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65.早く会いたい。

「おはよー、亮子」


 真琴はいつも通りに登校し、クラスに先に来ていた友人の亮子に挨拶した。



「……」


 亮子が真琴を見て固まっている。



「亮子?」


 不思議に思った真琴が再度声をかける。目を何度もパチパチさせた亮子が尋ねる。



「真琴……、なの?」


 その目は信じられないような目。まるで他人を見るような目。驚いたような表情。真琴が顔に手をやって答える。



「なに言ってるの? 真琴だよ。どうしたの?」


 亮子が真琴の顔に近付いて言う。


「どうしたの、はこっちのセリフでしょ!? 真琴、あなたまるで別人じゃん……」


 そう言われた真琴が()()()ではない髪に手をやり、顔を少し赤くして答える。



「ちょっと髪型変えてみたんだ。変かな??」


 そう言って恥ずかしがる真琴に亮子が言う。



「全然っ!! めっちゃ可愛いよ。真琴じゃないみたい!!」


「ええ~、それってどういう意味?」


「こういう意味よ!」


 そう言って亮子は真琴の頭を両手で掴んで、教室の端の方でこちらをじっと見つめている男子達の方へと向けた。



(え?)


 真琴は男子生徒の多くがこちらを見ていることに気付く。そして目が合った瞬間、バツが悪そうに皆が違う方を向く。亮子が小声で言う。



「男子、みんな真琴を見てるよ」


「うそ? なんで!?」


 亮子が溜息をついて答える。



「どうしてって、そんな急に()()()なって、見ない方がおかしいよ!!」


「え、可愛くなった!?」


 真琴は席の横にある窓ガラスに自分の顔を映して見つめる。



(髪型が違うけど、いつもの顔じゃん?)


 首をかしげる真琴。

 クラスのでの居場所を見つけ、カエデと和解し、龍之介の告白を経て男装していたことを打ち明けた真琴。龍之介はそれを笑顔で許してくれ、そして毎朝『好き』を連発される。

 真琴自身全く気付いていなかったが嬉しさと心の余裕が顔に現れ、自然な笑顔、幸せのオーラを発していた。



(可愛くなった? どこが??)


 窓ガラスに顔を映し色々な表情をする真琴。どう見てもいつもと変わらない。

 元々素材は抜群の真琴。髪型を変え自信を得た彼女は、周りに安心を与える笑顔、人を引き寄せる魅力を持った女性へと変貌していた。




「おはよ、朝比奈」


 そんな真琴に、登校してきたイケメン男子の岸田が挨拶をした。

 クラスでも女子から大人気の岸田。ちょっとやんちゃなところがあり、それが母性本能をくすぐるのかとにかくモテる。浮いた話がないのが不思議なくらいのイケメンである。


「あ、岸田君。おはよ」


 そう答えて笑う真琴は、正に龍之介が名付けた『天使様』のようだった。

 挨拶をされた岸田が一瞬真琴に見惚れる。そして尋ねる。



「朝比奈だよな……?」


 真琴が首をかしげて答える。


「そうだよ。どうして?」


「あ、いや、ごめん。変なこと聞いちゃって」


 そう言って頭をぼりぼりと掻く岸田。その顔は明らかに照れている。岸田の友人がやって来て言う。



「よお、キシ。おはよ」


「おっす!」


 それに笑顔で答える岸田。



「何してんの?」


「いや、ちょっと話してただけだよ」


 友人が驚いた顔で言う。




「キシが自分から女子に話すなんて珍しいな。お前もしかして朝比奈のこと……」」


 そこまで言った友人が真琴を見て息を飲む。



「え、誰?」


 唖然とする友人。その友人の肩に腕をまわして岸田がその場を少し離れる。



「だろ? びっくりするだろ? あれ、朝比奈なんだぜ」


「あ、ああ。全然別人じゃん……」


 ふたりの男がこそこそと真琴の方を見ながら小声で話をする。



「あんなに可愛かったっけ、朝比奈って」


「マジそれ。少し前からいいなとは思ってたんだけど、最近は会う度にどきどきしちゃって」


 友人はそう話す岸田を見て驚く。ほとんど女性に興味がなかった彼が初めてであろう、女の子の事を興奮気味に話している。友人が言う。



「行っちゃう? どっか誘っちゃう?」


「行けるかな?」


「行けるっしょ、キシなら」


 岸田はにこっと笑って真琴の方へと歩み寄る。



「なあ、朝比奈」


 何やら悪巧みをしていそうなふたりを見ていた真琴が警戒しながら答える。



「なに?」


 岸田が言う。


「今日さ、学校終わったら一緒にカラオケとか行かない?」


(カラオケ……)


 元々陰キャで友達のいなかった真琴。無論そんな場所へは行ったことない。だがその言葉を聞き、亮子はもちろん、周りの女子達は驚きの目で見ていた。



 ――岸田君が女の子を誘ってる!?


 いつも男友達とふざけてばかりいる岸田。モテるのにあまり女の子に興味がなかった岸田。そんな彼が初めて誘ったのが変貌した真琴であった。

 だが次の真琴の言葉は更に皆を驚かせた。



「ごめんね、岸田君。私、あまりカラオケとか興味なくて」


(ええっ!?)


 あの岸田の誘いを断った。

 一瞬静寂に包まれる教室。岸田が苦笑いしながら言う。



「そっか、そりゃ残念。もしかして朝比奈は好きな人とかいるとか?」


 更なる追及の言葉。岸田にしては珍しい言葉。



(好きな人。うん、いる。いるよ)


 真琴が頷いて答える。



「いるよ、好きな人。すごく好きで早く帰ってその人に会いたいの」



(ええっ!?)


 いきなりの真琴の爆弾発言に亮子が驚く。岸田が引きつった顔で言う。



「そ、そっか。そりゃ悪かった。ごめんな、朝比奈」


「ううん、いいよ」


 笑顔の真琴。

 周りはイケメン岸田の誘いを断った真琴を信じられないような目で見つめた。撃墜され撤退する岸田を見ながら亮子が真琴に小声で尋ねる。



「ねえ、誰よ。その好きな人って?」


 真琴が恥ずかしそうに答える。


「前に話したことあるでしょ。告白された人」


 亮子が以前真琴から聞いた駅での告白の話を思い出す。



「えー、あれってストーカーじゃなかったの!?」


 真琴が笑って答える。


「違うよ。私の大事な人」


「あ、そうなんだ……」


 亮子が真琴を見つめる。

 あのイケメンの誘いを断ってまで会いたい人って一体どんな人なんだろう。亮子は嬉しそうな顔をする真琴をじっと見つめた。





(うん、確かに私、なんか見られているような気がする……)


 お昼、廊下を歩いていた真琴がいつもと違った周りからの視線に気づき体が強張る。男子生徒はもちろん、なぜか女子生徒からも強い視線が向けられている。



「おい、あんな可愛い子、D組にいたっけ?」

「しらねえ、転校生か?」


 小声で話しているのだが狭い廊下、その声もしっかりと真琴に届く。



(か、髪型変えただけなのに……)


 真琴が恥ずかしくて顔を赤くして下を向いて早足で歩く。そして校舎外れにある窓に来て外を見つめながら思う。



(はあ、龍之介さんに会いたいな……)


 ずっと一緒に暮らしてきた龍之介。

 男装がバレ、一緒に居ると恥ずかしいのに、こうして学校へやって来ると無性に会いたくなる。真琴の体がぶるっと震える。



(龍之介さん、早く会いたいです……)


 真琴は少し潤んだ目を手で拭き、午後の授業へと向かった。





「はい、ではこれで授業を終わります」


 教員の言葉で最後の授業が終わりを告げる。

 休み時間にトイレに行き、隠れて眺めたスマホに保存した龍之介との自撮り写真。彼に会えない時間はこうして養分を補給し生き長らえている。

 教科書を鞄に詰めた真琴が勢い良く立ち上がる。



「じゃあね、亮子。また明日!」


 そう言って立ち去ろうとする真琴に亮子が言う。


「あ、待って。私も一緒に帰るよ」


「いいけど、()()よ」



「え、走る!?」


 意外な言葉にぼうっとする亮子。



「そんじゃまた!」


 真琴は鞄を抱えその言葉通り廊下を走り、学校の門を出る。



(早く龍之介さんに会いたい! 早く帰りたい!!)


 そう念じた真琴の『龍之介センター』が突然働く。



「マコっ!!」



「え?」


 真琴が立ち止まり、呼ばれた方を見つめる。



「龍之介さん!?」


 学校の門の傍に龍之介を見つけ真琴が走り寄る。



「どうしたんですか??」


 龍之介が申し訳なさそうに答える。



「ごめん。マコに会いたくて。どうしても会いたくなっちゃって。授業サボって来た」


「もお……」


 真琴は少し怒った顔をしたがすぐに笑顔になって言う。



「仕方のない人ですね。じゃあ、一緒に帰りましょうか」


「うん、帰ろ」


 ふたりはそう言って仲良く並んで歩き出す。



「マコ」


「何ですか?」



「学校帰りのマコも可愛いな」


「あ、ありがとうございます……」


 真琴が真っ赤になって答える。



(龍之介さんは、どうして私が会いたがっていたのが分かったのかな……)


 真琴は横を笑顔で話しながら歩く龍之介の姿を見ながら、彼に会えた喜びを全身で感じていた。

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