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61.嬉しい真琴と落ち込む龍之介

(告白された。私、龍之介さんに本当に告白された……)


 走って逃げた真琴。

 トイレに入ってようやく落ち着きを取り戻し、その後しばらく経ってから震える足で学校への電車に乗り込んだ。



(告白……)


 かああああ……

 予想はしていた駅構内、たくさんの人達の面前での告白。それでも今思い出すだけで恥ずかしさのあまり顔から火が出そうになる。シートに座ったままの真琴が下を向いて思う。



(龍之介さん、本当に告白してくれた……)


 少し前までは根暗と言って苛められていた自分。

 そんな自分を龍之介が変えてくれた。学校でも私生活でも前を向いて歩けるようになった。自分のことが好きだと知った時は驚いたし、告白すると聞いたときも正直半信半疑だった。



(でも)


 真琴が顔を上げて思う。



 ――嬉しい


 ぽっと赤くなる頬。

 走って逃げてきたはずなのに、彼がいないと思うと会いたくなる。



(私も好き。本当は好き。……でも、恥ずかしいのよおおおお!!!!)


 できることなら男装など嘘はつかずに、真琴として腕を組んで歩きたい。デートしたい。桃香やユリ、カエデと言った強敵ライバルに目移りしないうちにしっかりと掴まえておきたい。でも、



(なんでこんなに恥ずかしいのよ!!!!)


 龍之介のことを考えれば考えるほど恥ずかしくなり、そして恋しくなる。

 矛盾。

 真琴は初めて経験する恋のいたずらにすっかり翻弄されてしまっていた。






「ふう……」


 教室に入った真琴は自分のイスに座ると大きなため息をついた。

 学校に来てからも分かる。体が喜んでおり頬が赤く染まっているのを。恥ずかしかったが、龍之介の真剣な告白を思い出すと自然と笑みがこぼれる。

 同じく登校して来た涼子が真琴を見て尋ねる。



「おはよ、真琴。何かいいことでもあったの?」


 真琴は今朝の告白劇が学校の誰かに見られていたのではないかと心配していたが、今のところそのような気配はない。真琴が聞き返す。



「え、なんで?」


「だってすごく嬉しそうだよ」


「そ、そう!?」


 真琴は喜びを隠しているつもりであったが、そんなに分かりやすく外に出てしまっているとは思ってもいなかった。涼子が席に座り小さな声で尋ねる。



「で、何よ? 何があったの??」


 その顔はまるで近所で噂話をする主婦のよう。きっと面白い話に違いない、涼子は確信していた。真琴は彼女になら話してもいいかなと思い小声で言う。



「今朝ね、告白されたの。駅で」



「え? 告白!!??」


 全く想像もしていなかった言葉に涼子が驚く。真琴が自分の唇に人差し指を立てて言う。



「しー、聞こえちゃうでしょ!」


「ごめんごめん。で、誰に告られたの??」


 興味津々の涼子。身を乗り出して尋ねる。



「ええっと、大学生の人……」


 涼子が驚いた顔をして尋ねる。


「大学生? 高校生じゃないの?」


「うん」


「知り合いなの?」



 知り合いというか同棲までしているとても良く知った人。だけどそれは言えない。


「ええっと、あんまり……」


 適当に言葉を濁す真琴に涼子が怪訝そうな顔で言う。



「それって大丈夫? 変なのに狙われてない? ストーカーとか」


 冷静に見れば男装して一緒に暮らそうと誘った自分の方が『変なの』であろう。真琴が答える。



「大丈夫だと思うよ。きっといい人」


「どうして分かるの?」


「何となく」


「ふーん……」


 笑顔になる真琴を見て涼子が尋ねる。



「それでどうするの?」


「何が?」


「何がって、受けるの? 告白」


 真琴が口を閉じ少し考えてから答える。



「うーん、どうしよう。年上は好きだし、いい人だし」


(知り合いなの? やっぱり)


 涼子は真琴の話を聞きながら、その言葉と態度に矛盾を感じる。



「どうしよう、困っちゃうな」


(全然困ってなさそうじゃん! って言うか嬉しそうだし!!)


 涼子は同じ陰キャでクラスカースト下位だった目の前の女の子が、とても可愛くそして輝いているように見える。そして彼女は()()()()()で真琴が輝き出すのをこの先目の当たりにすることになる。




(朝比奈……)


 そんな真琴と涼子のやり取りを教室の後ろでひとり座ったカエデが見つめていた。






「龍之介君、どうしたの?」


 夕方、喫茶店『カノン』でバイトをしていた龍之介に桃香が尋ねる。

 少し日の傾いた夕暮れの喫茶店。窓から斜めに差し込む橙色の夕日が、人のまばらな店内を優しくオレンジ色に染める。



「何でもないっす。大丈夫っす……」


 まるで徹夜明けのような疲れた顔。生気が感じられない顔を見て桃香が心配そうに尋ねる。



「大丈夫じゃないでしょ。やっぱり事故で頭打ってまだ本調子じゃないの?」


 意識を失ってから初めて会う桃香。一晩で回復したのを喜ぶ一方で、今の龍之介を見て否が応でも心配になる。



「何でもないっす。大丈夫っす」


 まるで壊れた機械のように同じ言葉を繰り返す龍之介。桃香がため息をついて言う。



「そう言えば真琴ちゃんにはお礼ちゃんと言ったの?」


「マコ?」


 桃香が頷いて言う。



「そうよ。あの子、龍之介君が眠っている間ずっとそばにいて看病してくれたんだよ」


「あっ」


 突然の事故。意識を失ってドタバタしていたが、そう言えば色々助けてくれた真琴にきちんとお礼を言っていないことに気付いた。



「ちゃんと、言ってなかったです……」


 龍之介が反省を込めて正直に言う。


「ダメじゃーん、龍之介君。真琴ちゃん、本当に色々やってくれたんだよ」


「そうっすね。帰ったらマコにお礼言っときます」


「うむ、よし」


 最後は桃香が腕を組んで頷いて言う。

 そしてすぐさま店の裏の控室に行き、スマホを取り出して真琴にメッセージを送る。



『龍之介君と何かあった?』


 まるで待っていたかのように直ぐに真琴から返事が来た。


『今朝、告白されました』


 やっぱりな、と思いつつ桃香が尋ね返す。



『それでOKしたの?』


 ちょっと間を置いてから返事が届く。



『逃げちゃいました。ごめんなさい……』



「ぷっ、きゃはははっ!!!」


 それを読んだ桃香が思わず吹き出す。

 龍之介がバイトに来てから元気がない理由が分かった。大好きな『天使様』に告って逃げられたとあっては落ち込むのも無理はない。



『龍之介君、頑張ったんだね』


『はい……』



『それで男装の件は話したの?』


『まだです……』


 桃香が考える。告白以外まったく事態は進展していない。ふうと息を吐いてメッセージを書き込む。



『次はあなたの番よ』


 その言葉を受け取った真琴に何か稲妻のような電流が走る。



『はい、分かっています』


 それは自分自身に対して言い聞かすような言葉であった。






「ただいま、マコ……」


 喫茶店で凡ミスをたくさん犯し、桃香に蹴られるように叱られ、くたくたになってマンションに帰った龍之介。その足取りは重く、いつもの前向きな彼とは程遠い。



「龍之介さん、おかりなさい!」


 そんな龍之介を真琴は一日千秋の思いで待っていた。

 とにかく早く龍之介に会いたい。会って話がしたい。ふたりで一緒に過ごしたい。だがずっとマンションで待っていた真琴に、思わぬ言葉がかけられる。



「マコ、今日夕飯はいいや」


「え? どうしてですか!?」


 真琴は龍之介に元気をつけて貰おうと、奮発して今夜はすき焼きを作って待っていた。龍之介が疲れた顔で言う。



「俺な、今朝『おさげの天使様』に告白したんだ」


「は、はい……」


 真琴の脳裏に今朝の嬉しいけど、恥ずかしくて死にそうな光景が蘇る。



「だけど、また振られちゃった」


「……」


 振ってはいない。

 ただ恥ずかしくなって走って逃げただけ。龍之介ががっくりしながら言う。



「さすがに俺の人生、これだけ振られ続けるとマジで凹むわ……」


 そう話す龍之介の目に生気はない。



「あ、あの……」


 何か言おうとした真琴に龍之介が先に言う。



「そう言えばマコ、ずっと看病しててくれたんだな。ありがとな」


「あ、いえ、大したことは……」


 龍之介が真琴を見ながら言う。



「お前が女だったらなあ、真っ先に口説くんだけどな……」



(ええ!?)


 真琴は予想外のセリフに一瞬で真っ赤になる。



「やっぱり何も考えずに突撃したのがまずかったのかな……」



(今、手を伸ばせば届く……)


 真琴はひとり悩む龍之介を見ながら思う。マコのままならこの手だって彼に伸ばせる。ただ龍之介が求めるのはマコではなく『真琴』。この帽子を、メガネを外して彼と向き合わなければならない。



「あ、あの、私……」


「ごめん、マコ。俺、先に寝るわ……」


「あっ」


 何かを話そうと思った真琴に龍之介は軽く手を上げて自室へと去って行った。



「私の番、なんだよね……」


 ひとり残された真琴は誰も居なくなった廊下をじっと見つめた。

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