどがある。

「わざわざそんなこと言いに来たんなら、私はもう行くから」

 そういって、出入口に向かおうとすると「ごめんて」と軽く烈は言い行く先を遮る。


「ね、ね。今からさ俺とペアで練習しよ」

 こいつ頭湧いてるのか。本気で思った。

 口に出さなかっただけで、褒めてもらいたい位だとすら。


「だって、お互い持って無いところ持ってるし。それは認めるでしょ」

 静香が固まっている事に気付かないのか、烈は話し続ける。


「それにコーチ言ってたじゃん。

 ソロとは違った技術がペアには必要で、ペアの技術はソロの糧にもなるって」

  どう思う?とでもいう様な烈の表情に、静香に苛立ちが戻って来た。


「静香ってさ、本当にわかりやすいね」

 烈は言いながら吹き出す。

「ねぇ、どうしてその激しい感情をスケートに出さないの?」


「え? 」

 静香から思わず疑問符が零れ落ちた。

「もしかして、静香自分で気付いてなかったの?

 めちゃくちゃ感情的だから、すげー情熱的な子なんだろうなって気がすんだけど」


「今日は自主練、出来ないし『じゃ、今度ね』」

 言いたい事を言い終えた様子の烈は「じゃコーチにペアの事伝えておくから」と言い残し勝手に去って行く。


「オッケーなんて、ひと言も言ってないけど」

 それに感情は隠しているつもりだったし、情熱的って?

 感情的だから情熱的だとは限らない。


「変なやつ」

 呟いた静香は、リンクを出るために出入口に向かう。


「それにお互いソロのなんだから、コーチが良いって言う訳じゃん」

 

 それに今日、烈は通し練習をしたのだ。

 静香は既に、振付は出来ている。

 つまり今シーズンはペアへの移行は無い。


 静香は荷物を持ち、車で待つ彼女の父の元へと向かう。


 助手席に乗り込むと、ラジオがかかっていた。

 ラジオを切ろうとした父。

 

「疲れたからちょっと寝るけど、ラジオはそのままで大丈夫だから」

 頭を窓に付け、目を閉じて寝ているフリをする。

 烈に言われた言葉を、改めて考えたかったのだ。


 静香が寝ると言ったからだろう、ラジオは付いたままだったがボリュームは調整されている。

 ラジオからは小さくなった彼女の父のお気に入り芸人の声が、聞くともなしに耳に入る。


 ブサメンとして有名な俳優がゲストのようだ。

「嫉妬なんてな、同じレベルの相手にするもんやねん。

 だから自分は短所を気にするより、自分の好きなところ伸ばせや。

 せっかくの不細工な顔なんやから」


「自分の不細工さは、俺から見たら長所なんや。

 でな、その不細工さが伸ばせへんってなったら次や。

 他人に指摘された良い所伸ばせや。

 短所なんて気にすんなや」


 酷い言われようだと気になってしまい、考えが反芻できない。

 気付けば静香は、芸人の声をBGMにし寝息を立てていた。

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