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男装ガールと同棲します!!~男だと思って楽しく絡んでいた陰キャの彼女が、気が付けばめっちゃ輝いていた件~  作者: サイトウ純蒼
第三章「女の子は可愛くなる権利があるんです!」
35/70

35.カエデ、参戦??

 7月に入り梅雨も終わりが見えてくると、一気に夏ムードとなる。

 街行く人も皆半袖で、ミニスカートや短パンと言った肌の露出が多い服装が目立つ。そんな人の中でも極力肌を出さないよう気を配った服装でひとり歩く真琴。深く被った帽子は暑い街中ではやや浮かんですら見える。



(ひとりで買い物に来ちゃった。恥ずかしい……)


 普段はマンションへ直行する放課後。

 そんな彼女が意を決してやって来たのが駅前のショッピングセンター。若い人達で賑わう店内で彼女が向かったのが『水着コーナー』である。



(派手なのが多いわね……)


 カラフルな水着。

 ワンピースタイプやセパレート、派手なビキニ等こんな場所に初めて来る真琴には何をどうしたらいいのか分からない。



(水着なんて着ないのに、着ることないのに、どうして来ちゃったんだろう……)


 男装して臨む龍之介達との海。

 男である自分には誰も期待などしないし、そもそも見られることもないだろう。女性の水着を着る機会なんてないはず。なのにこんな場所へ来てしまった。



(私、何やってるんだろう……)


 水着売り場でぼうっとする真琴に店員が声を掛ける。



「水着をお探しですか?」


「あ、いえ、違うんです……」


 そう答える真琴に店員がひとつの水着を持って笑顔で言う。



「こちらなんて今年の最新のデザインで、とっても可愛いタイプですよ」


 店員が手にした水着。水色を基調とした可愛い水着で少し派手さも兼ね備えている。こんな可愛いのを自分が着てもいいのかと思う真琴。下を向いたままでいると店員が笑顔で声をかけた。


「きっとよくお似合いになりますよ」


怖かった真琴に龍之介の顔が浮かぶ。思い切って真琴が言う。



「私、あの、あまり胸がなくて……」



 店員がにこやかに答える。


「大丈夫ですよ、これなんてどうでしょうか」


 そう言って見せられた水着は首まで生地のあるハイネックタイプ。小胸でも違和感なく水着を見せられるデザイン。店員が言う。



「胸にお悩みの方でもすらっと体を綺麗に見せてくれるんですよ」


「そうなんですか……」


 この後真琴は店員のセールストークにはまり、スクール水着を除いて人生初と言える水着を買うこととなった。






「最近調子乗ってるよね、朝比奈って」


「ほんと、マジそれ!」


 令華高校放課後。

 授業を終えたカエデ達いじめっ子グループが歩きながら話していた。

 話題は自然と最近クラスでも友達を作り存在感が増してきた真琴。少し前まではいつでも苛められる対象だったはずなのに、いつの間にか教室全体で『朝比奈は苛めない』と言った空気ができつつある。



「ねえ、カエデもそう思うでしょ?」


 いじめっ子のグループのひとりが後ろを歩くカエデに言う。



「え、ああ、そうだね。本当にそう」


 はっきりとしないカエデの返事に皆が首をひねる。


「ねえ、この後カラオケ行こうよ。カエデも行くでしょ?」


 カラオケの誘い。カエデが首を振って言う。



「ごめん、私、ちょっと別のところ行くから。じゃあ」


「あ、カエデ」


 カエデは友達の誘いを断ってひとり、喫茶店『カノン』に向かった。





 カランカラン


 喫茶店のドアがゆっくり開かれる。

 店内に入って来たのは真っ赤なボブカットのカエデ。ひとりではあまり来ない喫茶店に少し緊張しながらも、目でお目当ての龍之介を探す。



「いらっしゃいませ!」


(あ、いた!)


 カウンターから声をかける龍之介に気付いたカエデが笑顔になる。龍之介が言う。




「お好きな席へどうぞ」


「あ、はい!」


 カエデは今まで一度も座ったことのないカウンター席に移動し腰を下ろす。目の前にはワイシャツに茶色のエプロンをした龍之介。いつもよりずっと近い距離にカエデが下を向く。龍之介が水を置きながら尋ねる。



「注文はお決まりですか?」


「あ、あの、アイスコーヒーで」


「アイスコーヒーですね。少々お待ちを」


 笑顔の龍之介を上目遣いでカエデが見つめる。



(三上さん、素敵……)


 恥ずかしくてカウンターに座ることができなかったのだが、初めて座るこの距離の近い席にカエデの心が躍る。



(聞かなきゃ、今日こそ聞かなきゃ、朝比奈のこと……)


 カエデの頭の中には、真琴から聞いた友達と言う話がずっと浮かんでいた。想いを寄せる龍之介と一体どういう関係なのだろうか。ただの友達なら良いのだが、それ以上何かあるのか。カエデは意を決して今日、この場所に来ていた。



「はい。アイスコーヒー、お待たせしました」


 コーヒーの香ばしい香りが満ちる店内。カエデの目の前に氷がたくさん入って冷たそうなアイスコーヒーが置かれる。


「あ、ありがとうございます」


 そう言って龍之介を見つめるカエデ。今しかない、とカエデは思った。



「あの、ちょっとお聞きしてもいいですか?」


「え、あ、はい。なにか?」


 龍之介が驚いた顔で答える。カエデが言う。



「あの、朝比奈真琴を知ってますよね。お友達なんでしょうか?」


 意外な質問に戸惑う龍之介。ただ立場は店員とお客。極力プライベートの話は慎みたい。



「ええっと、まあ、そんなところかな……」


 少し濁した回答にカエデが表情を曇らせる。ただの友達ではない、そう直感した。続けてカエデが尋ねる。



「あの、三上さんはどんな女性がこのみですか……?」


 かなり踏み込んだ質問。

 さすがの龍之介もこれには驚いた表情を隠せない。



「いや、それは……」


 お客であるカエデに仕事中、こんな話はできない。



「龍之介くーん、コーヒーみっつお願ーい!!」


 そこへカウンターへ戻って来た桃香が龍之介を呼ぶ。


「あ、はい! 今すぐ!!」


 龍之介はカエデに少し頭を下げるとすぐにその場を離れた。



(答えてくれなかった……)


 下を向き悲しそうな顔をするカエデ。

 クラスではカースト上位の彼女だが、恋愛に関しては奥手のところがあり今日こうやって龍之介に近付いたのですら随分と勇気を絞ってのことだった。桃香の隣にやって来た龍之介が小声で言う。



「桃香さん、感謝っす」


「いいのよ。でもあんまり女の子泣かせちゃだめだよ~」


「そ、そんなんじゃないですよ! きっとからかわれているだけだし」


 桃香はカウンターで下を向いて赤くなっているカエデを見て笑顔で言う。



「そうかもね~、そうなのかな~」


「な、なんですか。それって!?」


 声のトーンが大きくなるふたり。桃香が尋ねる。



「それより明後日の海だけど、天気良さそうで良かったね」


 龍之介も頷いて答える。


「そうっすね。もうすぐ梅雨も終わるけど、晴れて良かった。雨だったら中止だし」



(え、海? 三上さん、海行くんだ……)


 カエデはアイスコーヒーのガラスの付いた水滴をじっと見つめながら、ふたりの会話に耳を立てる。



「時間は10時に現地集合で良かったよね」


「はい。桃香さんのビキニ、楽しみにしてます!!」


「やだ~、そんなに見ないでよ。お金、取ろうかな??」


「払います!!」


「冗談よ~、くすくす……」


 カエデの頭に明後日の海の場所と時間が刻み込まれる。そしてカウンターにいる龍之介を見つめて思った。



(三上さんと海、私も行きたい……)


 スタイルにはそれなりに自信があったカエデ。

 今日の夕方は新しい水着を買いにショッピングセンターに行こうと心に決めた。

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