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53.剛の逆襲

「あ~、疲れた」


 バイトを終え駅からマンションへの道を歩く龍之介。十月になりすっかり日も短くなり夕方の風は涼しく感じられるようになっていた。

 お腹も減って急ぎ足で歩く龍之介の後ろから自分を呼ぶ声が響いた。



「龍之介くーん!!」


「ん?」


 振り返ると後ろから金色の長い髪を左右に振りながらひとりの女性が走って来る。



「ユリちゃん」


 九条ユリ。大学ミスコンの美女。

 偶然同じマンションに住んでいることが分かった以前龍之介が恋した女性だ。ユリは龍之介に追いつくとはあはあと息をついた後笑顔で言った。


「ね、一緒に帰ろ」


「あ、ああ。いいよ」


 龍之介は少し汗をかいたユリと一緒に歩き出す。ユリが言う。



「今年の大学祭だけどさ、ユリ、またミスコンに出るかどうか悩んでるんだ」


 毎年十二月初めにある大学祭。昨年、初参加で見事一年ながらグランプリを受賞したユリ。その美しさは一年経った今でも全く変わらない。龍之介が答える。



「悩んでる? どうして出ればいいじゃん」


 ユリが後ろに手を組みながら言う。



「グランプリ獲った後って結構大変なんだよ。注目されるしストーカーみたいな奴とか現れるし」


「え、そうだったの?」


 ストーカーなどという話は初耳だ。



「うん。直接被害は出ていないけど。怖い目に遭ったことはある」


「そうだったんだ……」


 それが事実ならば安易に出場しろとは言えない。



「でもね、龍之介君が出て欲しいって言うのなら出るよ」


「え、でも……」


 少し戸惑う龍之介にユリが見つめて言う。



「龍之介君がやめろって言うなら出ない。だってユリは龍之介君のものだもん」


 そう言って体を密着させるユリ。


「ユ、ユリちゃん!?」


 慌てて身を反らそうとする龍之介。そんなふたりの耳に突然大きな声が響いた。




「ユリっ!!!」



「え?」


 思わずユリが身をすくめてその声の方を振り返る。


「新山……」


 新山剛。

 以前ユリと共に龍之介をふざけて振った男。その後自分の浮気がバレてユリに捨てられ、更に復縁を迫って龍之介の協力を仰ぎ、最終的には『ユリをこっ酷く振る』と言った訳の分からない手段で更にユリを怒らせた哀れな男である。剛が言う。



「ユリ、お前はやっぱりそんな男がいいのか?」


 ゆっくり歩きながらユリに尋ねる剛。ユリは龍之介の後ろに隠れるようにして言い返す。


「そうよ。ユリは龍之介君が好きなの! あなたと違っていつも優しいし、絶対嘘つかない!!」


「ユリちゃん……」


 間に挟まれる形となった龍之介が困惑気味に言う。剛が言う。



「三上、お前、女子高生が好きなんだろ? はっきり振ってやれよ、ユリを」


 龍之介が答える。


「ユリちゃんにはそう伝えてある。お付き合いできないって」



「別にいいの!」


 それを聞いてユリが前に出て言う。



「別にそれでいいの。いつか絶対またユリのことを好きにさせるんだから。それに龍之介君はまだその女子高生に告ってないんでしょ? ダメだったらユリと付き合えばいいから」


「ユリちゃん……」


 確かにひどいことをされたのは事実だけど、そんな風に言ってくれるユリに龍之介は一瞬心が動いた。



「なんだよそれ!!!」


 それを聞いた剛が大きな声で言う。



「俺のことが好きなんだろ? 本当は愛してるんだろ? 素直になれよ!!」


 龍之介の腕に手を絡めながらユリが答える。



「馬鹿じゃないの? あのミカちゃんって子と仲良くやればいいじゃん」


「ミカ……」


 少し前にレンカノとして来て貰ったミカ。

 もちろん時間が来れば『彼女』ではなくなるし、お金が尽きれば会うことすらできない。剛がばつが悪そうに言う。



「あ、あれは違うんだ……」


「やっぱり馬鹿ね。さ、行こ。龍之介君」


 そう言って龍之介の腕を引っ張ってマンションへと帰ろうとするユリ。ユリの幸せの為だと思って協力して来た龍之介だが、本気でユリが嫌がっていることが分かりこれ以上関わらない方が良いと判断する。

 無言でその場を歩き出したふたりに剛がスマホを取り出して言う。



「待てよ!!」


 剛の声がふたりの後ろから響く。それでも黙って立ち去ろうとすると、剛が更に言った。



「この写真、ネットに上げるぞ」


 その言葉に思わずユリが振り返る。そして剛に近付きながら震えた声で尋ねる。



「な、何の写真よ……」


 剛は近付いて来たユリに自分のスマホに映った写真を見せつける。



「うそ、なによ。これ……」


 一緒に来た龍之介がもその写真を見て驚く。



「おい、これって、まさか……」


 剛が笑って答える。



「そうだよ、ユリだよ!! ユリの()()()()写真だよ!!!」


 それはどこかの部屋で両膝を立てて座りスマホをするユリの写真。スマホに熱中していたのか無防備な格好から太ももと下着が丸見えになっている。ユリが青い顔をして言う。



「な、何よこれ……。どうしてこんな写真を? いつ撮ったのよ……」


 それは以前ユリが借りていた部屋。剛や友達を呼んで酒を飲んだり騒いだりしていた部屋。剛も呼んだことはあるがまさかこんな写真を隠れて撮っていたとは知らなかった。剛が笑って言う。



「こいつ、ばら撒いてやる!! ネットに上げてみんなにばら撒いてやる!!!」


 顔もしっかり映ったユリのパンチラ写真。大学ミスコンのユリの写真となればみんな喜んで見るだろう。今年のミスコンへの参加もできなくなる。ユリが泣きそうな顔で言う。



「やめてよ!! 消してよ、そんなの消してよ!!!」


 剛が冷たく言う。


「嫌だね。俺の女になるなら考えてやるよ」


 さすがに見過ごせなくなった龍之介が言う。



「おい、止めろよ。消せよ、すぐに!!」


 剛が龍之介を睨んで言う。



「ふざけんなよ、お前。ちょっとは信用してやったのに、裏切りやがって!!!」


 言いがかりにも程がある。龍之介が言う。



「ちゃんとユリちゃんを見て真面目に向き合えよ!! そんなんじゃいつまで経っても……」



「あー? うるせえんだよ!!!」


 そう言って龍之介の胸元を掴む剛。その手を押さえながら龍之介が言う。



「盗撮に脅迫、暴行。マジ警察行きだぞ……」


「う、うるさい!!」


 そう言って更に手に力を込める剛。ユリが泣きそうな顔で叫ぶ。



「やめてよ! やめなさいよ!!!!」


 いい加減我慢できなくなった龍之介がその手を掴みドンと突き放す。



「うわっ!?」


 龍之介に押されて思わず後ろへよろめく剛。そして持っていたスマホが手から落ち、近くの排水溝の中へと落ちる。


 ドボン!!



「あ、お、おい!! 俺のスマホ!!!」


 少し深めで大きな排水溝。濁った汚水の中に剛のスマホの光がゆらゆらと消えて行った。剛が龍之介の方を振り返って言う。



「てっめえ!! 何すんだよ!!!」


 そう言って怒りながら歩み寄る剛。身構えた龍之介だったが、その彼の前にユリが立って右手を大きく振り上げた。



 パーーーーーーーン!!!



「え?」


 ユリの右手が剛の頬を大きな音と共に平手打ちする。



「ユリちゃん……?」


 龍之介がユリを見つめる。

 赤い目、涙目になったユリが剛をぎっと睨みつけている。一瞬たじろいた剛が小さな声で言う。



「ユ、ユリ……」


 ユリが汚物を見るような目つきになって言う。



「やりなさいよ」



「え?」


 その言葉に驚く剛。



「そんな写真上げたいなら、上げなさいよ。別にいいわ、もう」


「ユリちゃん……?」


 予想外の発言に驚く龍之介。ユリが続けて言う。



「ただ、覚悟なさい。九条家は警察上部や弁護士会とも太い繋がりがある家。パパにすべて話してあなたを潰すわ。いえ、消すことだってできる……」


 冗談ではない。ユリの言葉は覚悟を決めた気迫の籠った声。真琴の朝比奈家ほどではないにせよ、この程度の脅迫ならいくらでも捻り潰せる。

 ユリの家柄、そして目の前の彼女の気迫を感じ取った剛が顔を青くして言う。



「わ、悪かったよ。やらないから、冗談だから……」


「家のPCにあるのも消せよ」


 龍之介がそう言うと剛が引きつった顔で答える。



「わ、分かってるよ。やるよ……」



「後日、パパに頼んで()()()()()に家に行かせるから」


 剛の顔が更に青くなる。



「わ、分かってるって!! 絶対やるから、ご、ごめん!!」


 剛はようやく自分が喧嘩を売った相手が悪すぎたと気付く。そして体を震わせながら逃げるように走り去って行った。




「ううっ、うわーん!!!」


 剛が居なくなった後、ユリは龍之介に抱き着きその胸で大きな声を上げて泣いた。



「ユリちゃん……」


 龍之介はそんな彼女を優しく抱きしめる。


(俺の責任でもある。あいつと一緒になってユリちゃんを落とそうとか思って……)


 龍之介は自分が剛に協力したこともその一因だと感じていた。



「うわーん、うわーん、怖いよ……」


 強がって見せたユリ。

 しかし彼女だってひとりの女の子。あんな写真を握られていて平常心でいられるはずがない。



「ごめんね、ユリちゃん。俺も悪かった……」


 ユリにそう言って謝罪する龍之介。ユリが涙を拭きながら言う。



「う、ううっ、龍之介君。今夜はユリと居て……」



「え?」


 ユリが真っ赤な目をして龍之介を見上げながら言う。



「今日ね、パパもママもうちに居ないの。ユリ、ひとりじゃ怖いよ……」


「それって……」


 驚く龍之介にユリが小さな声で言う。



「朝まで一緒にいて……」


 自分の腕の中で泣くユリ。

 龍之介を見上げて言うその目は決して冗談ではなかった。

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