3 最悪との出会い
摂食障害に若干触れています。乗り越えていない方は絶対に避けるようにしてください。
「気分が悪いから」
もう二度と食べたくないと思った当日の静香は、自分の部屋に篭り夕飯に手を付けなかった。
静香の通う中学校のお昼は給食だ。
部屋に篭った翌日、給食の時間は保健室へと逃げ込んだ。
仕方なく自分の状況を掻い摘んで、保健の先生に伝えた。
「そう。分かったわ、いつでもいらっしゃい」
分かった。というのは、状況を理解出来たという事で「あなたの思う通りにしなさい」という事では無いことくらい、静香も理解している。
彼女は保健室のベッドに隠れるよう、給食の時間を過ごした。
両親にも話が届いているんだろうと思いながら、教室に戻り授業を受ける。
数日経つと「両親は、あまり私に興味が無いのかもしれない」と、思うようになった。
夕飯に手を付けないことに対し、必要以上に言われ無かったからだ。
ただ、静香お気に入りのプリンや飲み物は冷蔵庫に増えている気はした。
「食べ物から人は水分も取っているから」と、水分を取る様に進められカロリーオフのスポーツドリンクを渡されることもはあった。
コーチにも厳しく「食べろ」とは言われなかったが、リンクに立たせてはもらえなかった。
カウンセリングを進められた。
納得がいかない。
だから出来る限り、コーチのいない間にリンクに立ち陸上でのトレーニングは更に激しくした。
いつも以上に喉乾く。
始めは水だけだったものが、「ちょっとなら」とカロリーゼロのスポーツドリンクに切り替え、次はオフ、最終的にプレーンの物へとなっていった。
変化には「食べたくない」と、言う気持ちを持ってから3カ月程。
「食べたくない」という気持ちと「食べたくて仕方ない」という気持ちが同居したのだ。
家では夕飯だけでなく置いてあるお菓子も全て、口から飛び出てくるのではないかという程、詰め込んだ。
そして、トイレへと向かい指を口の中入れる。
全部吐き出せるわけではないから、やせ細った体は少しずつ「正常」へと近づいて行く。
お陰でコーチからは「リンクに少しずつ立っても良い」と言われるようになった。
彼女の手に、痣とも傷とも言えない模様を見つけていたというのに。
リンクに立てるようになった静香。
立てない日々よりもずっと、毎日は地獄となった。
リンクにいるときは、自分の演技に対しての不満。
レッスンが終わば、食べる事へに対しての執着がこびりついた。
執着から逃げるためにスケートの事を考え始めると、手応えも上達もない演技に目が行く。
そこから逃げるかのように他に目をやれば、食べる事だけ。
悪循環でしか無かった。
「どうして」「何故私が」
辛い思いをしながらトイレに駆け込み吐き続けた。
吐くことに対し、始めは罪悪感しかなかった。
だんだんと、惨めさに取って代わっていく。
「吐く事によって更に摂食障害は続くから」とカウンセラーに言われたからではない。
吐いている間に、涙の様なものと鼻水の様なものが必ず一緒に出てきたからだ。
泣いてもいないのに、涙や鼻水が出てきてしまう。
自分を客観的に見ている様で、悲しく悔しく思えてきたのだ。
静香にとり、どん底ともいえる時期に出会ったのが烈だった。
同じ地区に転校してきて、同じコーチに付くようになったと後に知った。
「東日本に、とにかくダンスが上手い子がいる」と聞いた事があった。
烈がリンクで動いている姿を見て、一目で彼の事だと理解した。
静香がシューズを履きリンクに入る直前に、稲妻が走る。
私が出来ていないと言われた事、苦手な事、持っていない物。
リンクに立つ、たった一人の男の子私の欲しい物全てを備えている。
静香は羨ましくは思うものの、「あいつ気に食わない」の一言で済ました。
嫉妬だと認めたく無かったからだ。