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男装ガールと同棲します!!~男だと思って楽しく絡んでいた陰キャの彼女が、気が付けばめっちゃ輝いていた件~  作者: サイトウ純蒼
第三章「女の子は可愛くなる権利があるんです!」
28/70

28.初めての距離

「それじゃあ、行って来ますー」


「ああ、気をつけてな」


 朝、龍之介はクラブがある真琴をマンションの玄関で見送った。

 無論クラブというのは男装を隠すための嘘で、駅近くの公園のトイレで女の真琴に戻ってから高校へ登校する。龍之介は朝食の皿を洗い終えてから、久しぶりに朝の講義があるため大学の準備を始めた。



「いや、もう暑いぐらいだな……」


 いつの間にか駆け足で過ぎて行った春。木々の葉の色も濃い緑に変わり汗ばむ日も多くなっている。電車で見かける高校生の制服も、気が付けば衣替えをした白いワイシャツのものが目立つ。



(今日は会えるかな……)


 最近全くと言っていいほど見かけなくなった『おさげの天使様』。

 龍之介としては同じ時間に乗っているのだがなぜか全く会えない。そして「今日こそは運命の人の顔が見られるか」と期待しながら乗った龍之介の目に、その彼女の姿が映った。



(よっしゃああああ!!! 発見、発見、天使様、発見っ!!!!)


 その奥ゆかしい少女は、いつも通り窓際の席に座り下を向いて本を読んでいる。艶のある黒髪、透き通るような白い肌。お淑やかな雰囲気に抱きしめたくなるような華奢な体。

 数日ぶりの天使様に龍之介の心は音がするぐらい強く鼓動する。




(え、あれって、龍之介さん……!?)


 そして本を読んでいた真琴も、その強すぎる視線を感じ龍之介の存在に気付く。最近少しずつ慣れて来た男装。最近は着替えるのにも慣れ、ほぼ以前の時間通りに登校できていた。



(す、凄い見られてる……)


 真琴は龍之介からの強すぎる視線に戸惑いながら本を見つめる。男であるマコの時はいわば仮面をつけた状態で割とざっくばらんに話もできるが、素である女の真琴の時は一緒にいるだけで恥ずかしくなってしまう。



(恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいよぉ……)


 龍之介が好きだと言ってくれる女の真琴。

 ただ基本陰キャで自己否定が強い彼女は、こんな暗い自分を見られて彼に嫌われるのではないかと不安であった。垢ぬけない野暮ったい女。無意識のうちに龍之介に嫌われてしまうのを恐れていた。



(ちょっと近付いちゃおうかな……)


 そんなことは微塵も思っていない龍之介は、駅に着き車内の人の流れが変わるのを利用して少しずつ『おさげの天使様』に近付く。



(わあ……、天使様可愛い……)


 真琴に少しずつ近付いた龍之介は、その清楚な姿を見て心から感嘆する。今すぐに告白して想いを伝えたい衝動に駆られたが、以前真琴にそれはやめた方がいいと言われたことを思い出し思い止まる。

 その時、電車が急に左右に大きく揺れた。



「わわっ!?」


 バランスを崩した龍之介。

 ふらつき思わず真琴が座っている真正面に移動して来てしまう。



(え?)


 真琴が目の前に立つ、その見慣れたズボンと靴を見つめる。



(龍之介さん、め、目の前に……)


 座った自分の目の目に立ち、見下ろすように立つその男。真琴は恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にして下を向く。




(て、天使様の真正面に!! ああ、なんて幸運なんだ……)


 龍之介は突然の嬉しいアクシデントに心から歓喜する。一方の真琴も予期せぬ事態に心の中で悲鳴を上げていた。



(ち、近いです、龍之介さん!! 近い、近すぎる!!!)


 自分に自信の無い女の真琴。こんな自分で嫌われたくないと思う気持ちと、恥ずかしさが彼女の体を強張らせる。

 女の真琴に龍之介。初めて手の届く距離に近付いたふたりは少しだけ周りの時間が止まったかのような錯覚を覚えた。






「あ、真琴。ボール行ったよ!!!」


「え?」



 ドン!!


「きゃあ!!」


 令華高校、バレーの授業を行っていた真琴達。

 ぼうっとしていた訳じゃないが、運動神経がない真琴は飛んできたボールに当たりそのまま床に倒れた。



「だ、大丈夫!? 真琴」


 慌てて友達の亮子が駆け付ける。

 ボールが頭に当たった真琴はそのまま床に座り込んでいるが、その手は頭ではなく足首を押さえている。



「いたたたっ……」


 真琴の顔が苦痛に変わる。亮子が尋ねる。



「どうしたの? 足?? 頭じゃなくって??」


「うん、足を捻っちゃったみたい……」


 真琴はそのまま亮子に肩を貸して貰い体育館の隅へと移動する。その後担任がやって来て足を確認。亮子と一緒に保健室へ行くこととなった。




「大丈夫、足?」


 保健室にやってきたふたり。取りあえず湿布を貼って様子見となった。真琴が答える。



「うん、ちょっと痛むけどなんとか……」


 真琴は湿布と足に巻かれた包帯を見て溜息をつく。亮子が言う。


「運動苦手だよね、真琴って」


「うん、そうだね……」


 それに苦笑して答える。亮子が尋ねる。



「ねえ、真琴。話は変わるけどさ、この間『演劇祭』に来ていた男の人、あれって誰なの?」


(え?)


 真琴はすぐにそれが龍之介のことだとすぐに分かった。



「だ、誰って……」


 口籠る真琴に亮子が尋ねる。



「彼氏、とか??」



「え、ええっ!?」


 突然の言葉に顔を真っ赤にして真琴が答える。



「ち、違うって!! 違う違う。ただのお友達!!」


 亮子がちょっと疑いの表情をして聞き返す。



「え~、ただの友達? その割には親しそうだったし、真琴のその否定の仕方も変だよ~」


「違う、違うって。本当にただのお友達なんだから!!」


 そう言いながらも手に汗がにじみ出し顔は真っ赤になる真琴。亮子が尋ねる。



「どこまで行ったの?? 手、繋いだ? 一緒にご飯食べた? デートした? 手料理振舞ったとか? もしかしてもう一緒に暮らしているとか??」



(ぜ、全部やってる……)


 まさかそんなことは言えずに真琴はただただ顔を赤くしてそれを否定し続けた。






「お疲れ様~、龍之介君」


「あ、お疲れっす。桃香さん!」


 喫茶店『カノン』のバイトに行った龍之介が先に来ていた先輩の桃香に挨拶をする。桃香はピンク色の髪を色っぽくかき上げながら龍之介に言う。



「暑くなって来たよね~」


「そ、そうですね……」


 そう答えながら龍之介は真っ白いブラウスの下に透けて見える桃香のピンク色の下着に目を奪われる。そんな視線に気付いているのかいないのか桃香が近付いて言う。



「そうね~、そろそろ夏服にしようかな~」


 そう言いながら桃香が自分の胸の辺りを触る。龍之介は少し目を逸らしながら言う。



「あ、そう言えば、俺また教習所に行くことになったんで、少しバイト入れなくなっちゃいます」


「教習所? ああ、自動車の学校ね。また通うんだ」


 桃香が思い出したように答える。



「ええ、ちょっとバイト代が自由に使えることになったんで、もう取っちゃおうかと」


「免許取ったらさあ~、誰を助手席に乗せるのかな~??」


 桃香が更に近付いて尋ねる。龍之介が少し後ずさりして答える。



「誰って、乗せたい人はいるけど、ちょっと無理かな?」


「誰? あたし??」


 桃香が今度は顔を近づけて言う。甘い香水の香り。近付くだけで感じる桃香の体の熱気。龍之介は甘い桃色の縄で縛られたような感覚となり体が動かなくなる。



「あ、いや、乗せたい人って女子高生で……」


 自分とは違うと分かった桃香が少し下がって残念そうな顔で言う。



「あ~あ、そうなんだ。ざ~んねん。で、その女子高生って、()()ちゃんのこと?」



「え?」


 思わぬ名前が出た龍之介が驚く。そしてすぐに言う。



「な、なに言ってんすか! マコは男っすよ。そんな訳ないじゃないですか」


 龍之介が笑って答える。

 桃香はそれを腕を組んで聞き、頷いてから言う。



「そうね、そうよね。さ、仕事始めるわよ」


「あ、はい……」


 龍之介は再び髪をかき上げながら店内に向かった桃香の後を黙って付いて行った。






「ただいまー、マコ」


 バイトを終えマンションに帰った龍之介が部屋に入る。


「あ、おかえりなさい。龍之介さん」


 真琴はリビングに足を差し出しながら座っている。その白く細い足首には包帯が巻かれており、それに気付いた龍之介が驚いて言う。



「あ、どうしたんだ、それ? 怪我したの??」


 真琴が苦笑いして答える。


「ううん、そんな大したことないよ。体育の授業中に捻っちゃて、湿布貼ってるだけ」


 そう答えたものの、真琴自身学校からマンションまで帰って来るのに足の痛みに我慢しながら随分と時間がかかってしまっていた。龍之介が荷物を置いて真琴の足の傍で腰を下ろし、そっと足首に触れる。



(きゃっ!!)


 真琴が一瞬ビクンと体を震わす。龍之介が言う。



「あ、ごめん。痛かったか?」


「あ、いや、ちょっと驚いただけ……」


 真琴が顔を赤らめて答える。



「医者は行ったの? レントゲンとか」


「あ、そこまで酷くないよ。私、痛がりだから」


 真琴が苦笑して答える。だが次に龍之介が言った言葉に真琴の体が固まった。



「お風呂入り辛いだろ? 俺、()()()()やるよ」


 真琴は一瞬、胸やお尻を隠しながら入浴の介助を受ける自分の姿を思い浮かべてしまい、顔から足まで全身真っ赤になってしまった。

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