新しい名前
気を失ってから暫くの後、由奈姉ちゃんが目を覚ました。
そして、目を覚ました直後の第一声。
「裕樹、これから緊急会議をはじめるわよ!」
「はっ?」
突然のことに、俺はただ口をあんぐり開けるだけ。
そんな俺を尻目に、由奈姉ちゃんは言葉を続ける。
「議題は、”女になった裕樹の今後”です」
いきなり俺の名前が議題に登場したので、俺は一言物申す。
「由奈姉ちゃん、”今後”って言ったって別にいいから。……あ、今日友達とカラオケ行くんだった。着替えないと。……あっ!」
そこで俺は由奈姉ちゃんの言いたいことがわかった。
つまり、俺は今”女の子”。
だが、今家にある俺の衣服はすべて”男の子”用。
要するに、着る服がない!
「ようやくわかったみたいね?」
由奈姉ちゃんが言う。俺はそれに泣きつく。
「由奈姉ちゃん、助けて!! 俺、この先、どうしたらいいのぉ……」
「だぁ~うるさい! それを今から話し合うんでしょうが!」
それを聞いた俺は、藁にもすがるような思いで話し合いに臨んだ。
「まず服ね。今日のカラオケは諦めてもらって、裕樹の新しい服を買いに行きましょう。そのときに、ブラのサイズも測らないとね」
最後に付け加えられた言葉を聞いた俺はたまらず一言。
「何で俺がブラジャーしなきゃいけないんだよ!」
俺のブーイングを受けて、姉さんは「そりゃあ」とさも当たり前のように言った。
「女の子はブラジャーしないといけないの。わかった?」
由奈姉ちゃんの一言に、俺は「何故?」と切り返す。
すると、姉ちゃんは言った。
「じゃあ、裕樹は世の男性方に襲われてもいいの?」
「うっ」
いやだ。それだけはいやだ。
「嫌ならしなさい、ブラジャー」
「う~(ガクッ)」
結局由奈姉ちゃんの言葉に負けた俺は、ガックリと肩を落とした。
一方、姉ちゃんはブツブツ何かを呟いていた。
「そして、学校の制服も。女の子用のを買わないと……」
その呟きが俺の耳に入ると、俺ははっとした。
そうだった。学校に行くためには、女の子としていかないとだめなんだ。
女の子の制服着るのか、やだなぁ。
「以上で会議は終了ね。裕樹……いや、由紀。服買いに行くよ。さっさと準備して!」
了解しまし…た……?
「おぉぉぉい! 待て、何で俺の名前は裕樹だぞ! 何で由紀なんだよ!?」
由奈姉ちゃんは、平然と言う。
「だって、裕樹じゃ男の子でしょ? 今の裕樹は女の子なんだから、女の子らしい名前にしないと。ほ ら、由紀。早く準備して」
何だか、姉ちゃんの言葉を聞いていると、とてもむなしさがこみ上げてくる。
そして、悲しさも。
ああ、男に戻りたい。
でも、戻れない(というか、戻る術を知らない)。
俺は仕方なく『由紀』という新しい名前を受け止めることにした。
”さようなら、裕樹君。よろしくね、由紀さん”
俺は心の中で、嘆くように言った。
四話目です。
※12月15日…内容を大幅に編集、追加しました。
※12月20日…内容を少し追加し、文章表示を変えました。
※2011年1月30日…構成を編集しました。
※2011年10月17日…表記を変えました。