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忘れていたこと

 初めて女子の制服を着てからはや五日。

 夏休みも終盤に差し掛かった。

 俺は今まで忘れていたことを思い出した。

 そう、膨大な量の宿題だ。

 何で今まで忘れていたのだろう?

 ずっと机の上に綺麗に並べて分かりやすく乗っけておいたのに……。

「あぁ、もう! どうすればいいんだぁ……」

 俺は昨日由奈姉さんに買ってもらった薄手の白いワンピースを着て、机に座っていた。

 どれから手をつけたらいいのか?

 膨大な量の宿題を前に、俺は固まってしまった。

 ひとまず一番上にあった数学の問題集を手に取った。

 パラパラとページをめくる。

 まだ俺が男だったころの強いカクカクとした筆跡で問題が解かれていた。

 何だ、終わっているじゃんか。

「よし、終わってる」

 俺は一通りの宿題に目を通して、終わっているものとそうでないものを分けることにした。

 すると、半分以上の宿題が終わっていることが分かった。

 助かったぁ。

 でも、残っていた宿題は、どれもめんどくさいものばかり。

 英語:単語練習…ノート一冊(残り十二ページ)

 社会:江戸時代についてのレポート三枚…(残り一枚)

 美術:この夏の思い出のスケッチ

 音楽に至っては、曲を作ってくること

 

 ……。

 家にピアノねーし。

 

 でも、こんなこと言ってられない。

 二学期の始業式は四日後なのだから。



 -六時間後-



 何とか音楽以外の宿題は(奇跡的に)終わった。

 もう、手の感覚がほとんどない。

 あっという間に昼になってしまった。

「由紀ぃ~! ごはんだよ~!」

 由奈姉さんだ。

 もう昼御飯か。そういえば朝から何も食べていなかったんだ。

「……はぁーい」

 疲労感丸出しの声で俺は返事をし、俺は危なっかしく階段を下りていった。

 そんな訳で、昼食タイム。

 俺は由奈姉さんに今の宿題の状況について説明した。

 そして、音楽の宿題のことも言った。

「ふーん。そんならピアノ使えばいいじゃん」

 何を言い出すんだ突然。俺は言う。

「家にピアノないでしょ」

 俺の言葉を鼻で笑い、由奈姉さんはリビングを指差し、一言。

「じゃあ、あれは何?」

 俺は指の向いてるほうを見て、「あっ」と驚く。

 そこにあったのは、新品のキーボード。

「どう? 私、ピアノ練習しようかと思って由紀が宿題してるときに買ってきたのよ」

 由奈姉さんはそう言って微笑む。

 というより、本当にピアノを弾こうと思っているのだろうか?

 あの姉さんが? 不思議でたまらない。

 とにかく、音楽の宿題をやらないという心配は消えた。

 だが、一つ気がかりなことが。

「使って……いいの?」

 俺の声は震える。

 これで許可が下りなければ元も子もない。

 だが、姉さんは優しかった。

「いいよ。思う存分使いなさい」

 由奈姉さんは言った。

 俺は椅子から立ち上がると、由奈姉さんのところへ行き、抱きついた。

「ありがとう! ありがとう姉さん」

 なぜか嬉しさと姉さんの優しさから、俺の目から涙がこぼれる。

「泣くことないじゃない。さあ、パパッと仕上げちゃいましょう」

 姉さんはそう言って、泣いている俺の頭を撫でて、キーボードの前へと誘う。

 俺は泣き止み、赤く腫れた目でキーボードを操作していく。

 楽しくて、笑顔がこぼれた。


 -30分後-


「できたー!」

 曲は見事に出来上がった。

 曲名は『水辺の天使』。

 なかなかの出来だと思う。

 何だか、ベートーベンに勝った気がする。

「おつかれ」

 姉さんの一言が心地よい。

 きっと、この曲は姉さんが居なければ出来なかったと思う。

 というか、俺が男だったとき、こんなに優しかったっけ?

 まあ、いいか。

「姉さん、ありがとう」

 俺は姉さんに感謝の意を述べ、自分の部屋に戻った。

 机の上に先程完成した曲を置いた。

 これで、無事夏休みの宿題は全部終わった。

 宿題が終わった安心からかため息が漏れた。

 ……ん、まだ何か忘れているような。

 俺はその「何か」の正体を突き止めることができなかった。

 きっとそのうち思い出すだろう。

 そう考えて、俺はベットに横に横になる。

 俺は顔に掛かった髪の毛をどかす。

 白い天井が見える。

 まるで雲のようだ。

 ふわふわとしていたのなら、尚更いいのになぁ。

 あっ、なんだか眠くなってきた。

 なので、俺は目をつむって昼寝をすることにした。

 窓から日の光が差し込む。

 まぶしく思ったので、薄手のカーテンをサッと閉めてみた。

 全部閉めると、熱くて眠れなくなるから、わざと少しあけておいた。

 少しあいているので風が入ってくる。

 涼しくて、気持ちいい。

 俺はあっという間に夢の中へと落ちていった。


 しばらくの後、姉さんが部屋に入ってきた。

 そして、俺が寝ているのに気がつくと、「かわいい寝顔」と呟き、部屋を後にした。

 もちろん、俺は熟睡していたので気づかなかったのだが。


七話目です。


※12月21日…内容を大幅に編集しました。

※2011年1月30日…構成を編集しました。

※2011年10月17日…表記を変えました。

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